金属行人(6月22日付)

 「品川白煉瓦を知っていますか。証券コードは5351です」。証券会社での会話…ではない。筆者が旅行で訪れた台湾の総統府で日本語ガイドから出てきた話である▼現社名が品川リフラクトリーズであることはさておき、同社が台湾でよく知られている理由は総統府の外観にヒントがある。初めて見てもデジャブを感じるのは気のせいではない。総統府が建てられたのは日本の統治下にあった1919年。その5年前に完成した東京駅をモデルに、同じ赤煉瓦が使われている。これを供給したのが当時の品川白煉瓦であり、こうした経緯が総統府の歴史館に明示されている▼総統府の案内では日本時代の歴代総督についても語られ、特に4代目の児玉源太郎と部下だった民政長官・後藤新平の解説は手厚い。関東大震災の復興などで内政手腕を発揮した後藤新平は台湾でも経済発展の礎を築いた人物とされている。日本の統治時代を評価する声があるのも、優れた先人がいたおかげに他ならない▼72年の日中共同声明で、日台関係は非政府間の実務関係と定義された。いわば台湾は国でなく「地域」とみなし、新聞記事でもそう表記している。その身近な地域に、語り継がれる日本があることは忘れたくない。

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