"不勝"神話から"不敗"神話へ。ようやく目覚めた押谷祐樹から目が離せない

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 誰が呼んだか“不敗神話”ならぬ“不勝神話”。今季名古屋に移籍してきた押谷祐樹が頂戴していた、何とも嫌なジンクスである。
 
 何しろ今年のJ2リーグで、名古屋は押谷がスタメン出場した試合でことごとく敗れ去ってきたのだ。3節のアウェー千葉戦で今季初黒星を喫したのを皮切りに、9節ホーム山口戦でも前回同様の0-2負け。13節アウェー大分戦では今季最多の4失点を喰らう惨敗に「どうして俺がスタメンの試合でこうなるんですかね……」とうなだれた。自宅に本人からもらったユニホームが飾ってある憧れの佐藤寿人と2トップを組んでの試合だっただけに、その落ち込みようは半端なかった。
 
 極め付きは19節のアウェー福岡戦で、“4度目の正直”とばかりに意気込んだものの、59分に悪質なタックルとの判定でレッドカードを提示され、納得いかない表情でピッチを去った。

 その直後の天皇杯ではアマチュアのSRC広島を相手にスタメンで得点、勝利で少しだけ溜飲を下げたが、依然としてリーグ戦で先発出場すると勝てず、またチームのFW登録選手で唯一得点がない(負傷中の松本孝平は除く)という点取り屋を焦らせる状況もまた続いていた。押谷はとにかく、ここまで不遇をかこっていた。
 その彼が、やってのけた。リーグ戦連敗中で順位も7位にまで後退して臨んだ山形とのホームゲームで、押谷は件の福岡戦以来のスタメン出場を果たすと、序盤から精力的に攻守に奮闘。プレスバックを得意科目とするストライカーは、4-2-3-1のサイドハーフでその持ち味をまずは発揮した。
 
 序盤は山形のハイプレスに応対して低めのポジション取りが目立ったが、29分に前述の通り尊敬する佐藤のクロスを頭で叩き込み、劣勢のなか貴重な先制点をマーク。リーグ戦未得点のハードルを飛び越えると、まるで呪縛から解き放たれたかのようにその後も躍動した。点取り屋は得点で大きく変わるとはこの世界に伝わる真理のひとつだが、押谷もまた御託に漏れなかったということか。
 

 後半になると押谷の活躍は守備面で目立つようになったが、前述の通りそれもまた彼の特徴のひとつ。身体は大きくないが重心の低さを活かしたパワフルなチャージとボール奪取の巧さがあり、チームでも上位に位置するボールタッチの良さでその後の攻撃につなげるプレーも安定している。
 
 しかしこれまであまり出場機会を得られなかったのは、「彼の課題は連続性。サイドや前に置いておくと、自分で動いていないことに気づいていない」(風間八宏監督)という短所があったため。しかし「そのなかでボールが止まれば能力は高い」と技術の高さは認められており、練習や練習試合でもボランチで起用することで、その点を矯正させられてきたことがあった。
 
 そうした指揮官の意図ある指導と本人の「スタメンで出続けるためにはこういうチャンスを活かせるかどうか」という意気込みがようやく噛み合い、この日の1-0勝利というスコアに結実したのだから喜びは大きい。
 
「今日は相当出し切りましたよ。死ぬかと思うくらい(笑)。足もつったけどベンチを見たら交代の感じはなかったので、頑張ろうと思ってやりました」と語る表情は内容とは裏腹に笑顔だ。
 
「こうやって点も決められて、勝てたし、やっと“不勝神話”が崩れたから(笑)。それが一番嬉しいです」とも。何とも人間臭くて、応援したくなる選手なのである。
 
 負傷者続出のチームとしても、押谷の覚醒は朗報だ。サイドハーフの位置は激戦区であるとともに負傷者が最も出ているポジションであり、守備での貢献も期待できる背番号19に使えるメドが立ったのは大きい。「正直、内容よりも結果が大事な時期」と現状把握も冷静な男は、ここから“不敗神話”を築いていくことができるか。そのプレーの連続性をチェックポイントにしながら、今後もウォッチしていきたいものである。
 
取材・文:今井雄一朗(フリーライター)

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