遺体の「声なき声」に耳を 解剖医が著書

「死体格差」を出版した兵庫医科大の西尾元・主任教授=西宮市武庫川町

 阪神間で年間200~300の遺体を解剖している兵庫医科大法医学講座(兵庫県西宮市)の西尾元(はじめ)主任教授(55)=神戸市東灘区=が、初の著書「死体格差 解剖台の上の『声なき声』より」を出版した。実際の執刀例を取り上げ、個々の生前に思いをはせながら、貧困や認知症、老老介護などの社会問題も描く。易しい文章でつづられ、西尾さんは「法医学が少しでも身近な存在になれば」と話している。(竹本拓也)

 約20年前から法医学の世界に関わる西尾さん。2009年に大阪医科大から兵庫医科大に移った後、兵庫県警からの依頼に基づき、阪神6市1町の死因不明の遺体や犯罪で命を奪われた人らの解剖を担う。一方で、西宮市内で学外の学生や社会人向けに4年間講座を続け、法医学の社会的役割を伝えてきた。

 著書では事件現場よりも、日常生活の延長線上での死が数多く登場する。自宅の湯船の中で亡くなった80代の男性は解剖などの結果、浴槽から出られなくなった認知症の妻を助け出そうとして湯船に転落、そのまま溺死したことが分かった。妻は夫の上に座るような格好になったことが幸いし一命を取り留め、訪問看護師に発見されたという。

 他にも自宅で軽い脳出血を起こし、助けを求められずに凍死した1人暮らしの男性、夫の遺体と共に暮らしていた認知症の妻らを取り上げている。

 死亡時に病死と断定できない「異状死」のうち、約3人に1人が法医解剖される兵庫。西尾さんが取り扱った遺体を調べると、約半数が独居者だった。精神疾患が約3割に上り、生活保護受給者は全体の約2割を占めたという。「社会的弱者が多いが、経済状況を問わず死は誰にでも身近に起こりうる」と強調する。

 死後に身体に起こるさまざまな変化や、遺体を診断する手順なども丹念に解説した。西尾さんは「死の状況や死者の気持ちを知ることで今を生きる人々の生活が豊かになれば」と願っている。

 四六判200ページ、1400円。双葉社。主な書店で販売している。

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