【コラム・天風録】夏ミカンのある風景

 初夏の萩を今歩いてみると気が付くだろう。町を包む爽やかな香りに。山口県の花、夏ミカンが白い花を咲かせた。収穫期の果実と花が同居する光景も、この時季ならでは。この果樹のある景観は、城下町萩の象徴ともされる▲萩では開花宣言が三つ出される。元々あった春のソメイヨシノに、冬の笠山ツバキ群生林のヤブツバキ。昨年になって夏ミカンが加わった。ことしは明治初期に栽培を推奨した旧藩士小幡高政(おばた・たかまさ)の生誕200年に当たる▲困窮した士族を救済する試みから、夏ミカンの栽培は始まった。萩の乱が起きたころである。発祥の地で開花基準木があるかんきつ公園を訪れると、石碑には「疑いの目で見たり、あざ笑ったりされた」と当初の小幡の苦労が刻まれていた▲夏ミカンは夏ダイダイ(代々)とも呼ばれる。開花と実を収穫する時季が重なり、代々実が続く縁起物だからでもある。確かに小幡の試みの20年後、萩に福をもたらした。一大産業に育って明治以降の暮らしを潤した▲今は、昭和40年代に1万5千トンあった生産量が200トンにまで落ち込んだ。それでも、小幡をはじめ先人が注いだ情熱、守ってきた景観はこれからも代々引き継がれよう。

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