【特集】追い詰められた“雲隠れ”トップ(上)

タカタ破綻

タカタ米国法人本社のロゴマーク(ロイター=共同)
民事再生法の適用を申請し、記者会見するタカタの高田重久会長兼社長=6月26日、東京都千代田区
タカタの本社が入るビル=東京都品川区

 欠陥エアバッグの異常破裂で米国だけで少なくとも11人が亡くなり、大量リコール(無料の回収・修理)を起こした大手自動車部品メーカーのタカタが26日、東京地裁に民事再生法の適用を申請して受理された。民間調査会社の東京商工リサーチによると、負債総額はリコール費用を含め約1兆7千億円になる見通しで、製造業では戦後最大の経営破綻。改めて経営責任を問われているのが、被害が広がり社会的批判が高まった存亡の危機にひんしても“雲隠れ”して説明責任も果たさなかった創業家3代目、高田重久会長兼社長だ。トヨタ自動車の豊田章男社長は2009~10年の大規模リコールにつながった「意図しない急加速」問題に関する米国連邦議会公聴会に臨んで事態収拾に一役買ったのとは対照的に、高田氏は連邦議会公聴会への出席を忌避した。エアバッグで世界シェアの約2割、世界2位メーカーながら、トップが危機管理に失敗して米世論の反発を広げ、破綻への動きを加速させた舞台裏を、前任地のニューヨーク支局で取材した筆者が明かす。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

 ▽「冬彦さん」!?

 「重要な経営判断は私が決めるという形でしてきており、本件(エアバッグ欠陥問題)についても私の案件ということで個人的にも大事な仕事として対応している」。米国でエアバッグ欠陥が社会問題化してから久しい2015年6月、東京都内で株主総会後の記者会見に臨んだタカタの高田重久会長兼社長は女性記者からの「意思決定に会長のお母さま(高田暁子特別顧問)が口を出しているのか。実際の経営判断をしているのは本当に会長なのか?」という質問にむっとした表情で反論した。

 質問の背景には、タカタ株式の約6割を握る創業家の高田家で「重要な経営判断を担うのは、『タカタの女帝』と呼ばれて恐れられている暁子氏だ」という自動車業界内でささやかれるうわさがある。今年6月13日に81歳で死去した女優、野際陽子さんが出演してヒットしたTBS系テレビドラマ「ずっとあなたが好きだった」の登場人物に引っかけて「野際さんが演じた母親役が暁子氏ならば、(母親に依存する役柄で佐野史郎さんが演じた)息子の『冬彦さん』に当たるのは高田氏だ」と解説する向きもある。

 「初代が創業、2代目が傾かせ、3代目がつぶす」と語られることがあるが、タカタの場合は「2代目は当てはまらない」というのが衆目の一致した見方だ。タカタの2代目社長で高田氏の父親である故高田重一郎氏は、1933年に滋賀県で創業した織物メーカーをシートベルトやエアバッグなどの自動車部品大手に飛躍させた“中興の祖”だった。陰に陽に支えたのが重一郎氏の妻で、凸版印刷の故山田三郎太・元社長の娘である暁子氏で、タカタの常務などを歴任して「特にチャイルドシート事業を強化した立役者」(関係者)とされる。

 そんな暁子氏の自負心は、タカタ財団理事長として発した「タカタは、シートベルト、エアバッグ、チャイルドシートなどの開発と製造を通じて、一貫して車社会の安全と関わってきた。私たちの夢は、交通事故による犠牲者がゼロになること。人間の命の尊厳がある、安全な車社会の実現だ」という決意からもうかがえる。

 ▽1年半でお払い箱

 ところが、父親の後を継いで2007年6月に41歳で3代目社長となった高田氏は「一貫して車社会の安全と関わってきた」と自負する企業のトップとして欠陥エアバッグ問題の事態収拾に向けて先頭に立つどころか、株主総会以外には全くといっていいほど表舞台に姿を見せない“雲隠れ”の道を選んだ。

 創業者の故高田武三氏の孫に当たる高田氏は、1988年に慶応大理工学部を卒業して入社。在任中の13年3月期連結決算では最終的なもうけを示す純損益が211億円の赤字に陥る経営不振にもかかわらず、自身は2億1200万円もの高額報酬を受け取って株主らから批判の声が出た。

 社長を6年務めた後の13年6月、ドイツ自動車部品大手ボッシュの日本法人社長などを務めたステファン・ストッカー氏にいったん社長の座を譲り、自らは会長となった。

 しかし、ストッカー氏は社長就任からわずか1年半後の14年12月に突如辞任し、高田氏が社長も兼務。高田氏が表舞台に出てこない中で「エアバッグのリコール問題に対する全社的対応のさらなる一元化、および意思決定の迅速化と対応強化を図るため」との交代理由が“詭弁”としてむなしく響くばかりで、自動車業界では「ストッカー氏はエアバッグの欠陥問題への対応力が期待されて招かれたものの、一向に収束に向かわないことにしびれを切らした暁子氏の意向でクビにされた」といったうわさが広がった。

 ▽米運輸長官が「悪者」と批判

 タカタが製造したエアバッグの基幹部品であるガス発生装置が作動時に異常破裂し、金属片が飛び出して自動車内の人に突き刺さって死傷させる事故に歯止めがかからない重大な品質問題。トップの高田氏は“雲隠れ”して説明責任を果たさず、外国人社長が辞任に追い込まれるタカタの企業統治が不信感を招かないはずがない。

 欠陥エアバッグの原因を突き止められないにもかかわらず、問題が起きる恐れがあるリコールの拡大に及び腰で、情報開示にも消極的なタカタにしびれを切らして米国運輸省は15年2月20日、タカタがエアバッグ欠陥問題の調査に全面的に協力しなかったのを理由に同日から1日当たり1万4千ドル(約156万円)の罰金を科す異例の厳しい対応を発表。アンソニー・フォックス運輸長官(当時)は「タカタのような悪者」と舌鋒鋭く批判した上で、「タカタがわれわれの調査に全面的に協力しなかったことは容認できず、大目に見ることはできない」と理由を強調した。

 本来ならば日本企業を守る立場にある日本政府関係者も「高田氏が社会問題化した米国で一切説明しない姿勢はひどいし、監督官庁の国土交通省にもきちんとした説明を自主的にしておらず、全体が腐ったような会社だ」と指弾し、「経営破綻した方がすっきりしていい」とさじを投げていた。

 その言葉が予言していたように、現実となった日本の製造業として戦後最大の破綻劇。安全関連の自動車部品の優良メーカーだった過去の栄光は見る影もなく、累計では世界で1億個を超えるエアバッグのリコール関連費用が重しとなってタカタの17年3月期決算の連結純損益は795億円の赤字と過去最大を記録。純損失の計上は3年連続で、17年3月末時点で財務の健全性を示す自己資本比率は7.0%まで落ち込んだ。タカタは、スポンサーに選んだ中国企業、寧波均勝電子傘下の米自動車部品会社キー・セイフティー・システムズ(KSS)に対して1750億円で実質的に全ての事業を譲渡することで基本合意した。

 危機管理の専門家は、一連のタカタの対応を「危機対応の明らかな失敗事例であり、危機管理の反面教師として教科書に載せるべきだ」とあきれる。数々の汚点を残したタカタの欠陥エアバッグ問題への対応は、実は出足からつまずいていた…。

 【特集】追い詰められた“雲隠れ”トップ(下) タカタ破綻 に続く

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共同通信

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