【特集】晴れ晴れと「卒母」宣言

子育てゴールで新たな出発へ

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「毎日かあさん」は映画にもなった。2011年2月の全国公開を前に、キャラクター人形を手にする西原理恵子さん=東京都武蔵野市
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精神科医の香山リカさん

 大きくなっても子どもは子ども。母の心配は尽きないものだが、子どもの自立には親離れとともに、「子離れ」も不可欠。であれば、成長した子どもにも周囲にも、母から宣言してしまうというのはどうだろう。

 私、「卒母」します―。

 ▽「かあさん」終了

 5月22日の毎日新聞朝刊。漫画家の西原理恵子さんが、2002年から同紙に連載してきた「毎日かあさん」を6月26日で終えることを表明した。

 子どもが大学生と高校2年生になったことから、子育てを終えて母親を卒業することが理由。これを「卒母」と表現した。西原さんはインタビューに答える形で「うちでは16歳が独り立ちの時」「自分のすることを自分で決めて、舟に帆を張り、そこに風が吹いているような状況だと思う」「『あ、お母さん終わった』って気が付いた。後は自分の好きな人生を送らせてもらいます。子育て終わり。お母さん卒業」などと語った。

 これにネット上で反応したのが同じ母親世代。「私の子育ての理想型」「『卒母』という言葉に拍手。子どもの人生、応援はするけど、卒業」などと称賛のほか、「永遠に甘えられてそうで卒母なんて夢のまた夢のような気がする」「就職することが親のゴールだとしても、心配は尽きない」とわが身を重ねた声などが飛び交った。

 中には「私もいつか子育て卒業するんだよな」と、ハッとした様子や「卒母をするまで子どもとの時間を大切にしなくては」と、ちょっぴり切ない書き込みも。

 そう。そうなのだ。子どもの世話に追われ、いつになったら楽になるのか―と、ついため息をついてしまう日々も、終わるときが来る。子どもが手助けを必要とするのは期間限定。「卒母」は、そのことを教えてくれる言葉でもあったのだ。

 ▽自分におめでとう

 「本日、『母親』を卒業です」。2015年3月にブログにこう記していた東京都の司法書士片岡和子さん(56)に会いに行ってみた。

 長男に続いて長女も大学を卒業し、社会人になったときのことだという。すでに1人暮らしをさせていたが、親として経済的な負担がなくなり、「名実共に子育て卒業」と感じた。「ここから先は自分の好きなことをさせてもらうね。もういいでしょ?頼って来ないでよ、という気持ちでした」

 そうは言っても、心配は尽きず、卒業は寂しかったのでは―?と尋ねると「子どもは自分とはしょせん別人格です。思い通りにはならないし、何か言ったって言ったとおりにはしないし、心配したらきりがありません。寂しくなんてなかったです。やることはちゃんとやったんだ、と晴れ晴れとして、自分にも『おめでとう』という気分でした」。さばさばと笑った。

 「卒業」という言葉が共感を呼ぶのは、離れるだけでなく、出発の意味もあるからなのだろう。

 「卒母」について精神科医の香山リカさんは、「自分がいなくても子どもは生きていけると感じられるときが子育てのゴール。しかし子どもとしては親に依存している方が楽ですから、『あとは自分でやっていきます』と言い出すことはそうそうないでしょう。親の方からすっぱりと卒業を告げ、見切り発車するのはいいことです」と話す。

 ▽「卒父」できる?

 ただし、二つの問題点を指摘する。

 一つは、世間の見方。母はいつまでも母親であるべきだという聖女幻想はまだ根強い。これを変えないと、単なる責任放棄だと批判されかねない。

 そしてもう一つは、男性だ。「女性は、いい母親として生きるだけではなく、自分としてどう生きるかを考えている人が多いから、卒母に至るでしょう。しかし、その夫はどうでしょう。妻を『母』として見ていて、自分も息子になってしまっている夫が多いです。夫は、妻が卒母することを受け入れ、卒母した妻をパートナーとして尊重していけるでしょうか」。夫が子どものままでは、妻は夫からも「卒母」してしまう…なんてことにもなりかねないというのだ。一緒に「卒父」もできるかは重要らしい。

 慌ただしくて大変だと思っていた子育て期だが、いつの間にかカウントダウンが始まっていた。卒業後の自分の生き方も考えつつ、あと少し、子どもとのドタバタな毎日を満喫しておこう。(共同通信=小森裕子)

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