発達障害児の親集い30年

 コミュニケーションが苦手な自閉症スペクトラム障害(ASD)や、気が散りやすい注意欠如多動性障害(ADHD)などの発達障害。そんな障害のある子どもの保護者が、長崎発達支援親の会「のこのこ」(中原圭子会長)を結成して来年で30周年を迎える。保護者が集い、痛みや悩みを分かち合う姿を取材した。 ■ストレスを爆発  5月のある朝。西諫早公民館(諫早市)の一室。10人ほどの母親がテーブルを囲んでいた。初参加の母親が、ぽつりぽつりと話しだした。

 「息子は大勢の子がいる教室が苦手。学校から帰るとストレスを爆発させる」  会員は1時間ほど悩みに耳を傾け時折、助言する。「聴覚が過敏かもしれない。検査を受けたら?」「先生への言葉遣いは丁寧にした方がいいよ」  最新の療育法から教師との付き合い方、目が届きにくい障害のないきょうだいへのフォローまで、助言はどれも実践的だ。経験談に冗談を交え、笑い声も起こる。

 初参加だった母親は帰り際に言った。「悩んでるのは私だけじゃなかった」  のこのこができたのは1988年。当時の長崎大医療技術短期大学部(現長崎大医学部保健学科)で、療育を受ける子どもの母親10人ほどで結成した。親の会としては九州で初めてだった。

 会員は今年、約80人に増えた。30~50代の母親が中心だ。長崎市障害福祉センターや西諫早公民館などに集まり、子どもの年代別に分かれて接し方や悩みを語り合う。父親向けの座談会や、臨床心理士ら専門家を招いた勉強会もある。昨年度は50回以上の会合に、延べ約500人が出席した。 ■普通のお母さん  息子に自閉症スペクトラム障害などがある古池美智子さん(48)=仮名=は、9年ほど活動している。当初は「『子育てできない母親』と思われていないか心配で、周囲と目を合わせられなかった」と振り返る。

 小学1年のとき、運動会で息子は笛の音に驚き行進の列から飛び出した。ラジオ体操もしなかった。授業中は立ち歩き、友だちをつくるのも下手だった。「今後どうなってしまうのか」。不安ばかり募ったという。

 小学校で息子がトラブルを起こすたび、学校から連絡があり、仕事を早退した。やりがいを感じていた仕事も辞めざるを得なくなった。心配してくれる知人もいたが、悩みを打ち明けても分かってはもらえないと思っていた。「他人の言葉に耳をふさぎ、自らの心に閉じこもった」  息子が小学3年のとき、のこのこの勉強会に初めて参加した。子育てのことを話しても、誰からも批判されなかった。

 「あ~あるある」  笑いまで起きる。古池さんは「あそこでだけ普通のお母さんでいられた」と打ち明ける。

 ハンディのある子を育てていれば不安は続く。なのに会員はよく笑い、おしゃれもしていた。そんな姿に「明るく生きていく」という強い意志を感じた。

 あれから9年。息子は高校に通っている。進路や就職など悩みは尽きない。でも、のこのこの座談会には今も顔を出す。かつての自分のように張り詰めた表情のお母さんが、やって来ることもある。そんなときはいつも、心でささやいているという。「私たちを見て。大丈夫。その苦しみから、いつか抜け出していこう」  同会への問い合わせはホームページ(http://n-nokonoko.org) ◎ズーム 発達障害  脳の一部機能の障害が原因とされる。自閉症やアスペルガー症候群、注意欠如多動性障害(ADHD)などが含まれる。自閉症スペクトラム障害(ASD)は自閉症やアスペルガー症候群などを含む新たな呼び方。2012年の国の調査では、通常学級の小中学生(公立)の6・5%に発達障害の可能性があると推計。大人になって診断されるケースもある。

© 株式会社長崎新聞社