「0−53」から「17年ぶり1勝」までの道のり 高校野球神奈川大会

 【カナロコスポーツ=佐藤 将人】高校野球の第99回神奈川大会、12日に行われた1回戦で大楠(横須賀市)が大和東(大和市)を12−7で下し、実に17年ぶりとなる夏の1勝を挙げた。2007年に0−53という最多得点差の「ワースト記録」を作った高校が勝利に至ったのは、単なる幸運ではなかった。

 待望の1勝も、選手はさほど盛り上がるでもなかった。主将の加藤は試合後、冷静に語った。「今年は勝てると思っていたし」 ゲームを見ればなるほど、その自信もうなずけた。「普通の野球」になっていた。確かにこれなら、相手によっては勝てる確率は十分にあった。

 この「普通」がずっと遠かった。学校自体、部活動が盛んではなく、野球部も助っ人や春に1年生が入ってようやく9人ということが多々あった。その中で、07年の0−53という歴史的大敗があった。対戦相手は上鶴間(相模原市)。同じ県立校にこの大差を付けられたことが、すべてを物語る。

 山崎滋彦監督(40)は、同校ならではの苦労をこう語る。「体力がなかったり、試合に勝てなくて面白くなかったりで、途中であきらめてしまう。そうやって部員がそろわなくなるから、また勝てない」 鍵は「我慢」だったという。「うちは小さい頃から叱られすぎている子が多いからか、熱血な指導だと離れていってしまう」 耐える我慢ではなく、寛容に待つ我慢。これが今の大楠には合っていた。

 この試合、五回に満塁ホームランを浴び、1−5まで点差が開いた。監督は思っていた。「これまでなら、ここから崩れてコールド負けだったな」。キャプテンは「あきらめないチーム」ができた理由を、こう振り返った。

 「辞めたやつも、辞めそうになったやつもいた。でもチームが倒れそうな時に、野球に気持ちが向かわなくなったときに、自分や(エースの)嶋貫を中心に踏ん張れたのが大きかったと思う」 高校野球だってどのチームもどの選手も、ずっと熱く頑張れるわけではない。生徒数、学校や家庭の環境、学力、進路の傾向など、さまざまな条件によって、部活への熱意も変わってきて当然だ。

 監督は言った。「部員不足で出られない時なども、野球が好きで頑張って続けてくれる子がいて、そういう子たちが歴史をつなげてくれた結果だと思う」 0−53を経験した選手の中にも、部活をあきらめなかった選手がいた。そんな一人一人の思いを積み重ね、17年ぶりの勝利は、ちょうど17安打で奪った。

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