【特集】かわいく変身?茨城弁

使って残そう、方言は宝

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「しみじみ楽しく茨城のことば」から
茨城大の杉本妙子教授
茨城県の橋本昌知事(左)を表敬訪問した、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」ヒロイン役の女優有村架純さん=2016年10月、茨城県庁

 「茨城弁ってかわいいじゃない」。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」を見たという知人に言われて驚いた。

 えっ、かわいい?!

 尻上がりのイントネーションに「だっぺ」「ごじゃっぺ」「どうすっぺ」。うーん…かわいく聞こえるのは、かわいい女優さんが使っているからじゃないか―?と、ついいぶかってしまった。

 だって、故郷を離れて30年。拭っても隠してもべったりとつきまとう茨城なまりは、今だって油断するとひょっこりと現れて私を悩ませる。かわいいなんて思ったことはなかったのだ。

 もしかしたら全国的に、方言という存在自体が変わりつつあるのではないか―と思い、研究者に会いに行ってみることにした。

 ▽バイリンガル

 「方言は明らかに衰退しています。30年ほど前に『このままいくと50年後には方言はなくなる』と言われる状態でした」と話すのは茨城大人文社会学部の杉本妙子教授(日本語学)。

 都市部への人口集中に加え、核家族化で世代間の会話の機会も少ない。方言の使い手も担い手も減り続けている。しかしそれだけではないようだ。

 「若者だけでなく高齢者も、人前では共通語、親や祖父母とは方言、都会から来た孫には共通語などのように、共通語と方言を使い分けています」。目上には敬語、仲間内ではくだけた物言いというのと同じように、自然に使い分けるバイリンガルなのだという。

 杉本教授は「茨城をはじめとする関東地域は敬語が発達していない地域です。そこで、日常語である方言に対して、共通語が敬語として機能してきました。このような地域では、方言よりも共通語の方が格上と感じて共通語にシフトしていくのは自然な流れです」とみる。

 ▽鳥のはずが…

 格上という言葉にドキッとした。大学時代、東京で茨城なまりを隠そうと必死になったことを思い出した。コンプレックスだった。まさに方言は格下だと思っていたのだ。

 「茨城方言は、共通語のベースになった関東方言に属しているので、語彙や文法などには共通語との違いがあまりありません。平板なアクセントや、尻上がりのイントネーションは自覚しにくい。だから共通語との違いに気付かないことも多いです」。

 確かに、自分がなまっているとは思っていなかった。降る「雨」とお菓子の「アメ」の発音は違うと言われても「どっちも『あめ』だっぺよ」と尻上がりに笑い飛ばしていた。

 東京で、鳥のインコを尻上がりに「コ」を強めて言ってしまい、友人だけでなく通りがかりの人からも笑われてしまったこともある。女子大生が街中でいきなり「淫行」と発音したら、それは驚くだろう。

 そんな茨城方言も今や若者世代では、共通語との使い分けが顕著でなくなるほど特徴が薄まってきたそうだ。身勝手だが寂しい気持ちになる。

 ▽方言は、宝

 でも、方言は血となり肉となって体中に染み渡っている。ましてなまりを完全になくすのが難しい茨城方言なら、簡単には消えないのではないですか?―と尋ねると、杉本教授は心配なデータを教えてくれた。国立国語研究所の分析(2012年)によると、茨城は、自分たちの方言が好きではなく、関心も低く、残らなくてもいい方言だと思う人が多い地域だったのだ。「全国的に方言が消えつつある中で、担い手が方言を残すことに消極的であればなおさら危うい状況です」

 杉本教授は、東日本大震災の被災地の方言を残そうと、茨城県での調査や取り組みを重ねている。茨城方言での昔話の会を開いているほか、若者に関心を持ってもらおうと、茨城方言のテキスト「しみじみ楽しく茨城のことば」も作成し、県内の中学校などに配布している。方言があることに自信を持ってほしいと考えている。

 「なんだか面白い言葉だねと話題になる武器だと思ってほしい。共通語ではないもう1つの言葉が話せるということは宝です。持ち腐れにせず、会話を楽しんだり場を和ませたりするのに方言を使ってもいいのではないでしょうか」と話す。

 コンプレックスだった方言が、宝だなんて。よし、自信を持って尻上がりに言ってみることにしよう。茨城弁、がんばっぺ!(共同通信=小森裕子)

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