【社説】「共謀罪」衆院委可決 国民の懸念、無視するな

 国民の不安に正面から答えないまま突き進むつもりなのか。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案がきのう、衆院法務委員会で可決された。

 審議時間が30時間を超えたとして、与党側が反対を押し切って採決を強行した。しかし、これまで指摘された多くの問題点は残されたままだ。懸念の声を無視した暴挙といえる。

 「共謀罪」法案は過去3度も廃案になっている。捜査機関による恣意(しい)的な運用や、処罰対象が不明確で市民団体や労組のメンバーが摘発される恐れへの不安が高まったからだ。

 今回、テロ対策を前面に出して適用対象を組織的犯罪集団に限定し、現場を下見するなどの準備行為を要件とした。それでも危険な本質は変わらず、日本社会を根底から覆しかねない。

 何より気になるのは、実際に罪を犯して初めて処罰の対象となる刑事法の原則を崩すことである。計画した段階で処罰できるようになれば、内心の自由や表現の自由が軽視される事態になりかねない。一般市民も人ごとではなくなる。「監視社会」への扉を開くのではないか。

 法案の問題点は他にもある。政府は、2020年の東京五輪に向けたテロ対策のため必要だと主張している。確かに、対策が不要だと考える人はいないだろう。しかし、法案の目的を示した第1条にテロ対策の文言は見当たらない。

 国際組織犯罪防止条約の締結に法整備が不可欠だとも政府は説明するが、異論も多い。この条約は本来、マフィアなどによる経済的な犯罪の撲滅が目的で、テロとは関係ない。国連がテロ防止の条約とする10余りの条約には含まれていない。

 さらに、今の法制度でも条約締結は可能だと、日弁連などは指摘している。テロ対策という国民受けのする包装紙でごまかして、全く異なる物を買わせようとしているのではないか。そんな疑念さえ浮かんでくる。

 一般の人は処罰対象にならないのか―。委員会審議で取り上げられた論点について、政府は「ならない」と繰り返すが、説得力は乏しい。例えば、対象となる集団を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と表現しているなど、条文にあいまいさが残っているからだ。「その他」で逃げず、明確に定義しない限り、恣意的な運用への不安は消えまい。

 法案で対象とされる277の犯罪が適正かどうかも疑わしい。当初は676だったが、半分以下に減らした。それでも森林法違反や著作権侵害など組織的犯罪集団とは関係なさそうなものも含まれている。捜査の網を広げることが真の狙いではないかと勘ぐってしまう。

 逆に警察などによる職権乱用罪や暴行陵虐罪、政治家の関わる公選法や政治資金規正法違反のような罪は対象から外している。身内に甘く納得できない。

 与党は23日に衆院を通過させて、24日の参院審議入りを目指している。

 将来に禍根を残しかねない法案である。議員だけではなく、私たち一人一人もあらためて考えたい。「テロ対策」の言葉に惑わされず、条文をしっかり点検して、本当に必要なのか、この内容でいいのか、判断して声を上げるべきである。

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