最高裁、議会まきこむ大嵐=激突! 大統領X検察庁長官=判事によって判断異なる現実

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テーメル大統領(Foto: Beto Barata/PR)

 カレンダーの上では冬になり、ここ数日はまた寒い日が続きそうです。でも、一般庶民は寒さも何のその、仕事を片付けるのは今のうちと一生懸命働いています。ブラジリアで政治や行政を取り仕切っているお偉方もこれは同様、活発に動いている様子が新聞やTVで報道されています。しかし、どうも各部門、グループの方向が一致してないようで、テーメル船長の「ブラジル丸」も何度もの嵐に襲われて難しい航海を強いられています。私たち、皆が乗っているブラジル丸が進んでいる海や嵐の様子、更にこれから先、どのような航海が待っているのか? 何時もの様に皆さんと一緒にチェックしてみましょう。

 

▼検察庁、大統領を告発

ロドリゴ・ジャノー連邦検察庁長官(Foto: Jose Cruz/EBC/FotosPublicas)

 6月26日、連邦検察庁のジャノー長官は一件書類を添えて、テーメル現大統領を最高裁判所に告発しました。『大統領は自己の利益のために、食品大手企業JBSから不正なお金を受け取っている』という罪状です。
 このテーメルの収賄状況は、JBS幹部による供述(DELACAO PREMIADA)で、その内容がマスコミに広く公開されました。両者の合意に基づいて50万レアルが現金でテーメルの腹心―ロウレス(R.LOURES)に引き渡されたのですが、彼(当時国会議員)が現ナマの入った黒いトランクを提げてサンパウロのピッツア屋からアタフタと立ち去る様子が警察によって録画され、TVで全国に放映されました。
 検察庁というのは不正を取り締まる政府の一機関の訳で、同じ政府のトップたる大統領の不正疑惑をどのように扱うのか全国民の注目を集めていました。しかし、以上の様に動かぬ証拠{動画}が公開されていてはいかんともし難く、遂にジャノー長官が最高裁に告発したのです。
 告発を受けた大統領側もさるもの、『いや、間違った。済みません』などと言いません。『大体JBSなどは政府に食い込んで商売を拡大してきた。経営者は大うそつきの詐欺男だ。検察がそんな男の証言をまともに取り上げて、国権の最高位者―大統領を告発するとは何事だ! けしからん。わしは今、この国を立て直そう、国民の生活を豊にしよう、と全身全霊を傾けて努力している。わしは不正の金など1センたりとも受け取っていない』大怒りです。逆に『攻撃は最大の防御』とばかり検察庁長官を非難攻撃するメッセージを発表しています。
 屁理屈かも知れませんが、JBSからテーメルの使いのロウレスは確かにお金を受け取っていますが、ロウレスからテーメルに金が渡されたという証拠はありません。周辺の状況からの判断でなく、直接の物的証拠を示せ、と言われると、告発側も苦しい展開になりそうです。
 いずれにしても、現金を受け取ったロウレスは6月3日、連邦警察に逮捕されました。ですが先日、最高裁判事の判断でGPS電子足環付きで自宅収監に切り替えられました。

▼法はあっても、決めるのは人

 大統領を告発し、また、不正のあったアエシオ上院議員(元ミナス州知事、PSDB党首)告発、逮捕せよと主張したジャノー検察庁長官は任期が9月までで、その後には別の人が長官に選任されることになっています。
 長官を指名/任命する人は大統領です。今回の場合、犯罪容疑があり裁かれる側の人(大統領)が自分の犯罪を告発する側の人(検察長官)を任命する訳ですから、横から見ていると「何かおかしいね」という気がします。でも、ま、それが規定なので仕方がないのでしょう。
 さて、次期長官の選任にあたっては検察庁内部で投票し、得票上位3人の名前を大統領に提出します。従来は庁内で選出された候補者リスト1位の人を大統領が選任するという慣行でした。ですが、今回、テーメルさんはリスト2位のドッジ(RAQUEL DODGE、女性)を選びました。リスト1位の人はジャノー現長官と同じ考え方の人で煙たい、ドッジさんなら中立(女性)で付き合い易いとみたのでないか、などと噂されています。
 いずれにせよ、ブラジル初の女性検察庁長官が誕生することになりそうです。
 さて、ここで大統領などを裁く最高裁判所の方に話題を移しましょう。例えば日本などでは裁判所の判決などは憲法、法律の定めるところに従い粛々と決められるのが常識で、そこに裁判官個人の感じなどが入る余地は殆どありません。
 しかし、『ところ変わればシナ変わる』ブラジルでは同じ案件でも裁判官が変わるとまるで違った方向が打ち出されるケースがあります。
 今回、世間の注目を浴びた例を挙げてみましょう。
 (1)JBSから不正支払い(PROPINA)を受け取り、留置されていた前述のロウレス。ですが、土曜日(1日)に判事に留置から解放され、自宅軟禁(電子足輪つき)で良い事になりました。これは判事が未だ起訴もされていない、もう証拠隠滅の恐れもない被疑者を長く留置しておくのは良くないと判断し、決められたのです。
 (2)もう一例です。やはりJBSと200万レアルの不正金受け取りの約束をし、その第1回支払い分50万レアルの現金を、手下の甥に受け取らしていたアエシオ上院議員が先週、同様自由の身とされました。
 アエシオは最高裁により上院議員休職、政治活動不可と裁定され、自宅で蟄居していたのですが、新判事の決定により、上議復職、政治活動OKとされたのです。
 同じ容疑で留置されていたアエシオの甥、姉も釈放されました。理由は『まだ裁判も済んでいない人を長期間留置しておくのは良くない』ということでした。
 (3)もう一つあります。これは政治関連ではないが、元医師アブデルマッシーの件です。アブデルは子供の欲しい婦人方に不妊治療を施し、高名の医師でした、が、自分の診療所へ来る女性に対し48件もの性的暴行を加えたかどで278年という刑期を言い渡され、服役していました。
 ところが先日「心臓の具合が悪い、この治癒には刑務所外の専門医の治療が必要だ」と訴え、それが判事に認められ、サンパウロの豪邸で休養していたのです。今回、裁判官が替わり点検の結果「その必要はない。すぐ刑務所に戻せ」となったものです(尚、気になる方に申し上げますと、このアブデル元医師、年令は73歳です)。
 裁判所の指令も判事が異なるとこの様に変わるのでは、「私も裁かれる時はあの先生に御願いしたいわ」と被告が担当裁判官を選ぶようにならないか? 心配する人が居ました。

▼正面突破をもくろむ テーメル

ラヴァ・ジャット作戦の担当、ファキン最高裁判事(Foto: Jose Cruz/EBC/FotosPublicas)

 検察からの告発を受けた最高裁判所の所管判事ファキン(E・FACHIN)は種々考慮の上、裁判所では正否を判断せず、一件をそのまま下院の憲法法規委員会に送付しました。それは『大統領を被告として裁くには下院での(起訴の)承認を受けねばならない』規則があるからです。
 大統領告発書類を受け取った下院では早速今週(3日)から法規委員会での審議を開始しますが、まず、第一にテーメル大統領に自己弁護の時間を与えることを決めました。
 テーメル氏は1日、地元サンパウロに入り身内の弁護士たちを集めて自己弁護の方策検討をしています。
 大統領起訴のプロセスはこの委員会で下院としての審査書を作り、その後、下院本会議で起訴の妥当/不当の採決に入ることになります。この辺を少し詳しく点検してみましょう。
 (1)まず、テーメルの指示の下に企業JBS側から不正な金を受け取ったロウレスが1日、留置から自宅拘束に変更されましたが、これはテーメル側に有利に働くとみられています。
 ロウレスは家族から、「動きを全部ぶちまけて、刑を軽くしてもらう(司法取り引き)をして」と言われていたのですが、腹心にこれをやられてはテーメル側の潔白、無罪の主張が成り立たなくなります。今回、ロウレスが娑婆にもどり、話ができるようになったので、この心配は消えるでしょう。
 更に彼が自宅拘束になったことは裁判所側が余り硬いやり方でなく、諸般の事情も考慮する大人のやり方を採用するのでないか?との雰囲気が感じられるようになったのです。そうならテーメルにプラスですね。
 (2)与党有力者のアエシオ上議が裁判所判断で復職し、自由になったこともテーメル側にプラスと思われます。上述の様に裁判所が大人の判断をするのでないか?という気持ちの他に、アエシオ一派がテーメルの2018年任期末までの政権継続を支えてくれるのでないか?と考えられるからです(ただし、アエシオ自身の次期大統領立候補の件は今回の事件で望み薄となった)。
 (3)ただ、『不正赦すまじ』と立ち上がった検察側も大人しく引っ込んではいません。ジャノー長官は初志を貫徹すべく、「そこに竹がある限り、正義の矢を射続ける」と言明しており、この後さらに、テーメルの『司法妨害』、他の件での収賄、犯罪組織の結成、外国預金の不正など、第2、第3の矢(告発)を打ち込む、と予告しているのです。
 (4)下院で大統領起訴を容認するには下院定数513の2/3=342の賛成票が必要です。逆に言えば、テーメル側は下院の1/3の172名の起訴反対票を集めれば良い事になります。
 テーメルは下院議長を何回か務めており、議会運営には経験豊富です。また、自分も弁護士出身で今回腕利きの弁護士の支援もうけて『テーメル無罪論』を展開するでしょう。
 投票する代議士先生もあからさまに汚職擁護は出来ないが、さりとて政局がテーメル有利に動きそうなら、テーメル賛成に動きます。空気を読むことに長けているのも先生方がどう動くのでしょう。
 しかし、有り難いことに検察は健在のようです。「こっちは玉砕も覚悟だ。お国のために最後まで闘うぞ」―昔の日本軍人のような人がブラジルにも居るようです。