【大宮】復調の兆しを見せる大前元紀はJ1残留の切り札になれるのか

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 絶好調のエースの陰で、もうひとりのストライカーが復調の兆しを見せている。
 
 J1リーグ18節、大宮は札幌との残留争い直接対決に2-2で引き分けた。
 
 2点目を決めたMF江坂任は5月末の監督交代から3トップの頂点を任されるようになり、タイミングを合わせるように得点数を伸ばした。クロスからのヘディング、両足を思い切り振り抜くミドルシュートと得意のパターンで見事に結果を残している。
 
 残留争いをする大宮にとって、新エースの台頭は頼もしい。前線までボールを運べれば何とかなるという気持ちを持てるだけで、リードされている場面やピンチの際の心持ちは、大きく変わる。江坂のゴール量産には、数字以上の価値があると言える。
 そして、札幌戦ではもうひとつ、今後に弾みをつけるゴールが決まった。FW大前元紀が決めた先制点だ。
 
 ロングスローをきっかけにゴール前でこぼれ球が生まれると、舞い上がったボールの落下点を左足のボレーで捉え、ゴール右端に決めた。江坂も「あれは、スーパーでしたね」と舌を巻く、難度の高いシュートだった。
 
 元々、セットプレーを任されるなどキックの精度には定評があり、得点に関しても実績は十分。伊藤彰監督は「元紀は、クオリティの高い選手。今日は、良い得点を取ってくれましたし、彼自身、次につながる。チームの中でコンビネーションもできますし、これからも点を取っていける選手だと思っています」と活躍の継続に期待を寄せた。
 
 大前は、札幌戦の手応えを次のように話した。
 
「今日の相手のフォーメーションをどう崩すか、意図を持ってやれていたし、前半から上手く中に入ってチャンスも作れていた。良かったと思います。相手の3バックを引き出させてその間で受けることも多々ありました。
 
 今日は、左でしたけど守備に追われるわけじゃなく攻撃的にできていた。左をやることのストレスは、ないです。良いサッカーができているし、チームとしてやるべきことをやって、その中で自分の色を出せれば良い。任と近くでプレーできればチャンスはあるし、サイドバックとも上手くやれています」
 ただ、大前は、これでようやく2点目だ。昨季5位の躍進を支えたMF家長昭博という絶対的な支柱が抜けた大宮を救う存在として大きな期待を受け、今オフに清水から移籍して来た。
 
 しかし、今季の大宮は攻撃面で結果を残すことができず、次第に守備の立て直しが急務となり、攻撃の形を見失っていった。大前がチームに馴染むかどうかではなく、チーム自体が新たな形を模索する中で、大前は持ち味を発揮できずにいた。
 
 だからこそ、大前がゴール前に数多く顔を見せ始めていることには価値があり、成果としてのゴールには大きな意味がある。
 
 渋谷洋樹前監督の下では縦並びになる2トップの一角に入ることが多かったが、伊藤監督就任後は、3トップの左が定位置となった。守備に引っ張られたり、攻撃の組み立てに参加したりするため、ゴール前で得点力を発揮する場面になかなかたどり着かない試合が続いていたが、直近の数試合ではシュート数が増えており、左からゴール前に顔を出す形が見えて来た。
 
 16節の広島戦では、江坂がシュートを決めた際、近い位置からファーサイドへ離れて相手を引き付けたのが大前だった。札幌戦は、得点後の決定機を2度外したこともあり「決め切っていれば、こういう(2点リードから引き分けとなる)終わり方にはなっていなかったと思う。試合の終わり方の問題もあるとは思うけど、オレの責任かなと思いますね」と浮かない顔を見せたが、フィニッシュワークに関わる回数は確実に増えている。
 
 伊藤監督が目指す攻撃のスタイルでは、選手がポジションを頻繁に入れ替わってローテーションする。攻撃時には中央へ寄って江坂と2トップになる形が多くなる大前は「監督が代わって、良いサッカーができていたし、自分の持ち味も出せていた。でも、得点になかなか絡めなかった。最近はチャンスに顔を出せるようになって来ているので、もっと点が取れれば良い。(江坂以外にも)いろいろなところで得点が取れるようになれば、もっと攻撃も多彩になるし、チャンスは作れると思います」と手応えを話した。
 
 伊藤監督就任後も無失点試合が少ないという課題は解決していない。ポゼッションコントロールで守備の機会自体を減らしたいところだが、勢い任せの連続カウンターでボールロストが増え、ペースを失う試合が多い。
 
 仮に失点数が減らなければ、取る点数を増やすしかない。好調の江坂に加え、大前や新加入のマルセロ・トスカーノが得点源として存在感を高められるかどうかは、重要なポイントだ。

取材・文:平野貴也(スポーツライター)

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