【どうなる関西鉄鋼市場・展望と課題1】関西鉄鋼関連企業首脳に聞く

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松野氏「大阪市の〝夢洲まちづくり構想〟に期待」

――今回は関西の鉄鋼市場が近い将来どうなっていくのか、というテーマで座談会を開催させていただきました。関西地区の鋼材需要は年間800万トン内外で推移おり、今後もあまり増えないと思われますが、一方で、万博誘致、IR(統合型リゾート)の展開など関西経済の景気浮揚策が出てきている。まずそうした「関西プロジェクト」の動向について新日鉄住金の松野大阪支社長に説明して頂き、座談会の糸口にしていきたいと思います。

松野「大阪万博の話が喧伝されているが、すでにBIEというパリにある万国博覧会国際事務局への正式な届け出が終わり、フランスのパリ、ロシアのエカテリンブルク、アゼルバイジャンのバクーとの争いになる。来年の11月に加盟国の投票で決まる。IRを含めて、地域行政と経済団体は一致した動きになってきている。万博を含め大阪府、大阪市、そして関経連(関西経済連合会)・(関西経済)同友会・(大阪)商工会議所の経済3団体が一緒になって、人工島の夢洲(ゆめしま)を国際観光拠点として整備するための検討会を作った。その中で〝夢洲まちづくり構想〟を2月に取りまとめ、先日大阪市が発表した。夢洲の170ヘクタールを北から南に3分割し、3期にわたり開発する。その1期目が北側70ヘクタールのIRだ。2024年をめどに―統合型リゾートなのでカジノだけでなく―MICE(会議や展示会などのビジネスイベント)、エンターテイメント、商業、飲食などの施設を合わせて整備する。第2期は中央部60ヘクタールを25年開催予定の万博会場にする。万博終了後は、万博のテーマとの関連で、関西にあるライフサイエンス産業と連携し、ニューツーリズムというメディカル・スポーツの拠点を形成。この分野を盛んにし、1期で開発したIRとの相乗効果を狙おうという計画だ。第3期はまだ具体的になっていないが、26年度以降、南側40ヘクタールに長期滞在型のリゾートを建設するという大まかな内容になっている。この構想は、万博開催が前提となっているので、誘致の成否によってどうなるかということもあるが、検討会の試算では、2期までで経済波及効果が1兆3千億円、雇用創出効果は8万人規模と見積もられている。もちろん建設後の経済効果も相当なものになるだろう」

森氏「大阪の建設需要、高層マンション含め出て来る」

――交通インフラの整備も活発になってきている。

松野「交通インフラでは、リニア中央新幹線や北陸新幹線の延伸に加え、高速道路のミッシングリンク解消に向けた取り組みが進んでいる。今年度では淀川左岸線の延伸部(9キロ、総事業費4千億円)、大阪湾岸道路の西伸部(15キロ、5千億円)の事業に着手することになっている。これも地域行政と経済団体の一体化した取り組みが推進されているという印象はある。大阪都心を南北に貫く鉄道新線「なにわ筋線」の整備で、大阪府、大阪市、JR西日本、南海電鉄、阪急電鉄が合意した。こうした複数の事業がフィジブル(実行可能)で進むのであれば、大阪を中心にした関西で、地域創生に向けた動きがどんどん出て来て、オリンピックが終わったあとはむしろ関西の時代という可能性が出てきたかと思う」

――計画実現で関西の鉄鋼業界にも効果が出るか。まず共英製鋼の森社長から。

 森「日本全体の状況でいえば、建設投資額が16年の名目値で52兆円ほど。GDPの成長率を1%とし、それが継続すると、25年には54・9兆円になる。そういった意味では日本全体の建設需要を悲観することはない。ただ住宅関係は減ってくる。新築住宅着工戸数は16年で97万戸以上あるが、25年以降では70万戸弱になりそうで、相当な落ち込みが見込まれる。このように住宅関連では鋼材の需要は期待できない」

 「ただ繰り返しになるが、全体の建設需要は増える。足元のGDPの伸びは1・5~1・6%あるので、前提条件の1%は固く見積もっても達成できるのではないか。建設投資額はピークには84兆円あったが、それが一時は半減し、現在は少しずつ回復している。住宅に関しても、大阪ではこれからもマンションが建設されそうで、手堅いのではないかと思う。東京は地価が高くなりすぎて足元相当落ち込んでいるようだが、大阪は、今後高層マンションを含め需要が出て来ると見ている。そのため8年後を見据えても悲観することはない」

阪上氏「観光客の来訪高まり色々な政策で活気も」

――流通として先行きをどう見るか。

阪上「心強い話を聞かせて頂いたが、日本全体でいうと鉄鋼内需は放っておけば段々減少する。建設需要もそうだし、製造業も流れとしては海外シフトし、(国内に)返ってこない。また日本全体の内需が減少する中で、地域格差も出て来る。関西地区は、以前に比べ政策的に色々なことに取り組んでいこうという動きが出てきた。海外からの観光客の関西地区への来訪率は非常に高く、それを活かした計画が色々とある。その計画が進めば、インフラ、特に交通系が整備されれば人が集まってくる。人が集まれば色々な波及効果が出て来る。日本全体の中で、大阪が勝つということを期待したい」

――住宅建築向け製品が多い山下社長は。

山下「住宅だけをみれば人口減で需要が減っていくと思うし増えるわけがない。しかし大阪地区を20年前から見ていると、当時、中之島には高層ビルが少なく、三井物産のビルや新日鉄が入っていた朝日新聞のビルが一番高かったぐらいだ。それがこの15年ほどでものすごく高層ビルが建っていった。(バブル景気崩壊後の)失われた20年の間にも、なんやかんやといってもビルが建っていった。経済成長がよくない間でもだ。特に安倍政権になってからはお金が余り、倒産が少なく、色々な需要が出てきている。また高速道路が整備されれば人が動くし経済活動が活発になる。今後も交通インフラの整備が進めば人がさらに動く。海外からの観光客もスピーディーに移動ができる。人が動けばお金が落ちる。そういう意味では東京オリンピックの終わった後もゼネコンは需要が続くと見ている」

関西地区の鉄鋼需要動向などについて語り合う各氏

山下氏「大阪、万博・IR次第では盛り上がりも」

山下「以前は20年で建設需要は終わりだと言われていたが、それ以降も伸びるとはいわないが、崖のようにすとんと落ちるということもないようだ。これだけプロジェクトがあり安倍政権の金融政策が続けば、一時のように需要がしぼむというリスクは国内だけをみればあまりないように思う。ただ金融は、海外の要因でおかしくなる可能性はある。アジア通貨危機やリーマン・ショックがその例だ。そのためIRや万博があっても金融危機が来ると飛んでしまう。金融面は予想がつかないが、プロジェクトがあるのは心強いし、住宅はダメだが、高速道路やマンションなど色々なところで需要は出てくるだろう」

松野「地域活性化プロジェクトでは、大阪最後の一等地・うめきた2期工事(事業規模1154億円)が、〝みどりとイノベーションの融合拠点〟をテーマに着々と進んでいる。また大阪の真ん中の中之島地区に大阪市の市有地があるが、その半分を大阪大学が中心になって、新たな文化・芸術・学術の拠点をつくろうという中之島アゴラ構想がある。その隣の半分の市有地では〝うめきた〟と連携し、再生医療の国際拠点を創るという2つのプロジェクトが走っている」

――商社ではどう見ていますか。

中西「品種により色々あるだろうが、製造業、例えば自動車や家電製品で海外に出てしまったものはなかなか戻ってきにくいだろうと思う。一方で住宅やビル、道路・鉄道などのインフラ関係など国内向けに出ていく鉄は―人口が頭打ちになっているのでだらだらと落ちていくだろうが―極端に減ったりすることはなく、全体感では、そんなに悲観することはないだろうと思っている。」

 「その中で大阪は、山下社長がおっしゃったように、道路ができ、ビルも建っている。大阪は、地盤沈下といわれて久しいが、そんなにこれまで悪かったかというとそれほどでもない。ただ東京が盛り上がっているし、今もビルが建ち続けているので、それに比べると見劣りはするが、大阪がへこんでしまっているわけではない。これから先も、もし万博誘致やIRの開発が上手くいけば、国内全体が増えない中で大阪がこれまで以上に盛り上がってくる可能性があると思う」

中西氏「東京と違う〝独自の都会〟目指す計画確立が大事」

――東京一極集中ではいけないと。

中西「東京一極集中でいいのかという議論の中で、バックアップ機能としての大阪の位置付けが国として明確になれば、関西はまだまだ盛り上がるのではないかと思っている。それに加え、健康、医療、スポーツなどの分野ではポテンシャルはあるので、希望はある」

山下「京大や阪大の再生医療もこれから目玉になっていく」

中西「活気さえ出てくれば、われわれが携わっている鉄は、やはり使われていく。ビルが建ち、道路ができ、鉄道が伸びていくことになれば、鉄全体は関西でもまだまだ伸びていくと思っている。関西がミニ東京を目指すのではなく、独自の都市圏を計画的に確立すれば、全然悲観することはない。将来的にもこれから人手不足になるので、女性の活躍も相当期待しないといけないし、AIの活用などで働き方も変わってくるだろう」

阪上「住宅が減っていくというのは全国の話しで、その地域が活性化し人口が増えれば住宅も増える」

山下「しかし地方は高齢化し(人口増は)難しい。やはり元気のある都市の方に人は集中する」

松野「良い雇用の場があって、住むのに心地よい街になれば、きっと若い人は集まってくる」

阪上「人が集まれば地域の住宅増につながって来る。最近の関西の交通インフラに対する積極的な取り組みは、街づくりを後押しするいい材料だ」

森「住宅で言えば外国人、特に中国の方が買われているケースもある。関西地区でもその傾向は見られるようだ」

――インバウンド(外国人旅行者)についてはどう見ていますか。

松野「大阪を訪れる外国人旅行者数は、16年には、941万人と5年前の約6倍になっている。その旅行者は日本に平均6泊し、滞在中に平均約16万円消費をするので、経済効果は大きい。また、大阪の宿泊施設の稼働率は直近で84・1%と3年連続全国1位。同じく関西の京都が3位で、東京は2位だ。(20年に)東京オリンピックはあるが、その前(19年)にラグビーワールドカップが関西でも開催され、そのあと21年にはワールドマスターズゲームもある。ワールドマスターズゲームには選手だけで5万人が参加すると予想され、そのうち2万人は海外から参加。その家族も来られるとなるとかなりの効果が見込める」

――ホテル建設も多い。

松野「ここ3年でみても中規模ホテルの建設計画がかなりあり、百貨店などの大型商業施設の建替えや増設も進んでいる」

中西「インバウンドのここ数年の動向を見ても、事実たくさんの人が来て、いまや道頓堀は〝ここは日本か〟と言われる人もいる。たくさんの人が来ると活気も出るし、現実問題としてホテルもいっぱい計画されている。関西は京都も奈良も神戸も含め魅力があるんだ、ということを海外の人に気づかされた。かつて関西は、大阪は大阪、京都は京都みたいなところがありばらばらだったが、最近各都市の連携がよくなっており、いいことだと思う」

松野「海外からの観光客が増えているということは、ある面、人口が増えているのと一緒。住宅の着工戸数は減るが、ホテルに代わっているということだ。また消費も増えるので百貨店や大型商業施設の建替え、増設も活況を呈している」

北氏「地区CCの主需要先家電の海外移転痛手」

――コイルセンターとして北さんにご意見をうかがいたい。

北「われわれコイルセンター(CC)にとっては、例えば自動車のような製造業など継続して鋼材を使用してもらえるような産業が活発になるのが最もありがたい。先ほどの皆さんのお話にあった物件単位で箱物が動くのも、われわれにとって幸せなことではあるが、ただCCは20年前に全国で法人120社、事業所は160あった。そして2300万トン、冷延、熱延、表面処理を合わせ加工していた。それが現在は法人95社、事業所が120~130に減った。当然、メーカー系、商社系、オーナー系の廃業や合従連衡があってこの数字になった。加工量は17年3月期でやっと1601万トンに回復したが、なくなったのが700万トン。なくなった部分のうち一番大きいのは、松下、三洋、シャープだ。粗鋼1億2千万トンの時に、約6%のシェアが家電にあり、それが約700万トン。この家電が関西地区の需要の大きな支えだった。全体の鋼材需要は、箱物の物件が追い掛けていけば回復もしくはゲイン(増加)するかもしれないが、薄板では難しいように思う。いま1600万トン超えたが、次のステップ、阪神淡路大震災前の1700万トンに行くかといえばちょっと難しい。外国へ出ていった企業が本当に日本に帰るかどうか、ここがCCの一番悩ましいところだ。箱物、住宅、マンションが出れば、当然それにかかわる住宅設備機器とか家電商品も出るが、新設住宅着工戸数が70万戸ではどうしようもない」