【特集】驚愕のNY鉄道事情(上)

トラブル相次ぎ「非常事態」

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ニューヨーク地下鉄の脱線事故が起きた「A線」の車両=ニューヨーク・クイーンズ地区で筆者撮影。事故を起こした車両ではありません
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2016年9月29日、米ニュージャージー州ホーボーケンの鉄道駅に突っ込んだ列車を調べる関係者(ゲッテイ=共同)
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13年9月25日朝、送電トラブルのために全列車が「運転中止」になったと表示されたメトロノース鉄道のライ駅にある案内画面=筆者撮影

 ジャズの名曲「A列車で行こう」のモデルとして知られる米国ニューヨークの地下鉄「A線」が6月27日、中心部マンハッタンで脱線して少なくとも34人が負傷した。ニューヨークと周辺では昨年から列車が脱線、衝突する事故が続き、西部ワシントン州でも7月2日に全米鉄道旅客公社(アムトラック)の列車が脱線して負傷者が出た。公共交通機関の使命である安全輸送が後手に回っている米国について「鉄道の先進国とは言えない」(JR大手幹部)との声が出ている。驚愕すべき実態と事故の背景について、優れた鉄道旅行を毎年選ぶ「鉄旅オブザイヤー」の審査委員を務める共同通信の前ニューヨーク特派員が明かす。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

 ▽公共交通の非常事態宣言

 「公共交通システム全体がまひしていることの現れだ」。地下鉄の脱線事故を受け、運行するニューヨークの都市圏交通公社(MTA)に出資しているニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は6月29日、公共交通機関の「非常事態宣言」を出した。

 クオモ知事は「列車の遅れはニューヨークの住民を怒らせている。彼らはコミュニケーションの欠如、信頼のなさ、そして今や事故に激怒している」と訴え、改善するための追加投資として10億ドル(約1140億円)を支出すると表明した。米紙ニューヨーク・タイムズは2月、地下鉄の遅れが月に7万件を突破、2012年の月2万8千件の約2.5倍に跳ね上がったとのMTAのデータを報じた。遅延に加え、事故も続発している。

 昨年9月、ハドソン川を挟んだマンハッタンの対岸にある終点のホーボーケン駅にラッシュアワーの通勤列車が制限速度の2倍を超えるスピードで駅舎に突っ込み、1人が亡くなって114人が負傷した。運行していたのはニュージャージー州の公社が資金を拠出する公共交通機関のニュージャージー・トランジットだ。

 MTA傘下でマンハッタンとニューヨーク州ロングアイランドを結ぶ路線などを運行するロングアイランド鉄道では、昨年10月に列車が作業用車両と衝突して脱線し、乗客と乗員の計33人が重軽傷を負った。今年1月には、ブルックリン地区のアトランティック駅に突入して100人を超えるけが人が出た。

 ▽「政争の具」

 マンハッタンの主要駅であるペンシルベニア駅では、3月から4月にかけて2件の脱線事故が相次いで発生。MTAは今回の6月27日の地下鉄脱線事故について、線路上に不適切に置かれていた交換用レールに列車が接触し、脱線して壁に衝突したと説明しており、ずさんな管理態勢が改めて浮き彫りになった。

 非常事態宣言を出して改善に取り組む姿勢を示したクオモ知事だが、ニューヨーク市民からは「市長との政争の具に利用されているのではないか」と訝しがる向きがある。クオモ知事は6月21日、MTA会長にジョー・ロタ氏を再起用すると発表した。12年にハリケーン「サンディ」が襲った際に会長として陣頭指揮した手腕を生かし、MTAを立て直してほしいとの期待感を示した。

 しかしロタ氏は13年のニューヨーク市長選に共和党から出馬し、同じ民主党ながらクオモ知事と政策面でたびたび対立してきたビル・デブラシオ市長と争った因縁の相手だ。ニューヨーク市民からは「今年の市長選で再選を狙うデブラシオ氏の足もとにロタ氏を送り込み、ニューヨーク市がMTAを資金面で支えていないことがトラブルの原因になっていると訴えさせ、選挙運動の足を引っ張るのが狙いではないか」との見方もあり、輸送改善につながるかは依然として疑問視されている。

 ▽手荒い洗礼

 トラブル続きの米国の公共交通機関を多用した私は、遅延といった輸送障害に見舞われるのは日常茶飯事だった。着任して間もない13年9月25日朝に早くも手荒い洗礼を受けた。

 ニューヨーク近郊の閑静な住宅街からMTA傘下のメトロノース鉄道ニューヘブン線でマンハッタンへ向かおうと午前7時すぎに駅に着き、列車の発車案内画面の背景を眺めて絶句した。全ての列車が「運行中止」と表示されていた。理由が説明されないまま、乗客は「何が起きたんだ?」と困惑するばかりだ。

 やがて地元エネルギー会社コンソリデーテッド・エジソン(コン・エジソン)の設備が故障したために送電できなくなったことが分かると、メトロノースは駅のあらゆる表示と放送で「コン・エジソンの送電トラブルのため」と必ず前置きをして輸送障害の内容を説明し、全く謝罪しなかった。米ファストフード大手マクドナルドのコーヒーをこぼしてやけどをした女性が同社を訴え、損害賠償を勝ち取った訴訟社会の米国だけに、責任を押しつけてリスクを回避するのが“アングロサクソン流”の処世術なのだろうか。

 送電が止まって電車が動かない中で、メトロノースはディーゼル機関車が客車列車をけん引する臨時ダイヤで運行を再開させた。日本人駐在員の多い高級住宅地の最寄り駅グリニッジ(コネティカット州)の場合、マンハッタンへ向かう平日の午前6時台は2本と通常より半減し、7時台も2本減の3本となったため車内も大混雑。ある邦銀駐在員は当時、「10分以上遅れるのが常で、毎朝冷や汗をかく」とこぼしていた。

 私が当時利用していたライ駅(ニューヨーク州)の利用者は、さらに理不尽な仕打ちを受けた。マンハッタンへ向かう場合、メトロノースの別の路線の駅まで代行バスに乗った後、電車で向かう方法を強いられたのだ。通常ならば約40分の通勤に2倍余りの約1時間半を要したが、メトロノースは“免罪符”として「コン・エジソンの送電トラブルのため」という逃げ口上を繰り返すばかりだ…。

 【特集】驚愕のNY鉄道事情(下) トラブル相次ぎ「非常事態」 に続く

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