【新社長インタビュー】〈伊藤忠丸紅住商テクノスチール・中野次郎氏〉「技術力備えた商社」目指す 建材市場変化、攻めに転換

――昨年1月に伊藤忠丸紅テクノスチール、住商鉄鋼販売の旧2社が統合し、4月に2代目トップとして平本淳前社長からたすきを受け取った。就任が決まってからの心境の変化、現在の気持ちは。

伊藤忠丸紅住商テクノスチール・中野社長

 「2015年4月から2年間、副社長としての助走期間を与えられていたので 即座にトップギアで走らねばならない立場だと考えている。今後は20年の東京五輪・パラリンピックを控え、少なくとも3~4年は大きなフォローの風が吹くことは間違いなく、恵まれた時期に会社を任されて幸運だと感じている。ただこの数年で何をするかによって5年、10年先の会社の方向性が決まる大事な時期でもあり、非常に大きな責任も感じている」

――就任して取り組みたいことは。

 「まずは社員の意識改革を進めたい。リーマンショック、その後の円高不況等の影響もあり、国内の建材マーケットは厳しい時代が続いたため、社員に守りの姿勢が染みついている。もちろん守りは大事だがステージが変わって来ているので『攻めに移れ、お金は使っていい』と鼓舞しているところ。ここ10年ほとんど投資らしい投資はして来なかった。既存の設備更新投資のみならず新規事業投資案件を上げるよう呼び掛けている」

 「当社は社名に『テクノ(ロジー)』とあるように単なるトレードではなく技術力を備えた商社を目指している。今後さらに進む省力化、省エネ化につながるようなユニークな商品開発向けの投資を狙いたい」

――自社の強みと弱みはどこにあるか。

 「伊藤忠商事・丸紅・住友商事の総合商社3社の情報を活用できる点が大きく、加えて3社はゼネコンに対して施主としての側面もある。この3社が手掛けるオフィスビルやマンション、物流倉庫、風力・火力発電施設などで施主代行的な立場で各ゼネコンと関係を持てるのが強み。また3社傘下には関係会社が多数あり、オフィスビルを多数所有される各デベロッパーとはテナントとしての関わりも持てる。現在活況を呈している大型物流倉庫でもその存在感は非常に大きい」

 「強みのもう一つは独自商品の存在。床版関連の『ファブデッキ』『スーパーKHスラブ』や鋼管立体トラスの『サミットフレーム』、建築用鋼管杭の『SGE工法』など、ユニークな商品群を展開しているのが特長だ」

 「課題としてはいわゆる商社鉄骨と呼ばれる鉄骨工事事業だ。昨年4月に営業第三本部として工事関連を全国横断的に管掌する組織を立ち上げ受注体制を整えるとともに、施工管理体制の充実を図っているところだ。徐々に工事量は増やしているが、一朝一夕に人材強化はできない。競合他社に比べ周回どころか2~3周遅れている。ここが強力になってこそ、ファブや特約店との関係も強化できる」

――グループ間での連携の在り方は。

 「株主の伊藤忠丸紅鉄鋼と住友商事に対しては、利益を極大化して収益に貢献することが最大の課題。伊藤忠丸紅鉄鋼からは営業部門・職能部門に優秀な人材を派遣してもらっており、住友商事も強力な不動産部門で営業支援をしてくれている。関連会社では35%出資するトーセンがあり、トレードメリットを享受している。今後は北関東や東北地区で営業面での協力も今まで以上に強化したいと考えている」

――定量的な目標は。

 「新会社として初めて通年決算となった17年3月期は連結売上高の目標から15%ほど未達であった。今期はまずその数字をクリアの上、統合のシナジー効果をきちんと見定め来年度からの中期3カ年計画を作成する。経営指標としては、一人当たりの利益にこだわっていきたい」

――海外事業の展望は。

 「現在はベトナム・ホーチミンのSMCサミット社(住友商事が50%出資)に当社社員2人が出向中で、ここをベースに鉄筋のみならず建材類の拡販を図っている。また当社が5%出資する台湾の中構日建や、3%出資するフィリピンのPNSアドバンスド・スチール・テクノロジーでも合弁事業を展開している。今後ゼネコンが今まで以上に海外展開を強める中、特にアジアでは日本国内と同じような対応が求められるので株主とも協力しながらしっかりとした対応を取れる体制を目指していく」(新谷 晃成)

プロフィール

 趣味はゴルフで伊藤忠丸紅鉄鋼在籍時には「ゴルフ部長」を拝命。現在も自社では相互会「名誉会長」を自任する。中学・高校生時代はバスケットボールで汗を流し、今もジムで体を鍛える。「公明正大」を旨として万人に対してフェアな態度を心懸ける。家族は妻と嫁いだ2女。10月に生まれてくる初孫との対面を心待ちにする。

略歴

中野 次郎氏(なかの・じろう)1979年(昭54)京大経済卒、丸紅入社。03年POSMIスチールインドネシア社長、05年伊藤忠丸紅鉄鋼鋼材貿易第一部長、12年執行役員鋼材第一本部長、14年伊藤忠丸紅テクノスチール取締役兼常務執行役員、16年伊藤忠丸紅住商テクノスチール取締役兼副社長執行役員などを経て17年4月から現職。大阪府出身。61歳。

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