【特集】LCC風雲児、再出発の秘策は(下)

エアアジアCEO

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飛行機の模型を手にする河村たかし名古屋市長(右)とエアアジアのトニー・フェルナンデスCEO=2012年、名古屋市役所
中部空港=2016年
共同通信のインタビューに応じるエアアジアのトニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)=4月27日、バンコク(筆者撮影)

 明るい人柄で、笑みと冗談を交えながら冗舌に話すエアアジアのトニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)。だが、傘下のインドネシア・エアアジア8501便が2014年12月にインドネシア・カリマンタン島付近で墜落し、乗客と乗員の計162人が亡くなった事故を振り返る時は沈痛な面持ちに一変する。事故後には現地に乗り込み、トレードマークの赤色のTシャツを封印して白いワイシャツ姿で対応に当たり、「全ての犠牲者の遺族と面会した」と打ち明ける。

 バンコクでの世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)年次総会では、弁護士らが事故後に現地に赴く必要がないと制止したのに対し、「これは私の航空会社で、あらゆる意味で私のブランドで、良い時以外は隠れるというわけにはいかない。私は会社の最高責任者として犠牲者の遺族に会う責務がある」と振り切って赴いたことを明かした。自らの経験を踏まえて「危機対応では現場の前線に立ち、純粋かつ誠実な気持ちで臨み、正確な情報を伝えることが必要だ」と訴えると、会場から大きな拍手が起きた。

 共同通信の単独インタビューでは、エアアジア・ジャパンが拠点を置く中部空港と名古屋市中心部を低運賃で移動できるためにシャトルバスを用意する計画と、新規路線を通じた認知度向上といった秘策が飛び出した。

 ―中部空港の課題は何か。

 「これは日本の新しい空港に共通しているが、大都市から遠すぎる。中部空港も(名古屋から)そんなに近くない。航空券は旅行の出費のあくまで一部であり、他に税金や空港利用料、ホテル代などもかかる。大都市との距離はそんなに問題ではないが、出費を抑えられるようにしないといけない。例えばクアラルンプールでは空港と中心部の間に高速列車が走っているが、われわれの航空券代より高い場合もある。われわれは『スカイバス』という低運賃で乗れるシャトルバスを用意している。中部空港にも安く行かれるようにする」

 ―バス会社と組み、中部空港と名古屋市中心部の間に低運賃シャトルバスを走らせるのか。

 「うん、間違いない。組む相手企業は、あらゆる選択肢を検討する。私たちはバスの座席を埋めるために利用客を創出しないといけない。リスクを一緒に取ってもらって挑戦しなければならないが、われわれは少なくとも他国で実績を上げているので取引をまとめられるだろう」

 ▽LCCでハワイ行きにも革命

 エアアジアグループは日本路線開設を加速させ、インドネシア・エアアジアXが成田空港―インドネシア・デンパサール(バリ島)線を17年5月25日から当初週4往復、6月18日から1日1往復で、エアアジアXが関西空港―米国ハワイ・ホノルル線を6月28日に週4往復でそれぞれ就航する。背景には、エアアジア・ジャパンの認知度向上を高める“援護射撃”の狙いもあるという。

 ―エアアジアXが関西空港―米ハワイ・ホノルル線を6月28日に就航させる狙いを教えてほしい。

 「ハワイは特別な場所で、私は常に消費者をわくわくさせようとしていた。私はハワイには実際に行ったことはなく、バリ島のほうが良いように感じるが、ハワイは風景写真を見せるだけで夢を見させるような、わくわくさせる場所だ。では、なぜ関西空港に就航するかというと、大阪は日本の巨大市場だからだ。関西―ホノルル線は昔から存在する航空路線だが、この区間にLCCが開設するのが目新しく、革新的で強い競争力を持つ。さまざまな方法で市場を刺激するが、この路線開設はエアアジア・ジャパンを始めるのに当たって日本でブランドを確立する大きなチャンスにもなる」

 ―そのエアアジア・ジャパンについて、改めて日本の消費者を満足させる自信は。

 「間違いない。素晴らしい従業員が、素晴らしい航空便を提供する。われわれは日本に適応させることを習い、(関西空港がある)大阪といった就航地では大きな苦情を受けずに、多くの日本人が利用してきた」

 ―現在はエアバスの小型機A320が2機待機しているそうだが。

 「その通りだ。不幸なことに、駐機しているだけの博物館になってしまっているが」

 ―今後、航空機の数を増やすのか。

 「あくまでも運航を始める際に増やす。博物館の展示を増やす訳ではないからね(苦笑)」

 最後に航空業界を揺るがした問題として、4月8日に起きた米航空大手ユナイテッド航空の乗客を引きずり降ろした問題への見解も尋ねた。

 ―ユナイテッドの乗客への対応に対して、社会的な批判が広がった。エアアジアグループはキャンセルを見越して座席よりも多い予約を受け付けるオーバーブッキング(過剰予約)が発生した場合にどう対応しているか。

 「私には乗客を航空機から降ろした思い出はない。私が飲み過ぎて、自社の従業員に降ろされたことはあるかもしれないが(笑)。私は乗客を航空機から降ろす必要性を見いだすことはできない。過剰予約が起きても顧客が乗る前に対応し、補償金を上げていけば、誰かが『別の便にする』と同意する価格はある。私が16年間にわたるエアアジアの経営で習ったのは『Never say never』(決してあきらめるな)ということだ」

 筆者がフェルナンデス氏と前回お会いしたのは旧エアアジア・ジャパンの記者会見が開かれた12年5月で、その後は3年余りのニューヨーク支局勤務も挟んだこともあり、約5年ぶりに対面させていただいた。冒頭にそれをお伝えすると「何、前に会ったのは5年も前のことなのか!」と驚かれ、別れ際にはそれと引っかけて「君と前に会ったのは5年前だから、次に会うのは5年後になるな!」ときついジョークを告げられた。

 「いや、もっと早く時間をくださいよ!しかし、今回はとても興味深い話でしたので、5年お待ちした価値はありました」と返すと、「そうか、それは良かった」と相好を崩してくださった。次は「5年後」と言わず、「5カ月後」にぜひともインタビューを入れていただきたい。その際は「Never say never」(決してあきらめるな)の精神で4度にわたる就航延期を乗り越え、今回約束したエアアジア・ジャパンの運航開始が「年内に可能だ」という言葉が、有言実行に移されていることを強く期待している。

(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

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 トニー・フェルナンデス氏(Tony Fernandes)

 【略歴】1964年、マレーシアの首都クアラルンプール生まれ。英国の名門ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを卒業し、音楽大手ワーナー・ミュージック・グループの幹部を歴任。2001年に航空機2機を持ち、当時の約11億円相当の借金を抱えて経営破綻状態に陥っていたエアアジアを1リンギット(約30円)で買収。最高経営責任者(CEO)としてアジアに幅広い路線網を持つLCCに成長させた。経済を通じた貢献が評価されて英国の大英帝国勲章やフランスのレジョンドヌール勲章を受け、米誌タイムの15年版では「世界で最も影響力がある100人」に選ばれた。

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