【特集】「移住」で青い鳥は見つかるか

行政は地方活性化狙う

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千葉県・館山市に移住した漆原秀さん。後方に見えるのは、DIY型物件として開発中の「館山ミナトバラックス」=3月下旬
生涯活躍のまち推進協議会が設ける「移住促進センター」(東京都中央区)にあるイメージ図
千葉県・館山市のNPO「おせっ会」の八代健正理事長

 「移住」という生き方が注目を集めている。「あくせくとした都会を離れ新たな仕事や人生にチャレンジ」。「退職後は田舎でのんびり」。地方を目指す動機はさまざま。一方、人口減少や高齢化で「消滅」の可能性すら指摘される地方自治体は、呼び込みに懸命だ。そこに“青い鳥”はいるのか。

 ▽もっと楽しく

 「ここに来て悪いことは何もない。いいことばかりだね」。千葉県・房総半島の突端にある館山市の漆原秀さん(47)は妻(45)と語り合った。きれいな海、美味しい食べ物、自然の中での子育てを求め昨年12月に移住。館山では、築38年の閉鎖官舎を買い取り、借り主が内部を改装できる「DIY(ドゥ・イット・ユアセルフ)型」の賃貸物件に生まれ変わらせ、地域活性化につなげる仕事を手がける。

 IT企業勤務を経て自ら会社を設立。収入は「サラリーマン時代の3倍」になったが「IT疲れ」し、10年前に館山に土地を購入。しかし、母親の病気と他界、リーマンショックによる業績不振と離職、再就職など曲折が重なった。

 新たな会社では重圧からうつ病やパニック障害に近い状態にも陥り、給与以外の収入をと不動産投資を開始。保有物件で取り組んだDIY改装が雑誌などで注目され「これを仕事に」と移住を決意。「いろんな点と点をつないで自然とここに来た」という10年だった。

 館山市にある移住促進のNPO「おせっ会」を運営する八代健正理事長(48)は「漆原さんの例は特殊に見える。でも『もうちょっと楽しく生きたい』という根本はほかの移住者と同じ」と話した。

 ▽都会のステータス

 移住情報専門誌「TURNS」の坂本二郎編集長(51)は「2011年の東日本大震災を契機として30~40代の若い人が動くようになった」と指摘する。それまで移住や田舎暮らしというと、退職前後やシルバー世代向けと捉えられていたが、こうした流れを受け、震災翌年に同誌を発刊した。

 坂本編集長は「地方の魅力がアップしたというより、都会のステータスが落ちたのが要因」と語る。震災では、東京でも食料や飲料水が入手しづらくなり、電車が止まり帰宅できないといった状況が発生。安全・便利とされる大都会のシステムへの信頼が揺らいだ。さらに都会で働くことで当然のように導かれていた人生設計や一日の行動パターンも、自分の好きなようにデザインしていいんだという価値観の変化も広がった。

 今でも東京圏には年間数万~10万人の人口流入が続く。ただTURNSと自治体が企画する移住ツアーなどのイベント数も月数回ペースに増加。坂本編集長は「移住を選択肢に入れている人は確実に増えている」と実感を込めた。

 ▽ターゲット

 「地方創生」を掲げる政府は「生涯活躍のまち」(日本版CCRC)構想を推進。都会に住む高齢者が健康なうちに地方へ移住し、コミュニティづくりに参加してもらうという内容。国はそうした対象者を「アクティブシニア」と表現。企業などで積んだキャリアを地方で生かしてもらおうという狙いだ。

 しかし期待したほどの実績は上がっていない。15年から活動を始めた一般社団法人「生涯活躍のまち推進協議会」の芳地隆之事務局長(54)は「アクティブシニアというような人は既に人生設計があるケースが多くなかなか移住につながらない。移住する可能性が高いのは、年金の目減りや子育てと仕事の両立など首都圏での暮らしで困っている人たち」と語り、ターゲットを絞り込む必要があるとの見方を示した。

 ▽文化的共感

 「おせっ会」の八代理事長は「国が語る移住促進は遅れている」と両断。同会も09年の活動開始当初は退職前後のシニア世代受け入れが念頭にあった。「ところがシニア層は『移住してあげる』という感覚で『税金を優遇しろ』とか要求ばかり」。会では「これでは町づくりにならない」と早々に方針を転換した。

 「就農でも子育てでも起業でも、明確なビジョンを持ち『館山に来たい』という人の発掘と応援」が基本スタンス。これまでの移住者は約350人。東京から比較的近い地の利を差し引いても驚異的な数字だ。

 「人口減・過疎化の抑制」「介護問題の解決」などは国家的な課題だ。しかし理念先行では、なかなか地方活性化という成果は上がらない。「TURNS」の坂本編集長は「(移住促進の)制度や補助金は決定打にならない。そこにどんなライフスタイルがあるかという文化的な共感がないと人は動かない」と言い切った。(共同通信=松村圭)

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