社説(5/20):「共謀罪」採決強行/国民の不安を軽んじている

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 何をそんなに急ぐ必要があるのか。数の力によるごり押しと言わざるを得ない。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法の改正案がきのうの衆院法務委員会で、自民、公明、日本維新の会の賛成多数で可決された。

 審議が尽くされたとは到底認め難い。国の刑法体系を一変させ、国民の権利を脅かしかねない重要法案であるにもかかわらず、審議30時間で打ち切っての採決強行である。

 特定秘密保護法をはじめ、安保法、環太平洋連携協定(TPP)の承認、カジノ法など、賛否が割れる法案採決での与党の強権的な議事運営は目に余る。「安倍1強」のおごりの表れではないか。

 きのうの法務委でも、前日に不信任案が否決された金田勝年法相は、法案の趣旨などをおうむ返しのように読み上げる答弁が目立った。

 立法の目的、運用のあり方、国民生活への影響。どれを取っても議論は一向に深まっていない。法案の曖昧さはむしろ増している。

 最大の疑問は「一般人は捜査の対象になることはない」と金田法相ら政府側が言い張っていることだ。組織的犯罪集団と関わりがない人を「一般人」と呼び、「何らかの嫌疑が生じた段階ならその人はもはや一般人ではない」という理屈を押し通した。

 組織的犯罪集団であるかどうかや、計画に基づき犯罪の準備に入ったかを見極めるにはメンバーに対する日常的な監視が不可欠。それを容認するのがこの法案の本質だ。

 そこに捜査機関の恣意(しい)が働けば、誤認捜査や冤罪(えんざい)を生む可能性が高くなる。共同通信の直近の世論調査では、法改正によって市民運動や政治活動が「萎縮する恐れがある」との回答が51%を占めた。

 個人のプライバシーや「内心の自由」など国民が抱く人権侵害への懸念に、政府は誠実に向き合うべきだ。

 また、国民の共感を得やすい東京五輪・パラリンピックのテロ対策と法案を結びつけてきたことも問題だ。

 国際組織犯罪防止条約に加入する目的のために、新たな立法が必要になるという論法には無理がある。「現行の条約と国内法でテロには対応できる」という野党の反論と全くかみ合っていない。

 過去3度廃案になった「共謀罪」法案である。どう表紙を替えても政権側の思惑は、テロ対策とは別の所にあると思われても仕方あるまい。

 特定秘密保護法では国民を重要な情報から遠ざけ、安保法では民意に背いて集団的自衛権の行使を認めた。今度は国による監視社会の強化が進む懸念がある。

 安倍政権は一体、私たちをどこに連れて行こうとしているのか。国民が軽んじられているのではないか。参院では、人々が抱く不安に応える徹底審議が求められる。衆院と同じ轍(てつ)を踏んではならない。

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