【世界から】日本人の秘密知りたい

「生きがい」本が欧州で人気

画像
「IKIGAI」の表紙
画像
著者2人が沖縄に滞在したときの様子(エクトル・ガルシアさん提供)

 この4月、スイス・チューリヒの大型書店で、2匹のコイの表紙絵の「IKIGAI」というドイツ語の本を見かけた。「IKIGAI」とは日本語の「生きがい」のことだ。本書をめくると、生きがいの言葉の説明が書かれ、この本を読めば、あなたの生きがいを見つけられるでしょうと、うたっている。なぜ日本人は長寿なのか、その不思議にヨーロッパ人の目線で素朴に迫り、生きがいが長寿と関連していることをつづっている。この本が今、「私も生きがいを見つけた」「とても参考になった」「本書のおかげでストレスが減った」と共感を呼び、人気となっている。

 ▽沖縄でインタビュー

 3月初めに出版された本書は、スペイン語の本(2016年4月刊)の翻訳だ。著者はスペイン出身の男性2人で、フランセスク・ミラーリェスさん(1968年生まれ)とエクトル・ガルシアさん(1981年生まれ)。

 ミラーリェスさんは多言語に訳されている著作も持つ作家で、バルセロナに住んでいる。一方、10年以上東京に住んでいるガルシアさんはコンピュータ業界でプロとして働くかたわら、趣味で日本文化に関する本を出版してきた。

 本書は、2人が日本で行った調査を交えていて興味深い。

 調査とは高齢者たちへのインタビューだ。2人は、沖縄本島の北部の村、「長寿日本一」を宣言している大宜味村に家を借りて滞在し、村民の生活に入り込んで話を聞いた。

 ▽日本式長寿の秘訣

 インタビューからひもといた「長生きの秘訣」とは、端的に言うと3つ。食生活と運動と生きがいだ。

 食生活では、腹八分にすることや、特定の食事法(魚、緑の野菜、大豆製品を多く食べる、米は少なめに食べるなど)、お茶(さんぴん茶)を飲む習慣などを指摘している。運動の面では、ゲートボールを楽しみ、ほとんどの人が、ラジオ体操や太極拳などの適度な運動を毎日実践していると紹介している。

 生きがいに関しては、畑仕事を趣味としている人が多いこと、カラオケに行ったりお互いに誕生会を開いて祝ったりして周囲の人たちと盛んに交流していることなどを挙げ、日々の生活で精を出して続けている活動が「生きがい」だと書いている。

 そして、インタビューした人たちの言葉をたくさん引用しながら、「心配しないで過ごす」「自分なりの習慣を持つ(早起き、毎日散歩、好き嫌いなく食べるなど)」「近所の人や友だちと会う」「ゆっくりしたテンポで生活する」「楽観的でいる」の5項目が長生きと関係しているとまとめている。

 さらに、読者が実践すべき、生きがいにつながる姿勢も示している。

 「いわゆる定年の時期を過ぎても、ずっと活動的でいましょう」

 「いい友だちと交流しましょう」

 「ニコニコしていましょう」

 「定期的に、自然に触れましょう」

 「1日1回、感謝するひとときをもちましょう」

 ▽ストレス解消法

 健康で長生きするには、ストレス解消も関係しているからと、日本人のストレス軽減法も紹介している。ヨーロッパ人から見ると日本人は働き過ぎだ。私の周囲からも、「そんなに長く働いても大丈夫なのか?」といった声が聞かれる。本書では次のように、日本人が仕事の疲労を回復する工夫を挙げて、ストレスをうまく解消していると提示する。

 「長く風呂に入る(音楽を聴いて気分転換する。特別な入浴剤で筋肉の疲れをとる)」

 「部屋や机の上の整理をする」

 「頭をマッサージする」

 日本人からすると当たり前のことのように思うが、読者たちは「なるほどね」「やはり、日本人には入浴が大切なのだな」などと感心するに違いない。

 ▽東欧語圏にも拡大

 本書ではインタビュー以外の情報も得られる。沖縄のほかに世界で長生きしている人たちが多い地域を紹介したり、西洋と日本の精神・心理療法を比較したり、「TAKUMI」(匠)という言葉を出して、日本人が仕事において技能を極めることを重視する、すなわち、「匠」の精神が生きがいにつながっているという点も述べている。

 全体を通して重複する箇所はあるが、具体的なことがたくさん書いてあるので読みやすい。心身を健やかに保つ各種の方法は、もちろんヨーロッパで流布している。

 それらと類似する点もあって、本書を健康本と見ると、もしかしたら真新しさは少ないかもしれない。でも、日本人の生活観や人生観を知る本としては面白いはずだ。

 本書はオランダ語、フィンランド語、フランス語などほかの西欧語だけでなく、ブルガリア語、ポーランド語、ルーマニア語といった東欧語にも訳されている(電子書籍もあり)。8月終わりには英語版が出版される。

 日本に興味を持ったり日本に旅行する人たちは、私が長く暮らすスイスでも、はっきりと肌で感じるほど増えている。とはいえ、ヨーロッパ人にとって日本はまだまだ遠い国、本書が広がる様子を知り、日本のことをより深く知りたい人たちが潜在的にとても多いのだと改めて驚いた。(チューリヒ在住ジャーナリスト、岩澤里美=共同通信特約)

あなたにおすすめ