「自由にもの言える社会を」 「共謀罪」強行採決、国会前で抗議1万人

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【時代の正体取材班】国会で審議中のいわゆる「共謀罪」法案が衆議院法務委員会で強行採決された19日、国会議事堂周辺では大規模な抗議集会が行われた。大学生や子育て中の主婦、仕事を終えて駆け付けた会社員−。監視社会の強化や法の恣意(しい)的運用が懸念される中、求めているのは「自由にものを言える社会」。法案に「NO」を突きつける群衆の一人一人に熱い思いがある。  ■生き方選べる社会こそ 午後3時ごろ。市民団体が結集していた議員会館前の歩道から少し離れたところに、横浜市南区の千葉幸次郎さん(67)の姿があった。農作業を終えて昼すぎに駆け付けた。

 何かを声高に訴えるわけではない。「共謀罪NO」のポスターを掲げながら、静かにたたずんでいた。

 岩手県の農家に生まれた。中学卒業と同時に集団就職で川崎市内の造船業者に就職。定時制高校に通いながら働き詰めの毎日だった。40歳代からは横浜市のごみ収集作業員に転じ、65歳まで勤め上げた今は年金生活だ。趣味の農業でニンジンやダイコン、キュウリなどを栽培しながら、パートナーの女性とつましく暮らしている。

 いたって平穏な日常の中、国会前になぜ足を運ぶのか。安倍政権が戦争への道をひた走っているように思えてならないからだ。特定秘密保護法案、安全保障関連法案が審議中もこの地に来た。共謀罪への反対行動はこの日で3度目だ。

 与党が多数を占める今の国会勢力では反対の声は確かに届かない。「でも、諦めてはいけない。個人として反対の声を上げ続けていくことが大事」 自身に子どもはいないが、親戚には幼稚園児や小学生がいる。子どもたちがやがて大きくなったとき、戦争に駆り出されないか危惧する。

 「個々人が生き方を自由に選べる社会を残すことこそ、私たちの世代の役割。共謀罪が成立してしまっては、民主主義が死にかねない。自由にものが言える社会を次世代に引き継いでいかなければならない」 ■掃除して次代へつなぐ 夕闇迫る午後6時。国会正門前に駆け付けた団体職員の石野雅之さん(56)=横浜市青葉区=は仕事の移動中に強行採決を単文投稿サイトのツイッターで知った。

 「議論すればするほど不条理が明確になっていく。こんな法案を30時間審議したからといって採決を強行するなど、日本は議会制民主主義国家ではなくなってしまったかのようだ」 この4月、初孫が生まれた。育て上げた2人の娘は28歳と30歳になった。募る危機感と愛娘(まなむすめ)たちの顔が重なる。

 「私はいまこの世の中を次代に引き継いでいく立場。まともな社会にしておかないと渡せない」 路上で声を上げ始めたのは4年前。特定の民族をおとしめ、差別をあおるヘイトスピーチを許せず、立ち上がった。違憲と批判された安保関連法案に反対しようと国会前にも立った。

 既視感を覚える再びの強行採決。「子どもが見てもおかしいことが起きている。現行法でも対処できる事例ばかりで、そもそも必要がない法律だ。にもかかわらず市民を監視し弾圧する効果は絶大だ。許していいはずがない」 為政者の通底した姿勢を感じている。「人権を否定する政治」だ。「安倍政権にはっきりNO!と言わなければいけない。この社会を次に使う人のためにきれいに掃除してから渡すのが、人のあるべき営みだ」 ■危機感と使命感と 夜も更けた午後8時前、横浜市金沢区に住む大学1年生の浅野恵実里さん(18)は、暗闇に浮かび上がる国会を背にマイクを握って語り始めた。デモの会場でスピーチするのは初めてだ。

 政治に関心を持ち始めたのは、高校生のころ。通っていた塾の先生から「今の政治はおかしいと思わないか」と問い掛けられた。貧困、原発、基地問題…。英語や小論文の授業で学ぶ社会の実像に、目が見開かれる思いがした。

 大学に進学して初めてデモに参加したのは4月。それまではデモは威圧的に声を上げる怖いもので、若者を寄せ付けない印象が強かった。だが、カラフルなプラカードを持って歩いて訴えてみると、イメージが変わった。「自分も声を上げていいんだ」 スピーチを持ち掛けられた当初は、「私でいいの? どうしよう」と足がすくんだ。「浅野さんにぜひやってほしい」という周囲の後押しで決意した。

 共謀罪に対する自分の思いを伝えるのにはどんなテーマがいいだろう。考え抜いた末に思いついたのは、塾で学んだ環境問題だった。

 「共謀罪が成立すると、沖縄の自然を守りたくて基地移設を反対している人も行動ができなくなるかもしれない。私たちの身近な生活に影響を与えるかもしれない」。右手に持ったスマホの画面を見ながら、用意した原稿を読み上げていった。

 塾で一緒に学んだ友人や、大学で出会った友人が見守る中、5分ほどのスピーチの締めくくりで参加者に呼び掛けた。「危機感と使命感を持って、共謀罪を許さない闘いを続けましょう」 主催者によると、この夜、国会周辺に参集したのは約1万人に上った。

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