鉄鋼・金属関連の最新技術いま・未来

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金属3Dプリンター/複雑な形状を一体造形/国内規格の金属粉末、来年にも開発

 鉄鋼・金属業界に関連する注目の最新技術。製造プロセスを大きく変革するものから、作業の効率改善に役立つものまで内容は多岐にわたっている。中でも、新しい概念や革新的な製造技術は研究から実証を経て、量産に移行するまで多くの手間と時間を要する。今回の特集では、まだ未成熟ながら様々な可能性を秘めた新たな技術のいま、そして、その技術に何が期待されているのかを紹介する。

3Dプリンター

 近年、技術進歩が著しく、ますます注目度が高まっている金属3Dプリンター。その技術は約25年前からスタートしているが、国内外の様々なプリンターが日本にも導入され、夢の技術から実用段階へと進化を遂げつつある。

 金属素材を中心に3Dプリンターの受託加工・造形を2013年9月から始めたJ・3D(本社・名古屋市)の高関二三男社長は「複雑な形状を一体化して造形できる技術は3Dプリンターだけ。しかし、その優位性がまだ設計者などによく知られていない」と現状を語る。自ら技術の周知を図るためセミナーや講演活動に全国を駆け回る。いわば、金属3Dプリンターの〝エバンジェリスト(伝道師)〟といった趣だ。

複雑な形状の造形品

 J・3Dは、特殊鋼プレートの製造・販売を主力事業とする藤巻鋼材などF&Cホールディングスの傘下にあるグループ会社の一つ。ある日、新聞記事で3Dプリンターを知り「これだ!」とひらめいた高関氏は即座に同分野に参入した。当初、金属3Dプリンターの国内市場は約4千億円との試算もあったが、実際に事業で得た肌感覚では「サービスを含めて20億円程度。まずは何とかこの10倍には広げたい」という。

 現在、金属3Dプリンターで一般的に使用される材料は、(1)マルエージング鋼(2)インコネル718、同713

(3)チタン64、純チタン、アルミチタン(4)ステンレス630、同316、(5)アルミニウム(AlSi10Mg)の5種類。

 金属の粉末を敷き詰めてレーザーで溶融・凝固させる「金属粉末積層工法」を採用する3Dプリンターでは、その特性上、なめらかな局面を造形するには、より細かく、より真球度の高い金属粉末が求められる。マルエージング鋼の粉末は直径約10~60ミクロン。3Dプリンターの積層ピッチが0・01~0・05ミリの現状では、粉末の細かさに関しては十分な性能を有している。

 ただ、真空中で溶融した金属を不活性ガスの噴霧によって分断・凝固させる「ガスアトマイズ法」で製造される金属粉末のうち、3Dプリンターの材料に適する粒径のものは半分以下とされる。歩留まりの悪さから3Dプリンター用の金属粉末は非常に高価で、材料のコストダウンが大きな課題となっている。真球度に関しては、高速回転するディスクの遠心力を活用して金属粉末を製造する「ディスクアトマイズ法」を山陽特殊製鋼が導入するなど製造手法は着実に進化している。

 現在、金属粉末はEOS社などプリンターメーカーから購入するケースが一般的で、欧米の需要に対応した鋼種が多いのが実情。前記の5種類以外にもSUS303や同304、SKD11や同61など日本国内では一般的な鋼種を3Dプリンターで造形したいとする要望が増えている。

 このため、J・3Dは昨年7月から鉄鋼・非鉄素材メーカーと共同で新たな鋼種の材料開発を始めた。国内規格に合うものを主眼とするが「具体的な鋼種は秘密」(高関社長)。材料開発にあたっては3Dプリンターのレーザー出力やワット数、積層厚など、240項目にも上る諸条件を素材に合わせて調整した〝レシピ〟とも言える「パラメーター」を設定する作業に最も手間がかかる。同社では来年4月をめどに2種類の新たな金属材料を完成させ、早期の運用開始を目指している。

 金属粉末に関しては保管の難しさも課題となる。湿度が高いと固まってしまうため、特に湿度の高い日本国内で3Dプリンターを運用するには「湿度をしっかり管理できる保管庫が必要となり、大変なコストかかる」(同)とする。

 現状、金属3Dプリンターによる造形の需要は試作品の製作が大半だが、量産化に対応するには単純に台数を増やす必要がある。金属3Dプリンターは1台で約1億円。電気代を含めたランニングコストは1台当たり年500万円とされ、量産化対応には莫大な資金が必要になる。さらに運用とメンテナンスの手間を考えると、使用する金属素材ごとに3Dプリンターを使い分けるのが理想的。鋼種が増えれば「その分の専用プリンターを増やす必要が出てくる」(同)。

 設備額の大きさから量産化対応は海外が先行しており、ドイツには1社で100~200台の3Dプリンターを備える企業もあるという。政府からの補助金が量産化対応を後押ししているためだが「3Dプリンターはデータさえ送れば、どこでも製造できてしまう。このまま日本に量産体制が整わなければ、国内のユーザーをまるまる海外に奪われることは十分にあり得る」(同)と日本の出遅れに対する危機感は強い。

 日本での金属3Dプリンターは黎明期にある技術だが、海外に目を向ければ世界の需要をめぐりすでに競争は始まっている。

「高度IT」、製造現場に活用/IoT/設備保全を効率化/人の安全〝見守り〟も

 あらゆるものをネットワークでつなぐ「IoT(モノのインターネット)」やビッグデータ解析、人工知能(AI)といった高度IT(情報技術)が様々な業界でビジネスに変革をもたらすと注目を集めている。高度ITの活用は鉄鋼業でも重要課題だ。競争力強化に向け製造現場に導入する動きが広がっている。

 「あと何時間で故障するか、正確に分かるのが理想だ」。高炉メーカーの幹部は高度IT時代の設備保全のあり方をこう話す。コンピュータが極めて高い精度で部品の交換時期を割り出し自動的に教えてくれるという仕組みが徐々にだが現実になっていくという。

 IoTは、様々なモノにセンサを取り付け、得られるデータを逐次、ネットワークに吸い上げる。鉄鋼業の設備保全では設備の音や振動、圧力などセンサーから収集した膨大なデータが解析の対象だ。

 製鉄所には様々なセンサーが設置されており、すでにこうしたデータが大量に蓄積されている。過去に故障した際の様々なデータをビッグデータ解析や、AI技術の一つであるディープラーニング(深層学習)によって解析すれば、故障の発生を高精度に予測できるようになる。

 現状では、設備の安定稼働を維持するため、消耗部品などを早めに交換するケースが多い。故障の予兆を正確に把握できれば、部品の交換周期を延ばすことが可能だ。結果として設備休止の時間が縮まって稼働率が高まり、修理コストを減らす効果も期待できる。

 IoTの活躍の場は「モノ」にとどまらない。鉄鋼業では、これまでコンピュータ技術と縁遠いと言われてきた人の安全確保にもIoTを生かす試みが始まっている。

 新日鉄住金が開発に取り組むのが「製造現場の見守りシステム」だ。IoTを活用し、現場作業員の三次元位置情報や心拍数などのデータをリアルタイムで収集。現場作業員に異常があれば、遠隔地にいる管理者などに自動で知らせる仕組みの構築を目指す。外部から安全を見守ることで、現場作業員が1人での作業などをより安全にこなせるようにするのが目的だ。

 現場作業員はスマートフォンなどの携帯端末を装着する。携帯端末のGPS(全地球測位システム)機能と気圧計から高度も含めた3次元の位置情報を特定でき、心拍数などもネットワーク上に吸い上げる。得られたデータをコンピュータが瞬時に解析し、その結果に異常があれば、自動で管理者の携帯端末にアラームが送られる。

 現在は複数の製鉄所の屋外作業者を対象に、実際の運用に近い形で実証実験を進めている。単にしゃがんだだけなのか転倒したのかなど危険性の判断が難しいケースも的確に判別するため、データの動きをディープラーニングで複合的に解析するといった対応も考えられる。「2020年度頃をメドに本格的な運用を目指す」(新日鉄住金)考えだ。

 一方、電炉ではトピー工業が昨年7月1日付けで業務改革推進部を「IoT推進部」に変更。2021年に創立100周年を迎える同社にとって「次の100年」の持続的な成長を支える基盤づくりとして基幹業務システム(ERP)の刷新に取り組んでいる。

 部の名称にIoTを採り入れた理由について、IoT推進部長の武澤雅吉常務執行役員は「ERP刷新では当社内の様々な情報を統合管理することがベースとなる。事務系だけでなく技術部門を含めた幅広い部署からあらゆる情報を吸い上げることはIoTそのもの。そのためのネットワークや環境づくりを進める考えだ」と説明する。また、急速に海外展開を進めてきた中でグローバルに通用するシステムの必要性も痛感。従来は請負的な業務が中心だったシステム部門が「経営をも左右する重要なポジションに変わっていることを意識してほしい」との意味も込められている。

 新ERPは来年4月にまずスチールとプレス事業で稼働し、造機とサイエンス事業にも展開させて19年4月に稼働させる。

 「100年培ってきた当社の業務や仕事のやり方を末端まで含めて刷新する。まずは変えることが前提」とするIoT推進部の取組みは、〝持続的な成長〟をめざすトピー工業にとって大きな使命を担っている。

還元スラグの人工石化/「魔法瓶」構造の鋳型で超徐冷/最大10トンの石材製造が視野

 電炉メーカーの精錬工程で生成される「還元スラグ」。これを無害で幅広い用途に利用できる「人工石材」にする製造技術がこのほど開発され、実用化に向けた取り組みが着実に進められている。

 これまで還元スラグの用途は下層路盤材に限られていた。ただ、エージング不足によりフリーのCaO、フリーのMgOによる施工後の膨張・崩壊が起きたケースがあり、ユーザーの評価は必ずしも高くない。こうした状況のもと、還元スラグの有効な処理方法の確立が求められてきた。

還元スラグの鋳込み作業

 還元スラグを人工石材として有価で販売できるようになれば電炉メーカーのコスト負担を大幅に削減できる。また、スラグの環境トラブル防止など課題の抜本的な解決につながると期待されている。

 還元スラグを人工石化する技術は、電気炉系スラグに関する技術開発を手がけるSUN企画(本社・愛知県名古屋市、社長・宇対瀬強一氏)と製鋼設備メーカーのニッコー(本社・兵庫県神戸市、社長・有働英司氏)、電炉小棒メーカーの山口鋼業(本社・岐阜県岐阜市、社長・山口浩之介氏)の3社が開発した。具体的な方法としては、厚板の間に耐火物を挟み込んだ〝魔法瓶〟のような特殊構造の鋳型に還元スラグを鋳込む。その温度を1380℃以上に4時間保った後、1時間当たり10℃程度と極めて緩やかに750℃以下まで冷却(超徐冷)することで、主にマービナト(Ca3MgSi2O8)とメリライト(Ca2{Al,Mg}{Al,Si}2O7)相という強固な鉱物相を形成させるもの。同技術は製造法と鋳型について3社共同で特許を取得している。

 還元スラグから製造した人工石は、最も厳しい基準とされる環境省告示第46号の破砕・溶出試験など全ての基準値をクリア。機械的試験に関しても燐灰石と同等の硬さを有するなど、石材としての利用可能性は十分に示されている。

人工石材の合同視察会も

 同技術の普及を図るため、ニッコーとSUN企画は4月19日、北九州市の電炉小棒メーカー、トーカイ(社長・足立仁氏)に他メーカーの技術者ら約30人を集め、初の合同視察会を開催した。還元スラグを鋳型に鋳込む作業と、鋳型から人口石を取り出す作業を見学した参加者は、石材の表面や鋳型の構造に高い関心を示していた。

 引き続き鋳型の改良を進めているニッコーでは3~10トンの人工石材の製造までが想定できるとする。還元スラグを人工石化する技術自体は実証できており、同技術にとって次の大きな課題となっているのが石材としての販売先の開拓だ。

 現在は造園業や土木業向けの販売ルートの開拓を図るため、公的機関も通じて働きかけを進めている。

 公園のブロック石など自然石材の用途は非常に幅広く、輸入の石材も使用されている。電炉メーカーの製造工程で生じる還元スラグを原料とする人口石材ならば価格面では大きな競争力が見込める。

 現在、護岸資材である「じゃかご石」の販売価格はトン4千円程度とされる。SUN企画の宇対瀬社長は「この価格水準なら十分に取り組む意義がある」と、電炉メーカーにまずは製造試験への挑戦を呼び掛けている。

 そもそも、製鋼スラグを商品化する研究は半世紀以上前である1959~62年に八幡製鉄(戸畑製造所)で取り組まれていた。しかし、高炉メーカーは高炉スラグの研究が優先だとする上層部の指示により、製鋼スラグの研究が中断。以来、一部の研究を除いて、半世紀にわたって還元スラグの人工石化は見過ごされてきた。

 電気炉系スラグのうち、酸化スラグは2013年6月にコンクリート用骨材としてJIS化が完了している。鉄鋼スラグ協会の電気炉スラグ委員会で委員長を務めた宇対瀬氏は、還元スラグの用途研究が進まなかった背景について「電炉メーカーがスラグの研究に力を注いでこなかった」と指摘する。

 還元スラグの人工石化は販売先の開拓だけでなく、実際の製造ラインにいかに組み入れるか、など乗り越えなくてはならない課題は多い。しかし、酸化スラグをコンクリート用骨材、還元スラグを人工石材として有効利用することができれば、日本の電炉業全体が抱える課題を解決することになる。

高強度化技術の超微細粒鋼/医療機器用ステンレス/成分不変がメリット/IoTセンサーが有望市場に

 鋼の結晶粒を1ミクロン(1千分の1ミリ)以下に微細化し、合金添加や熱処理なしで鋼の強度を高められる「超微細粒鋼」。かつて次世代の鉄鋼技術として脚光を浴びながら実用段階への浸透はいま一つだった。ただ近年、医療分野でじわりと利用が広がっている。

 その原動力になっているのが、超微細粒ステンレス鋼の研究・開発を主力事業とするナノ・グレインズ(本社・野県諏訪市、社長・小松隆史氏)。その母体で自動車部品などの精密加工を手がける小松精機工作が、物質・材料研究機構(NIMS)と2002年から取り組んでいた「超微細粒鋼の加工特性」の研究をもとに13年11月に設立された会社だ。

超微細粒ステンレスで制作された鉗子(直径1.6ミリ)

 ナノ・グレインズはいま、超微細粒ステンレス鋼の優れた加工特性を生かし、耳鼻科で使われる内視鏡用の鉗子(かんし)など医療機器の試作・量産化に力を入れている。最近では世界最小級となる先端直径0・7ミリの内視鏡用鉗子を地元企業5社との連携で製作。国内外の展示会に出展し、超微細粒ステンレス鋼の認知度向上と市場開拓に努めている。

 もともと医療機器メーカーには素材のステンテス鋼を高強度化したいというニーズがあった。ただ、医療機器に使われる素材は成分による人体への悪影響を最も重要な課題とするため、合金を添加して金属の成分を変えると新たな認証の取得が必要になってしまう。

 その点、超微細粒ステンレス鋼なら「結晶粒を微細化するだけなので成分を全く変えずに高強度化できる。医療機器では成分を変えないことが大きなメリット」(小松社長)という。また、結晶微細化によりマイクロ加工時の部品品質が安定し、製品機能が向上する。この点も複数のマイクロ部品で構成される小型の医療機器の素材に求められる特性だ。

 鉗子などに高強度の超微細粒ステンレス鋼を使用したいというニーズは「極めてニッチな市場。現状は年1千万円程度しかない」(同)とする。だが、ナノ・グレインズでは「今の市場を卵で例えれば、ようやく殻からくちばしが出た段階。今後大きく成長する可能性を秘めている」(同)と自信を示す。また、微細粒鋼のマイクロ加工特性を考えると「医療機器だけでなく様々な分野で利用が見込める。次に有望なのはIoTにかかわるセンサーなどの分野。精密部品の精度を高めることでセンシングのレベルを向上できる」(同)と展望も明るい。

超微細粒銅の精密ネジ

 物材機構で小松精機工作所と超微細粒鋼の共同研究に取り組んだ、兵庫県立大学大学院の鳥塚史郎教授は、微細粒鋼の将来性について「まだこれから発展していく技術。研究の歩みを止めてはいけない」と語る。鳥塚教授は物材機構に在籍時、民間企業2社(大阪精工、降矢技研)と共同で超微細粒鋼の線材から高強度な精密ネジ(マイクロネジ)を量産する技術を開発。パナソニックのスマートフォンなどに採用された。累計生産量は1千万個を超え、「現在も少しずつだが売れている」とする。

 一方、鉄鋼メーカーにおける微細粒鋼と言えば、中山製鋼所が自社開発商品として、結晶粒径が2~5ミクロンと通常比で約3分の1の微細粒熱延鋼板(NFG)を2001年12月から生産している。ただ、その他のメーカーに微細粒鋼を製品化しようという動きは広がっていない。

 そうした中で、鳥塚教授は現在の研究テーマとして「マンガン添加によって微細粒鋼の冷延鋼板を製造する技術をターゲットにしている」と語る。鉄鋼メーカーが本命とする自動車用のハイテン材に微細粒鋼が使われることに期待をかけて研究を重ねている。

 鋼は結晶粒を微細化することによって水素脆化しにくくなるとする研究もある。

 水素エネルギーを活用した水素社会への転換が求められる中、水素の輸送用インフラの素材として超微細粒鋼には大きく市場が広がる可能性が秘められている。