【特集】驚愕のNY鉄道事情(下)

トラブル相次ぎ「非常事態」

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メトロノース鉄道で活躍する川崎重工業製造の電車「M8型」=13年9月15日、米コネティカット州のニューヘブン線スタンフォード駅で筆者撮影
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16年7月16日にメトロノース鉄道ニューヘブン線で起きた架線トラブルのため運行停止し、非常灯がついた電車内。左奥に写った電車に乗り移るように誘導された=米コネティカット州で筆者撮影
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ホーボーケン駅へ向かうニュージャージー・トランジットの列車=2014年6月20日、ニュージャージー州で筆者撮影

 ▽走行中に突然停止

 ニューヨークの都市圏交通公社(MTA)傘下のメトロノース鉄道ニューヘブン線でコン・エジソンの設備が故障し、送電できなくなったため電車を駆動できなくなり、代わりに本数を減らしてディーゼル機関車を走らせるなど約2週間続いた輸送障害。ある日は深夜にマンハッタンから近郊の住宅街に向けてディーゼル機関車が引く客車列車で帰路に就いたが、次のハーレム125丁目駅で停車したまま動かない。周囲の乗客が首をかしげていると、やがて車内放送で「機関車故障のため、運転を取りやめます。列車から降りてください」との声が響いた。

 犯罪多発地域として知られるハーレム地区だけに、赤と青のともしびを点滅させてサイレンが鳴り響くパトカーが駆け抜け、物乞いが歩き回る暗闇のプラットホームで、後続列車の到着まで30分も待つことを強いられた。不満を覚えたものの、メトロノースに抗議したところで返答は十分予見できる。「コン・エジソンの送電トラブルのため、性能が劣るディーゼル機関車を出動させざるを得なかった」と釈明するに違いない…。

 しかし、メトロノースにとって責任転嫁できない惨事がわずか2カ月余り後に起きた。2013年12月にニューヨーク市で制限速度を大幅に超えた列車がカーブで脱線し、乗客4人が死亡したのだ。15年2月にはニューヨーク州で電車と自動車が衝突し、乗客ら6人が命を落とす事故も起きている。

 私も昨年7月にコネティカット州でニューヘブン線を走る電車に乗っていたところ、突然「ドン!」という音と共に急停車する事態に遭遇した。初夏にもかかわらず冷房が切れて暑くなり、非常灯だけがともっている車内で「急いでいるのに」と困惑する人や、「非常用の窓を破って外に出ればいいんだ」と叫んで周りに制止される人も。やがて「この列車は走れなくなったので、代わりに別の列車で運行する」との車内放送が流れ、停止後に1時間近く経過してから隣の線路に入線した電車に乗り移るという珍体験も味わった。

 この際は走行中に架線が切れて送電できなくなったのが原因と判明した。今年6月21日にJR東海道新幹線の京都―新大阪間の架線が切れて停電して多数の運休や遅延が発生したが、走行速度が新幹線の半分未満の在来線電車で起きるのは点検不足が背景にあるのではないかと疑わざるを得ない…。

 ▽改善の鍵は日本メーカー

 「遅延が当たり前」と言われるニューヨークの鉄道だが、ロングアイランド鉄道は15年に定刻運行した列車の割合が91.6%で、16年は92.7%だった。一見すると意外と高く見えるが、実は5分59秒以下の遅れは「定刻運行」として扱っているのだ。日本ならば「遅れまして申し訳ありませんでした」と謝罪する6分未満の遅延まで含めると、より頻発している。

 ロングアイランド鉄道は遅れても5分59秒以下ならば許容される定刻運行比率で95.1%を目指していたが、達成が難しい中で15年からは目標を94%に引き下げても苦戦している。16年にロングアイランド鉄道の6分以上の遅れが出た本数は1万6115本だったが、うち6170本は10分を超える遅延で、その中の3254本は15分を超えていたことが深刻さを物語る。

 全面的に運行中止になった列車は1269本あり、途中で運転を取りやめたのも567本に達している。こうした遅延や運行中止で計750万人に影響が出たと推定されており、経済的逸失額は6千万ドル(約68億円)を超えるとの試算もある。

 一方、ロングアイランド鉄道と同じくMTA傘下のメトロノースは15年に定刻通り運行された列車の割合が93.5%となり「14年の91.5%から2ポイント上昇した」と胸を張る。メトロノースは改善した大きな要因として、ニューヘブン線のほぼ全車両を新型車両「M8型」に切り替えて「(故障せずに走れる)機械性能が当社の歴史で最高になった」と強調した。

 この信頼性が高い新型車両のM8型こそ、日本の大手鉄道車両メーカー、川崎重工業が製造しているのだ。ロングアイランド鉄道も初めてとなる川重製の新型車両「M9型」を来年から導入予定で、旧型車両の置きかえによる輸送力改善が期待されそうだ。

 トラブルが相次いでいるニューヨークの地下鉄にしても、1980年代までは「落書きだらけの車両ですぐに故障する」とやゆされていた。しかし、82年に初受注した川重が納入を始めると耐久性が大きく改善。累計で2千両を超える車両を納入し、現行車両で最大シェアを握るまでに成長した。

 遅延の深刻化と脱線事故で窮地に立たされたニューヨークの地下鉄を改善する柱となるのが、ラッシュ時でも乗降しやすいように客室の扉を広くした新型車両「R211」を入れ、老朽車両と置き換える計画だ。

 最大1545両を発注する大規模プロジェクトとなり、私は昨年9月に川重が入札に参加する方針を固め、ライバルとして世界最大の鉄道車両メーカーの中国中車、カナダのボンバルディアなども応札に関心を示していることを報じた。価格競争で攻勢を強める中国中車は、米東部ボストンの地下鉄で川重より約4割も安い価格で受注し、昨年3月には中西部シカゴの通勤用電車を納入することも決まった。

 川重の“牙城”となったニューヨーク地下鉄でも日中対決が繰り広げられる見通しとなり、川重関係者は「発注先選定が価格勝負になれば不利かもしれないが、これまでMTAは技術力も含めて総合的に判断しており、R211の発注先を決める際もそうなると信じている」と期待感を示す。ニューヨーク州が「非常事態宣言」に追い込まれた公共交通機関の運営を正常化にさせて軌道に乗せるには、日本メーカーが高い信頼性を誇る車両を納入して“助太刀”できるかどうかが大きな鍵を握りそうだ。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

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