港WORKER:元声優、船好き高じて転職

 ◆工場夜景クルーズ船長 五十嵐あすかさん 京浜工業地帯の夜景をクルーズ船から眺める「工場夜景ジャングルクルーズ」でガイド解説を務めている五十嵐あすかさん(34)=横浜市保土ケ谷区=は、アニメ声優やナレーターから船乗りに転職した異色の経歴の持ち主だ。

 運航するケーエムシーコーポレーション(同市西区)で2年前から勤務し、クルーズ船の船長と機関長を務めている。優れた操船技術と優しい語り口調で“工場萌(も)え”のファンたちを魅了している。

 「経験を積んで船長をやってみないか」。このせりふから、船乗り人生が始まった。声優からナレーターに転職したばかりの24歳のころ、アルバイト先だった東京港の屋形船の船長から不意に誘われた。

 埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。離島への船旅が好きで興味があったが、海技士の資格が必要と聞いた。船員養成機関の国立清水海上技術短期大学校(静岡市)を調べたところ、この日が願書締め切りのちょうど1週間前。年齢的に後がない。勢いで入学した。

 航海士志望だったが、機関士の授業が楽しくて仕方なくなった。「初めて聞いたエンジン音にドキドキしてしまった。狭くて暑い機関室で、油まみれになっても全然気にならない」。練習船3隻での実習を終えて卒業後、毎日自宅に帰れる範囲で仕事がしたいと、2年前に東京湾内の平水区域でクルーズ船を運航する同社を選んだ。

 平水区域とはいえ、海に出ればそこは自然。気象海象は毎日違い、日々充実感がある。「雪が降ってきたりとか、暴風雨に遭遇したりとか、そのときはすごく大変。でも一つ乗り越えたときに、船乗りとして成長できたなということを感じられる」 誕生から10年を迎えた「工場夜景ジャングルクルーズ」では暗くて狭い運河を航行する。明るいうちに何度も走り、どこに何があるかを全て頭に入れている。運河には夜でも釣り船が少なくない。「釣り船の動きは予測が付かないので、常に見張りは欠かせません」と安全航行を強調する。

 クルーズ船の船長としての仕事は責任が重いだけにやりがいがある。「特に、毎日自宅に帰れる平水区域の旅客船は女性が働きやすい職場。接客業なので、きめ細かな対応が求められる。女性がいることで、大型客船のような細かなサービスを実現したい」 クルーズ船に乗務するときは船長、機関長、ガイドのいずれかの仕事を同僚と分担している。五十嵐さんが好きな仕事は、やはり横浜港のガイドだ。そのときに船から見えたものを紹介している。

 「例えば、横浜港観光船『マリーンルージュ』とすれ違った場合は、サザンオールスターズの歌に登場するよ、といった雑学を織り交ぜながら楽しい時間を過ごしてもらっています」 横浜港では新たな客船岸壁の整備など再開発が進み、さらに華やかさを増してゆく。日本最初の開港の地であり、さらに発展を遂げている横浜港の魅力をこれからも伝え続けるつもりだ。

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