【現場を歩く】〈昭和電工・堺事業所〉電解コンデンサー向け高純度アルミ箔製造 精製―圧延―焼鈍、一貫生産が強み

 電気を蓄えたり放出したりする機能を持つアルミ電解コンデンサーは、産業機器や自動車関連機器のインバータなど、大容量が求められる用途には欠かせない電子部品だ。この電極には、純度を99・99%まで高めた高純度アルミ箔が使用されており、製品化には高い技術力が必要となる。昭和電工はこの高純度アルミ箔の分野で最大手メーカーだ。独自の技術・ノウハウが詰まった堺事業所の製造現場を訪ねた。(遊佐 鉄平)

アルミ精製設備「コージュナル炉」

 南海電鉄堺駅のほど近くに広がる堺泉北臨海工業地帯。周囲には新日鉄住金や三菱伸銅、日本伸銅といった鉄鋼・非鉄金属メーカーなどが多数立地している。昭和電工・堺事業所も1933年の操業以来、この堺でアルミを造り続けている。

 圧延工場としてスタートした堺事業所は、39年までに圧延・溶解・板金工場の新増設を進め、54年から板箔一貫製造拠点としての道を歩む。以降、押出事業の小山事業所への集約や一般箔からの撤退などの取り組みを経て、2017年現在は各種板材と電解コンデンサー用高純度箔の2つの分野に特化した工場となっている。

昭和電工・堺事業所のある堺泉北臨海工業地帯

 堺事業所が造るアルミ製品のうち、重量ベースで約7割が電解コンデンサー用高純度箔だ。この分野で昭和電工は、国内シェアの5割超を占めるガリバーとして存在感を示している。この地位を獲得するに至った理由には、自社開発の高純度アルミ地金精製技術があり、一貫生産を続ける中で習得した技術・ノウハウがある。

昭和電工は縦型の”ベル型焼鈍炉”を採用

 工場の中央付近に溶解工場。中に入ると巨大な設備が姿を現す。アルミ精製設備「コージュナル炉」(CJ炉)だ。CJ炉は偏析凝固原理を応用した精製設備で、これを用いることで、純度99・9%のアルミ地金は99・99%の高純度アルミに生まれ変わる。「コージュナル法」の開発は、低コストで高品質な製品を作るため、昭和電工が高純度アルミ地金の内製化に乗り出したことが始まりだ。京都大学の新宮秀夫教授とともに研究開発を進め、1982年から量産化。それ以降も、回収効率の改善や管理方法の見直しを続け、1号機をさらに改良した2~4号機を開発、現在3機が稼働している。

 CJ炉は、溶解炉で溶かした溶湯をルツボに流し込み、その溶湯に黒鉛製の棒状冷却体を差し込み回転させることで純度の高いアルミ地金を取り出すという設備。原理は単純だが、事前処理や冷却速度にノウハウがあり、同じ設備をそろえても造ることは不可能だ。取り出した高純度アルミ塊は、鋳造時に溶湯内に存在する介在物や水素ガスなどを除去する「GBF法」による溶湯処理を実施している。

 完成した高純度アルミスラブは厚さが320~400ミリあるため、圧延工程で薄く伸ばしていく。熱間圧延機で板厚を5ミリまで圧延し、冷間圧延機で0・2ミリまで、箔圧延機で0・02~0・1ミリまでそれぞれ薄くしてコイルに巻き取っていく。ここでコイルはいったん洗浄、中間スリット工程を経て、焼鈍(熱処理)工程に進む。

 電解コンデンサー用高純度アルミ箔において焼鈍が必要とされる理由のひとつに組織制御の問題がある。特に高圧コンデンサー用箔では、容量を増加させるために適したエッチング特性を持つ〝立方体集合組織(アルミの再結晶集合組織)〟を最適なかたちに制御する必要がある。「この工程の出来次第で最終製品の品質や容量が大きく違ってきます」と前田雅生生産技術部長は話す。

 昭和電工は縦型の〝ベル型焼鈍炉〟を採用している。コイルを重ねたパレットの上に、鈴の形をしたインナーカバーを被せることからそのように呼ばれている。このインナーカバーの内部は、温度を均一化して品質を高める目的などから真空状態にされる。インナーカバーの上から加熱カバーを被せ、製品ごとに時間、温度など異なる条件で加熱。加熱後は加熱カバーをはずし、代わりに冷却カバーを被せて冷やしていく。一度カバーしてしまえばスタッフが張り付いている必要がないため、建屋内はしんとしている。製品によっては焼鈍時間が50時間に達するものもあるという。それだけ重要な工程ということが伝わってくる。

国内シェア5割超

 焼鈍工程を終えた製品は改めてスリット施設に運ばれることとなる。温度管理などがなされたクリーンルーム内部にはスリッターが並ぶ。ここで顧客の求めるサイズに切り分けられた製品は、コイルのかたちでコンデンサーメーカーに届けられることとなる。

電解コンデンサー用高純度アルミ箔コイル

 「高純度アルミ地金の精製から溶解鋳造、熱間圧延、冷間圧延、箔圧延、洗浄、スリッター、焼鈍まで同一事業所で完結できることが堺事業所の最大の強み」(阪本喜一アルミ圧延品事業部長)と分析する。

〝工場のIT化〟推進

 このストロングポイントによって国内シェア5割以上の獲得を実現した格好だが「改善に終わりはない」(同)と気を引き締める。生産量は非常に多い状態ではあるものの、さらなる工場の進化に向けた取り組みは進められている。そのテーマとなるのが〝工場のIT化〟だ。工場の機械自体は数十年前に設置された〝ベテラン〟だが、これらの設備をコンピューターシステムと繋ぎ、遠隔地からタブレットで製造条件を管理できる体制を志向する。16年には4号CJ炉に設備管理システム「MPaCS」を導入した。現在はデータ蓄積に努めており、将来的にこのデータを基にイレギュラーを事前に察知するまで解析力を高めていきたい考えだ。

高純度アルミ箔が使用されたコンデンサー

 「IoTなんて大それたものではない」(同)と話すが、ここでの取り組みが成功すれば、CJ炉以外のラインへの導入や他事業所への横展開が視野に入る。堺事業所の進化への歩みは止まる気配はない。

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