【小宮良之の日本サッカー兵法書】ポゼッションで勝ちたいなら、時にポゼッションを放棄せよ!

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<ポゼッション型のチームが、試合立ち上がりから強烈なプレッシングを受け、どうにも挽回できない>
 
 それは、しばしば見られる展開のひとつである。
 
 ビルドアップで必死に繋ごうとするものの、バックラインからフタをされ、苦し紛れにパスを送ったところをインターセプトされる。どうにか攻撃を防いで、再び繋ごうとするのだが、やはり敵陣までボールを運ぶことができない。
 
 攻めては奪われ、を繰り返しているうちに、ショートカウンターを鮮やかに決められて失点。その後はリズムを失い、なし崩しに試合のペースを失う――。
 
 Jリーグでは、風間八宏監督が率いた川崎フロンターレ、吉田達磨監督が率いた時の柏レイソル、欧州ではエウセビオ・サクリスタン監督のレアル・ソシエダ、パコ・ヘメスが指揮した時のラージョ・バジェカーノに似た傾向がある。
 
 武器であるはずのポゼッションが弱みに……。「後の先を取られる」形だろうか。
 
 では、強度の高いプレッシングでアグレッシブに迫ってくる相手を打ち破るには、いかにするべきか?
 
 北風と太陽のようなものか。
 
「Repliegue Intensivo(集中的撤退陣)」
 
 スペインの指導者養成では、対処のひとつとして教えられる。
 
 相手の覇気を見抜き、一旦は自陣まで引き、ブロックを敷いて、無理に繋がない。相手の攻撃を受け止める時間を作り、仕掛ける戦術策をいなしていくということだ。
 
 アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督は、この「Repliegue Intensivo」の名手。試合の流れで相手の呼吸を見極め、奮起してボールを追ってくる相手の気を逸らし、まずは足を使わせ、陣形が乱れたところで、一気に攻撃的陣形に転じる。
 
 もっとも、ボールを繋ぎ、運ぶというように、攻撃的にデザインされたチームの選手たちは、受け身の戦いへの変化に躊躇いがある。選手としてのキャラクターも、守備で相手を受け止めることに適さない場合が多い。
 
 しかしながら、世界中で繋ぎ切れるチームは、バルセロナ以外は存在しないだろう。そのバルサですら、アンドレス・イニエスタ、リオネル・メッシのふたりがいなかったら、それは成立しないのだ。

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 相当な力の差がなかったら、試合を通じてポゼッションを貫くことは能わない。パスワークへの陶酔は危険。やはり、時間帯によっての「Repliegue Intensivo」は有効な手立てとなる。
 
 結果として同じように見えたとしても、「自ら退いて陣形を作る」のと、「押し込まれて守勢に回る」のでは、雲泥の差がある。戦術として退いているのか。そこにポイントがある。
 
 下がらざるを得ず、相手に引き回される状態は、精神的、肉体的にひどく疲弊する。攻められ続けるなか、弱いゾーン、もしくは選手があぶり出されてしまう。とりわけ、腹背(ふくはい)に隙は生まれやすい(攻める側としては、横槍を入れるサイドアタックが有効となるだろう)。
 
 弱い部分を集中的に攻められると、やがて綻びが生じ、それは全体に伝播していくのだ。
 
 一方、自分たちで選択する「Repliegue Intensivo」は、基本的に相手を引き回している。能動的な状態で、むしろ相手の後の先を取れる。敵を自陣不覚に追い込み、背後にカウンターを食らわせる。心理的に、風下に立っていない。
 
 そうしたやりとりをしていくなかで、相手が自陣に閉じこもったら、伝家の宝刀のポゼッションを発動する。食いつかせてはギャップを生み、相手を攪乱し、籠絡するのだ。
 
 守備戦術も縦横に使いこなせてこそ、めくるめく鮮やかなボールゲームによって勝利をもぎ取ることができる。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、2016年2月にはヘスス・スアレス氏との共著『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)を上梓した。

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