実況アナが語る日ハムの魅力 大谷は「ボンズ」、大田の打球は「紙飛行機」

スポーツ専門チャンネル「GAORA」のスポーツアンカーを務める近藤祐司さん(43)の思いに迫るインタビュー続編。本塁打を放った時に発する「イッツゴーン(It's gone)!」など英語を多用した独自の実況スタイルを生み出した近藤さんは、元々アメリカンフットボールの有名選手だった。商社マンを経て、アメフト解説者からスポーツ専門のアンカーマンに転身した異色の経歴の持ち主だ。

スポーツ専門チャンネル「GAORA」のスポーツアンカーを務める近藤祐司【写真:石川加奈子】

アメフト日本代表から商社マン経て実況アナへ、異色経歴の近藤祐司氏

 スポーツ専門チャンネル「GAORA」のスポーツアンカーを務める近藤祐司さん(43)の思いに迫るインタビュー続編。本塁打を放った時に発する「イッツゴーン(It’s gone)!」など英語を多用した独自の実況スタイルを生み出した近藤さんは、元々アメリカンフットボールの有名選手だった。商社マンを経て、アメフト解説者からスポーツ専門のアンカーマンに転身した異色の経歴の持ち主だ。

 立命館大時代は、ディフェンシブバックとして活躍。94年には甲子園ボウルで大学日本一に輝き、最優秀守備賞を受賞。日本代表にも選ばれた。

「大学を出て96年に1度商社マンになったんですが、イメージしていた世界と全然違って8か月くらいで辞めたんです。それで平日は母校のコーチとして後輩を教えながら、週末はアサヒ飲料チャレンジャーズでプレーをして、その後、NFLヨーロッパに挑戦しました。でも、向こうでケガをして、自分の現実を思い知らされて、スポーツを伝える側を目指そうと思ったわけです。

 普通の方法としては局アナでしょうね。ただ、当時、FMDJでヒロ寺平さんという方が関西学生アメフトのハイライト番組をやっていて、このスポットが欲しいと思いました(笑)。まずはアナウンススクールに通いました。それがスポーツの話をしたり、アメフトに関わる道なのかなと思って」

 アナウンススクール時代に転機が訪れた。97年に「GAORA」のアメフト中継の解説者として、この世界に入った。さらにTBSのアナウンサーだった石川顯氏との出会いによって、解説者から実況者へと立場が変わっていった。

生放送は年間180試合ほど、「まだまだ修行中」

「アメフトの解説をしていた時にTBSの石川さんが実況する試合でご一緒したんです。その時に石川さんから『近藤くん、君、絶対実況できるからやった方がいいよ』と言われて。それまで自分がアナウンサーになるという発想はなかったんですが、NFLの実況をさせてもらえるようになりました。

 NFLは絶対に知っていないとしゃべれないと思うんですよ。自分が解説の時に『こういうことを聞いてくれたらこう答えられるのに』と思うことがありました。反対の立場になった時には、それを意識してしゃべりました。

 その後、担当プロデューサーがメジャーリーグに異動になり、野球の実況も始めました。メジャーリーグは昔から見ていたし、サンディエゴに住んでいたからパドレスの試合はよく行っていました。トニー・グウィンとか見に行っていたので。元々、野球とアメフトを子供の頃からやっていて、日本に帰ってきた時には地域の少年チームで野球やっていましたから。守っていたのはサードとかショート。父親も巨人ファンでずっとテレビは普通に見ていましたしね。

 NFLは週1回しか試合ありませんが、野球は毎日やっているでしょ。だからNFLより4倍、5倍やるようになって、どんどんメジャーリーグをやるようになりました。

 アメフトもしゃべるし、バスケもしゃべるし、年間180試合くらい生放送します。だから、反省点もあるんです。外国人の名前のファーストネームがごっちゃになったりするので、そこはまだまだ修行中です。

 まさか自分が人前で日本語を話す仕事をするとは思わなかったですね。グアムの小学校にいたときは、日本に帰ったら日本語がメチャクチャになるんじゃないかと親が心配していました。実際、中学に入ったら日本語が変だと先輩にはよく言われましたよ。だから、これはもう運命のいたずらですよね」

大谷翔平を実況する心境吐露、「歴史に遭遇できているということ」

 GAORAの日本ハム主催試合の実況を担当して3年目。ずっと見続けている日本ハムへは温かい視線を送る。

「ファイターズはメジャーリーグをものすごく勉強している球団だと感じますね、いろんな意味で。新たなものを積極的に受け入れるという球団に、僕もマッチしたのかなと思うし、受け入れてくれている球団に感謝です。

 あくまでも僕は放送局に雇われている人だけど、ファイターズを担当する限りはファイターズの勝つ試合を届けて、ファンを増やしたいと思っていますよ」

 現在は戦列を離れているが、大谷翔平選手という世界も注目する二刀流選手を実況する心境はどのようなものだろうか。

「歴史に遭遇できているということだと思います。残念ながら王さんや長嶋さんを実況できませんでしたが、大谷翔平という今後の球史に名を刻む選手の今を一つ一つしっかり伝えていかなきゃいけない。それは使命です。

 僕は、バリー・ボンズのホームランも現地で実況したんですよ。バリー・ボンズも常に2試合に1本くらい打っていました。70本の記録を抜いた年の試合も3本くらい実況したんですけど、本当に普通に打つんですよ。それに近いものがあります。特に今年はオープン戦から毎試合のように打っていたので。まさにバリー・ボンズ。

 見ていてワクワクします。ただ、僕はファンではないので。そこは冷静に伝える、分析しながら伝えるというスタンスです。ゴーンとかワン、ツー、スリーはポイントで言ったら映える言葉なのですが、あくまでも主役は解説者。スポーツ中継の花は解説者であって、その人の良さを引き出して、野球観を表現してもらって、コーチになってもらう。それが僕にとっての理想です。

 ガンちゃんのようにエンターテイナー的な解説者もいるし、建山さんみたいに冷静に見る人、稲田さんも含めいろんなタイプがいます。解説者の味もあるし、カラーもあるので、そこはうまく持って引き出したいですね」

巨人から加入の大田には“覚醒の予感”、打球は「フリスビーとか紙飛行機みたい」

 巨人から移籍1年目。9日からの巨人3連戦で10打数7安打、2本塁打を放った大田泰示の大活躍についてはどう感じたのだろうか。ちなみに「1番」で起用された大田が10日にいきなり先頭打者本塁打をバックスクリーンに放った際には「イッツゴーン!」を言いそびれている。

「センターへの打球は距離感がなかなかつかみにくいんです。あれは完全に陽岱鋼の動きに騙されました。ただ、本当に打球が全然落ちてこなかったですよね。フリスビーとか紙飛行機みたいに。

 栗山さんも常に“物語を作ってやる”って言っていますし、それを僕らも放送側でそれをバックアップしていかなきゃいけないと思っています。気持ちよくやってもらうようなアナウンサーでありたいし、プレーに集中できるような実況して、もちろん盛り上げていきたいし。大田選手、空気が変わって、まさに覚醒を待つ、その予感が出てきましたね。これから本来の力をどんどん発揮していくのではないでしょうか」

 近藤さんがホームラン用に使う英語はノリの良い「イッツゴーン!」だけではない。これは日本ハムの選手が打った場合。対戦相手が打った時には、ややテンション低めに「グッバイ(Good bye)」や「シーユーレイター(See you later)」を使うことが多い。

 メリハリの効いた実況は、対戦相手のファンが聞いたらカチンとくるかもしれない。だが、熱い気持ちのこもった個性的な実況が、多くのファンをひきつけていることも事実だ。

石川加奈子●文 text by Kanako Ishikawa

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