もう負けは許されない 選抜準Vの履正社、夏の甲子園出場に必要なものとは

高校野球春季地区大会大阪予選の5回戦で、選抜準Vの履正社は東海大仰星に8-9で敗戦。初回から目まぐるしく動いた試合は、最後の最後にひとつの“差”が勝敗を分けた。

高校通算53号を放ちながら5回戦敗退した履正社・安田尚憲【写真:沢井史】

春は5回戦敗退で現チームで初めて決勝逃す、続けてきた見えない“敵”との戦い

 高校野球春季地区大会大阪予選の5回戦で、選抜準Vの履正社は東海大仰星に8-9で敗戦。初回から目まぐるしく動いた試合は、最後の最後にひとつの“差”が勝敗を分けた。

 1回表の履正社の攻撃。1死満塁のチャンスで5番・浜内太陽の犠飛で先制した。だが、すぐさまその裏に東海大仰星が2番・後藤生海の2点本塁打で逆転し、さらに7番の津沢大星の適時打で1点を追加。しかし、2点ビハインドの3回表に3番・安田尚憲の高校通算53号となる2点本塁打で同点とし、そこから小刻みに加点した履正社が優位に試合を進めているようにも思えた。

 履正社の先発マウンドは2年生右腕の位田僚介。初回に3点を失いはしたが2回以降は立ち直り、5回までは1人も走者を許さなかった。だが、6-3で迎えた6回裏にヒットで出塁させた走者を味方のエラーで還し、2点差に。7回からは同じ2年生の期待の左腕・岡田龍生(りゅうい)投手が登板し、7回を3人で抑え、必勝態勢に入ったかと思われたものの、8回に3ランを含む4連打を浴びるなど5失点。2点差とされた9回表、白滝恵汰がソロ本塁打を放って1点差とし、最後まで追い詰めながら、あと1点が届かなかった。

 履正社は現チームになってから出場する大会ではすべて決勝戦まで戦っている。秋の大阪大会、近畿大会、明治神宮大会、そして先月幕を閉じた選抜大会。昨夏の甲子園に出場し、新チーム結成が遅れたとはいえ、公式戦を重ねながら着実に力をつけてきた。センバツ大会でも優勝候補と評されながら、初戦で日大三を激戦の末下すと、接戦をものにし、決勝まで勝ち上がった。最後はライバルの大阪桐蔭に敗れたが、常に注目の的とされながら力を発揮してきた。対戦相手だけではなく、見えない“敵”との戦いでもあった。

突き詰めていく材料は山積、「どう夏へ向かっていくか」

 ただ、選抜大会で結果を残すと、春の大会での戦い方は難しい。「一度登った山を下り切って、(夏に向け)さらに高い山を目指す」とは選抜で結果を残した監督がよく言う言葉だが、まさにそうだ。選抜の結果は夏の戦いにはまったく優遇されない。だが、選手たちは選抜で戦い抜いた“余韻”をどこかに残したまま夏に向かわなければならない。「切り替える」「選抜のことはもう忘れる」と口では言っても、心や頭の片隅には残像があり、それが行く先を邪魔することもある。

 選抜の決勝で敗れたあと、履正社ではミーティングをする回数が増えたという。オフの時間も使って、全員で向き合い今後のことについて議論を重ねてきた。岡田龍生監督も「気が抜けたとか、練習に力が入っていないとか、そういう場面はない」とは明かしたが「それでも(外野の落球など)ミスが失点に繋がっていましたからね……。投手層の薄さも出てしまいましたが、ああいうところでミスが出るようでは」と表情を曇らせた。

 発展途上だった秋はそれでも勝ち進んで来られた。その要因は「たまたま失点に繋がらなかっただけ。でもこの春はほとんど失点に絡んでいるんです」と松平一彦部長は話す。秋には何とかなったことでも春は通用しない。自分たちが選抜を見据えて過ごしてきた冬の間に、周囲は夏だけを見つめて追い込んでレベルアップし、勢いを増す。昨年のチームは冬に蓄えたパワーをいかんなく発揮し、春の大阪、近畿、そして夏の大阪までも制した。だが、今は日本一どころか夏の甲子園を目指すためにもっと突き詰めていく材料が山積している。

 この春の大会はエースの竹田祐がマウンドに立つことはなく、投手層の底上げもテーマだった。投手陣の踏ん張りも夏の戦いのカギとなるが、それ以上に履正社に必要なものは全員が相手にぶつかっていく気迫や気持ちなのかも知れない。パワーや技量だけでなく、1本勝負の夏に戦うためにどんな姿勢で立ち向かえるのか。今夏は例年以上にヒートアップした戦いになるため、気持ちの強さ、ブレなさ、そして“組織力の高さ”が勝敗や流れを左右することもある。

「ここで頭を打って、どう夏へ向かっていくかだと思います。ミーティングを増やしても、春に結果に繋がらなかったということはまだまだなんだと思います」と若林将平主将。志半ばとなった春の戦いを終え、残す公式戦は夏のみ。もう、負けは許されない。

沢井史●文 text by Fumi Sawai

© 株式会社Creative2