【特集】追い詰められた“雲隠れ”トップ(下)

タカタ破綻

©一般社団法人共同通信社

2014年11月、米ワシントンの上院公聴会でタカタ製エアバッグを手にする議員(AP=共同)
今年1月、米デトロイトでタカタ元幹部の起訴を発表した米司法省の記者会見(ロイター=共同)
記者会見を終え、退席するタカタの高田重久会長兼社長(左)=6月26日、東京都千代田区

 ▽「あと何人が命を落とすのか」

 同じ自動車業界の創業家トップでも、トヨタ自動車の豊田章男社長は2009~10年の大規模リコールにつながった「意図しない急加速」問題に関する10年2月の米国連邦議会公聴会で自ら証言した。対照的に、欠陥エアバッグ問題が深刻化して経営危機に直面しても、今月26日に民事再生法の適用を申請して経営破綻したタカタの高田重久会長兼社長は連邦議会公聴会への出席を拒んで“雲隠れ”を続けた。

 日本政府関係者は「公聴会に出席して謝罪して誠実に対応すると表明すべき場面だったのに、逃げ回ったことで米国世論の反発で火に油を注いだ」とあきれた。そんなタカタの欠陥エアバッグ問題への対応は、出足からつまずいていた。

 エアバッグの作動時に内部のガス発生装置が異常破裂し、まるで矢のような金属片が飛び散る欠陥製品は主に2000年代に米国とメキシコの工場で生産され、搭載したホンダによる最初のリコールが08年にさかのぼる。当然ながら欠陥の恐れがある製品を早急に洗い出してリコールを急ぐ場面だったにもかかわらず、タカタは「問題が起きた根本的な原因を解明できていない」と繰り返すばかりでリコール対象の拡大に及び腰の姿勢だった。このため、他の自動車に搭載されていた欠陥製品のリコールが遅れ、衝突事故で人命を救う役割とは裏腹に軽度な衝突事故でも車の運転手らの首などに突き刺さり、死に至らしめる不幸な事故が相次いだ。

 ただ、具体的な原因究明にてこずる中でも、タカタはエアバッグを膨らませるためのガス発生剤に硝酸アンモニウムを使っているのに対し、問題が起きていない他の主要メーカーは異なるガス発生剤を使っているため「硝酸アンモニウムが原因ではないか」と見方が濃厚になっていた。

 「一体、あと何人が命を落とすことになるのか」「拳銃を向けられながら高速道路を運転しているようなものだ」。「殺人エアバッグ」としてタカタ製の欠陥が米国で非難ごうごうだった14年12月3日、この問題を取り上げた米首都ワシントンの連邦議会での下院エネルギー・商業委員会小委員会の公聴会で、議員は口々にタカタの対応を手厳しく批判した。

 矢面に立たされたタカタの清水博・品質保証本部シニアバイスプレジデント(当時、現取締役)は「根本原因は突き止められていない」と打ち明けながらも、リコールの実施地域を問題が起きやすい高温多湿地帯だけで実施すればいいと主張。米道路交通安全局(NHTSA)が求めたリコールの全米への拡大を拒否したことに、議員からは「米当局の要求を拒絶し、国民を危険にさらしている」と反発の声が相次いだ。

 議員らが憤りを増幅させた背景には、公聴会前日にタカタが米当局に送りつけた挑発的な手紙があった。NHTSAは14年11月26日、ホンダやマツダなど自動車5社が米南部などの高温多湿地域に限定して実施した運転席エアバッグのリコールを全米へ拡大するように書簡で要求。14年12月2日までに届けなければ「1台当たり最大7千ドル(約77万円)の民事制裁金を科す可能性がある」と警告した。

 これに対し、タカタが14年12月2日にNHTSAへ送った回答書は「このような手紙を受け取って大変驚いている」「返信まで2営業日しか与えられなかった」と不満をあらわにした上で、全米拡大に「同意しない」と断言する強気一辺倒の文面だった。事情通は「回答書はタカタが当時雇っていた米ニューヨークの法律事務所に対応を一任したと聞いている」と解説。米当局や議員らの反発にたじろいだタカタはその後、この事務所との契約を打ち切ったが「事務所は紛争になれば訴訟も引き受けられてもうかるとそろばんをはじき、わざとあつれきを生むような回答書を提出したとも言われている」(事情通)との観測が出ている。

 ▽「経営者の資質に疑問」

 地球の反対側を舞台にした米連邦議会公聴会でタカタが集中砲火を浴びている間も、部下に対応を任せっぱなしだった高田氏。動静が伝わらない中で、ロイター通信が14年11月30日に配信したタカタに関する英文記事は鮮烈な印象を残して「タカタの『女帝』である母親が院政を敷いている様子が伝わってきた」(大手企業幹部)、「高田氏が大手自動車部品メーカーの経営者が務まる器ではないのがよく分かった」(自動車ジャーナリスト)といった感想が漏れた。

 記事では事情通らへの取材に基づき、幹部らに「しげちゃん」と呼ばれている高田氏を「極度のあがり症で堅物」などと紹介し、会談した関係者の印象として社会的批判を浴びるエアバッグ欠陥問題について「時間の経過とともに収束すると思っているようで、危機感が乏しい様子だった」との話を報じた。一方、「大奥様」という呼び名の母親の暁子氏は「事業に関して時としてとても攻撃的で、あらゆる方法で自分の方法を強いようとする」とし、かつてライバル企業と泥沼のネガティブキャンペーンの報復合戦を繰り広げたと指摘。

 そんな双方の勢力図を映し出すような出来事として、高田氏が暁子氏に怒鳴りつけられた後に連れられ、東京都内の本社から数時間にわたって消えた逸話を紹介した。

 トップが説明責任を果たさず、エアバッグのリコール拡大にも消極的なタカタに対して他の米国で影響力がある大手メディアも「進み出て説明責任を果たすのを怠っている」(米通信社ブルームバーグ)、「ワシントン(連邦議会)を忌避した」(米紙USAトゥデー)などと反発を強めた。ホンダの乗用車「シビック」を運転中の事故でタカタ製ガス発生装置が破裂し、飛んだ金属片で右目を失明した米国人女性が、事故時の血だらけになった自らの顔写真を示しながら欠陥エアバッグの危険性を訴えたのも大きく報じられた。米世論で「危険な『殺人エアバッグ』を全て取り除け」との批判が高まった。

 ▽三くだり半

 「顧客の不安を払拭したい」。14年12月3日の公聴会で運転席エアバッグのリコールを全米へ広げるように要求したNHTSAにタカタが難色を示したのとは対照的に、北米ホンダのリック・ショステック上級副社長はリコールの全米拡大を宣言した。交換用のガス発生装置には日本のダイセルやスウェーデンのオートリブの製品を使うと強調し、1987年に日本初のエアバッグを高級車「レジェンド」に搭載した経緯を持ち、最大取引先として支えてきたタカタに“三くだり半”を突き付けた。

 タカタと一緒に対応策を探ってきたそれまでの姿勢から180度転換した背景を、ホンダ関係者は「米国で自動車を販売するのに米当局を敵に回すわけにはいかない。無責任な対応を繰り返すタカタと心中するのはまっぴらだ」と吐き捨てるように言った。ホンダに続いて他の自動車メーカーもリコールの全米拡大に踏み切り、米自動車大手「FCA US」(旧クライスラー)もタカタ製品の使用を取りやめると公表するなど「タカタ離れ」の動きが広がった。

 追い詰められたタカタに対し、NHTSAは最大2億ドル(約223億円)の民事制裁金を科すと15年11月3日に発表。併せてガス発生装置の異常破裂は硝酸アンモニウムが引き起こしたとし、タカタが安全性を証明しない限りは硝酸アンモニウムを使ったエアバッグの生産、販売を認めないとした。

 NHTSAの発表を受けて高田氏は、欠陥エアバッグが問題化してから株主総会の日以外で初めて東京都内で記者会見を開いて「ご心配をおかけしたことをおわびする」と謝罪した。しかし、時すでに遅し。民事制裁金を含めた米当局などへの巨額の支払いに加え、対象車種が広がって世界で累計1億個を超えたエアバッグのリコール、さらに犠牲者遺族や被害者らの損害賠償請求訴訟が山積している中で、タカタに支払い余力がないのは火を見るよりも明らかだった。

 17年1月には米国司法省がタカタの元幹部3人の起訴を発表し、10億ドル(約114億円)の支払いで合意したタカタの包囲網は一段と狭まった。

 今月26日に東京地裁に対して民事再生法の適用を申請して経営破綻したタカタ。会社を「3代目がつぶす」と言われるジンクス通りになってしまった高田氏を含めて約6割のタカタ株を握る創業家は「保有株の価値が紙くず同然になってしまう法的整理に強く抵抗していた」(事情通)とされる。だが、中国企業、寧波均勝電子傘下の米国自動車部品会社キー・セイフティー・システムズ(KSS)がスポンサーとして経営再建を進める上で、エアバッグ欠陥問題や創業家の影響を排除するために法的整理するのが不可避となり、高田家側も最終的に折れた。

 タカタの実質的な全事業は1750億円で買収することで基本合意したKSSの手に渡る見通しとなり、高田氏は26日の東京都内での記者会見で「事業譲渡などの実行までの適切な時期に私は経営責任を取って辞任する」と明言して会長兼社長から降りる意向を表明した。

 創業から85年を前にしてタカタは企業再編の波にのみ込まれる見通しとなった。KSSは日本の製造施設の閉鎖予定はないと説明しているが、エアバッグ欠陥問題によって傷ついた「タカタ」のブランド名は“雲隠れ”し、やがて消える宿命が待ち受けているのかもしれない。まるで経営危機に直面した際の高田氏の足跡をたどるかのように…。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

あなたにおすすめ