【特集】江戸城天守閣再建は夢か?

新たな「顔」と日本の行く末

©一般社団法人共同通信社

再建された江戸城天守閣のイメージCG。北桔橋付近
再建された江戸城天守閣のイメージCG。高層ビル群を背景に
再建された江戸城天守閣のイメージCG。夜景
奈良県の郡山城跡で行われた「修羅引き」=4月

 東京都心の街角から空を見上げると江戸城の天守閣―。城マニアならずとも夢が膨らむ光景だ。あまりに壮大すぎ「無理」と思われがちな再建計画だが、果たしてそうか。つい最近も、名古屋城天守閣の木造復元が決まった。江戸城の天守閣ができれば、新たな日本の「顔」となるのは間違いない。

 ▽いにしえ

 「それ引け、オー!」。4月上旬の週末、奈良県・大和郡山市の郡山城跡で石垣を支える巨石を人力で運ぶ「修羅引き」が行われ、いにしえの築城の様子をしのばせた。天守台の石垣を修復、展望施設として整備した記念に行ったイベント。築城主の戦国大名、筒井順慶に扮した上田清市長は「城は市民の誇り」と話した。

 全国至る所にある城や城跡は、そこに住む人たちの誇りと同時に観光資源でもある。年間2千万人を超える訪日外国人数の伸びは順調。しかし政府の目標は2020年に4千万人、30年に6千万人。観光客の志向は大都市での「消費」から自然や文化・歴史の「体験」型へと移っている。

 「日本人もそうだが、外国のお客さんも(都会の史跡と異なり)あまり手の入ってないところを好まれるようになってきた」(上田市長)。地方の魅力をいかに高めて発信し、そちらに足を向けてもらうかが課題となっている。

 ▽日本の体幹

 「神社仏閣も趣はあるが、城はその地の歴史や文化といった個性をより色濃く反映している」。06年創設のNPO「江戸城天守を再建する会」(再建する会)の初鹿彰信理事は力説する。同会が掲げる天守閣再建の3大理念の一つは地方創生と活性化だ。

 いわゆる石垣や天守閣でイメージされる近世城郭は全国で約400。現在の中堅以上の都市はほとんどがこれらの城下町から発達した。再建する会の川村隆顧問は「これらをつないだのが『日本の体幹』。全体としての価値を生み出せば、個々もより輝く。江戸城はその象徴」と語り、城がある市町村のネットワーク作りの構想を進める。

 二つ目の理念は、東京五輪後の都市計画。ニューヨークの自由の女神、ロンドンのバッキンガム宮殿、北京の紫禁城…。世界的な都市には歴史・文化を体現する「顔」が欠かせない。ドイツのベルリンは750億円以上をかけベルリン王宮を再建中だ。

 過去の例からしても経済的な落ち込みが確実な20年五輪の後、名実ともに世界都市にふさわしい東京の町づくりをどう進めるか。江戸城の天守閣再建が果たせる役割は小さくないはずだ。

 ▽世界最大

 広島大大学院の三浦正幸教授によると、天守閣と言えるものは全国に約100。ただ江戸時代の姿のまま残るのは姫路城など12。それ以外のほとんどは昭和30~40年代に再建された。そのうち木造で忠実に復元されたのは5城。残りは鉄筋コンクリートだったり、資料不足で規模やデザインに想像の部分があったり、もともと天守閣はなかったのに建てたものまである。

 文化庁は1980年代に再建を許可する基準を「歴史に忠実」であることと厳格化。江戸城は明暦の大火(1657年)で焼失した後、再建されなかった。しかし三浦教授は1枚だけ現存した当時の「建地割図」から1年がかりで設計図を再現。「江戸城は絵画などの情報も多い。非常に正確に復元できるということを文化庁に説明する資料はある」と話した。

 復元設計図によると、5重の天守閣の高さは石垣の部分まで含め19階建てのマンションに相当する約60メートル。当然、世界最大の木造建築となり、震度7の地震でもびくともしない耐震性がある。耐用年数は約500年。その後100年に1回程度の修理を重ねれば半永久的という。

 ▽行く末

 総工費は当初は概算で400億円程度とされたが、名古屋城の木造復元は500億円。今後、復元設計図を基に詳細に試算していくがこうした数字が目安となりそうだ。これまで城の再建はほぼすべて税金が使われてきた。しかし、再建する会では民間からの寄付やファンド(基金)で主に賄うつもりだ。

 ただ、技術やお金より、ある意味で江戸城天守閣再建の最大の難関は、そこが皇居であること。物理的な意味だけでなく、精神的にも日本の中心だ。再建の実現は、国民的世論が政府を動かす時しかない。

 議論は盛り上がるか。再建する会の川村顧問は「観光などの目先の効果だけでなく理念の深い部分で共感を得られるか」と言い、三つ目の理念を語った。「世界的に自国のアイデンティティを問い直す潮流がある中、日本人も自分たちの歴史や伝統を見つめ直し、どんな国を子孫に残すかに関心が向き始めている。江戸城天守閣の再建はそうしたことを考える契機になる」。(共同通信=松村圭)

あなたにおすすめ