寂しさで始まる恋は本物じゃない?彼氏で埋まらない寂しさを、別の男で紛らわせる女

夜更けの赤坂で、女はいつも考える。

大切なものは、いつも簡単に手からすり抜けてしまう。

私はいつも同じところで立ち止まり、苦しみ、前を向こうとして、またつまずく。

29歳、テレビ局の広報室で働くハナは、ひと回り年上のプロデューサー・井上と出会う。

井上はハナとの関係を、女友だち・静香に相談。どんどん近付く2人の関係は一体どうなる?

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「いや、自信がないんだよ。彼女が俺のことをどう思っているか。寂しさの埋め合わせに使われてたら、嫌だろう」

井上と『バー ティアレ』で飲んだ帰り道。静香は赤坂駅から千代田線に乗り、今日話したことを一つ一つ思い出していた。

井上は、本当に用心深い。30代の頃一度結婚に失敗してからは、特に。あのときの井上の憔悴は目を見張るもので、そのときから彼に「触れてはいけない何か」を感じるようになった。

しかし最近、ひと回りも下のハナという女性に恋してから、用心深いのは相変わらずだが、ずいぶん楽しそうにしているように思う。

全く相手にされていないと悔しそうにしながら、生き生きと彼女のことを話す彼の姿に、古くからの友人として安堵とも似た気持ちを覚える。

かつては自分もあんな風に真剣に恋していたのだろうか、とぼんやり考えていると、あっという間に自宅のある表参道駅に着いていた。

ハナと井上の関係は、どんどん近付いていく…?

「ねぇ、井上さん。私の話、聞いてる?」

紀尾井町ガーデンテラスの『GARB CENTRAL』で遅い昼食をとりながら、ハナは口をとがらせて言った。

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最近、週末もこうして井上さんと会うようになってしまった。休みの日は職場近くに来たくないと思いながらも、こうして赤坂まで来ている。何だかもう、歯止めが効かない。

渉君との寂しさを井上さんで埋め合わせている。それはきっと紛れもない事実だ。

井上さんを弄ぶようなことをしちゃダメだと思いながらも、やっぱり井上さんの隣にいるのが一番のびのびできるから、こうしてまた会いたくなってしまう。

「聞いてるよ。もう本当にわがままだなぁ」

井上さんは呆れながらそう言った。

土曜日である今日も、井上さんは仕事が残っているから本当は早く出社しなければいけないのに、こうしてわざわざ時間を取ってハナに付き合ってくれている。ハナにこうして時間を割けば、井上さんの帰りはどんどん遅くなる。それでも井上さんを呼び出さない訳にはいかなかった。

ハナは一人で自分の家にいるのが、嫌だった。渉君は最近全然帰ってこないし、一人で家にいると気分がどんどん落ち込んでしまう。

そうなると、自然と頭に浮かんでくるのは井上さんの顔だった。いつもハナに呆れながらも「しょうがないなぁ」と言う、その優しい笑顔を。

これは、恋なのだろうか。

井上さんに「会いたい」と思う度に、ハナは混乱する。寂しさから始まる恋なんて恋じゃない、と思いながらも、しかし井上さんの存在はハナにとってなくてはならないものになりつつあるのだった。

「それで?結局井上さんと付き合うことになったの?」

日曜日の午後、代々木公園にあるハナの家に葵はやってきた。

クリーム色の厚手のカップにコーヒーをなみなみと注ぎ、葵が買ってきた『ミニマル』のチョコレートを2人でつついているときだった。

葵を呼び出しておきながら、なかなか本題に入ろうとしないハナに、葵はぐさりと切り込む。

「ね、お天気もいいし代々木公園に散歩しに行かない?」

いきなりハナがそう話題を変えると、葵は呆れながらも「じゃあ途中でコーヒーも買おう」と言いながら、チョコレートを鞄に入れた。

代々木公園で語る、葵の気持ちとは?

「あー気持ちいいね」

1年の中で一番好きなのは、5月のこの新緑の季節だ。噴水の近くまで歩いて行き、近くのベンチに腰を下ろす。

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「…大学の頃、こうやってよく中庭で何時間も喋ってたよね」

大学の頃、何かと理由をつけて授業をさぼり、中庭のベンチで何時間も喋りながら時間をつぶした。最初は2人だけで、そのうちに仲間が何人か集まり、また立ち消え、そしてまた2人でずっと喋っていた。

しかし大学を卒業して6年も経った今ではその記憶はどんどん不鮮明になっていき、もうそのときの自分が別人格だったような、遠い過去のことになっている。

「今年で30歳だもん。歳とったよね。まゆちゃんも、恵美子も皆結婚して」

葵はかつて同じグループで仲良くしていた旧友の名前を出しながら、そうつぶやいた。

葵の「ちゃんとしなきゃ」理論をまた聞かされるのかと思い、少し身構える。しかし葵はその話はせず、ただ噴水をずっと見ているだけだ。

葵には、もう長らく恋人がいない。美人で頭の良い彼女だけれど、男の人にはいつも100パーセントを求める。

顔は葵好みのあっさりとした醤油顔で、背は178センチ以上で、経済力があって、そして葵をいつも優しく受け止めてくれる人。

「そんな完璧な人いるはずない」とハナはいつも心の中で思いながらも、しかし懸命にそれを信じて探している彼女を見ると、何も言えなくなる。

「本当だよねぇ」

まゆちゃんや恵美子が結婚したことも、もう30歳になることも、ハナにとってはそこまで深刻に受け止めるべきことではないので、曖昧に答える。

「あのとき描いていた30歳とは全然違う」

葵は真剣な表情で、そうつぶやいた。

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ハナが井上に、本音を告白?

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