裁判員制度 長崎 高い辞退率

 市民が刑事裁判に参加する裁判員制度が始まって8年。制度開始から4月末までに長崎地裁で裁判員を辞退した人の割合(辞退率)は全国平均より高く、裁判の審理時間が短い。高い辞退率は、離島が多く高齢化率が高い本県の状況が影響しているとみられる。

 また、宿泊せざるをえないなど負担が大きい離島の裁判員らへの配慮が必要な一方、配慮が審理の短縮をもたらしていると分析した上で、県弁護士会からは「審理の短さは裁判官の強い誘導を生みかねない」と懸念する声が上がる。

 最高裁や長崎地裁によると、これまでに52件(被告54人)の裁判員裁判が開かれ、312人が裁判員に、118人が補充裁判員に選ばれた。裁判員候補者に選ばれた人は6130人で、うち高齢や仕事、重病などにより4029人が辞退した。辞退率は65・7%と全国平均より4ポイント高い。裁判員裁判が開かれる地方裁判所や支部計60庁のうち16番目に高かった。

 辞退率は全国的に右肩上がりだ。制度が始まった2009年の53・1%から16年には64・7%に上昇。長崎地裁でも09年の57・6%から16年には74・8%に上がった。最高裁の報告書では、辞退率の上昇について「制度への関心低下」「非正規雇用の増加」「高齢化の進展」などの影響が挙げられている。

 同地裁での平均公判回数は4・1回と全国平均より0・3回少ない。裁判員と裁判官が有罪・無罪や量刑を話し合う平均評議時間は507・3分と全国平均より119・4分短かった。

 長崎地裁での高い辞退率や審理の短さについて、県弁護士会の三宅敬英(としひで)刑事弁護委員会委員長は「離島の裁判員は宿泊が必要になるなど負担が大きい。辞退などにつながりやすい」と説明する。さらに「『遠方からの裁判員への配慮』という名目で、裁判所から短い審理期間を提示されることがある。反対しにくいと考える弁護士もいる」と実情を話す。

 そうした状況を踏まえて三宅委員長は、容疑者が否認するなど丁寧な審理が必要な場合でも、論点を絞り量刑相場を示すなどして「裁判官が裁判員を強く誘導する危険性がある」と懸念を示す。「佐世保支部でも裁判員裁判を開くべきだ。裁判員の時間的負担は軽くなり弁護士も審議時間を確保するよう求めやすくなる」と改善を求める。

 一橋大大学院の本庄武教授(刑事法)は長崎地裁での辞退率の高さについて「高い高齢化率が影響しているのでは」と推察する。全国的に辞退率が上昇している現状については「裁判員裁判で下された死刑判決が高裁でひっくり返ることもある。裁判員裁判の必要性が市民に分かりにくくなっている。教育やメディアを活用し、市民が裁判に関わる利点や必要性を伝えていく努力が求められる」と指摘した。

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