【この人にこのテーマ】〈劣質な鉄鉱石「マグネタイト精鉱」の利用〉《村上太一氏(東北大学大学院環境科学研究科准教授)》焼結鉱への活用に道、産学連携の基礎研究で成果

 粉状の鉄鉱石を焼き固めて製造する高炉原料の焼結鉱。世界的な鉄鋼生産の拡大で良質な鉄鉱石が少なくなる中、劣質な鉄鉱石からも安定して焼結鉱を製造するための新しい技術が求められている。劣質な鉄鉱石のうち、現在は未利用で将来的に焼結鉱への活用が期待される「マグネタイト精鉱」の可能性や課題について、焼結鉱製造プロセスに詳しい村上太一氏(東北大学大学院環境科学研究科准教授)に聞いた。(石川 勇吉)

――鉄鉱石の劣質化が進んでいると言われています。劣質化とはどのような現象を指すのでしょうか。

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 「鉄鉱石の劣質化には二つの形態がある。一つは鉱石中の不純物の割合が上昇していること。シリカやアルミナといった脈石成分が多く鉄分の純度が低くなったものや、鉄鋼生産に好ましくないリンの成分が高いものなどがある。もう一つは微粉化だ。脈石成分の多い鉄鉱石は、鉄鉱石の山元であらかじめ脈石成分を取り除く選鉱処理をして鉄分を濃化させる場合が少なくない。この濃化させたものを精鉱(コンセントレート)と言う。精鉱は、鉱石を細かく砕いて脈石成分を除去するため、非常に細かい微粒子状になる。粒度が細かいことも焼結鉱の製造にとってはマイナスで生産性の低下などにつながる」

――2013~15年度の3年間にわたり日本鉄鋼協会の「資源対応型高品質焼結鉱製造プロセス研究会」のリーダーを務め、マグネタイト精鉱の有効利用に向けた基礎研究を産学連携で進めました。劣質な鉄鉱石の中でマグネタイト精鉱に着目したのはなぜですか。

 「5年ほど前に、中国をはじめとする世界的な鉄鋼生産の増大に伴い、良質な鉄鉱石の枯渇や劣質化がクローズアップされた。当時は鉄鉱石価格が急騰し、それまで採算が合わないとされていたBIF(縞状鉄鋼床)の低品位部の開発がカナダや豪州などで進展し、こうした鉱山からさまざまな鉄鉱石の精鉱が大量に供給されつつあった。中でもマグネタイト精鉱は、その名の通り磁力で容易に選別でき、技術的にも活用の余地が感じられたため、将来的に日本鉄鋼業にとって主要資源になりうると考えた。長期的に見ても鉄鉱石の質が変化していくのは明らかと考え、技術開発で先手を打とうと考えた。そこで日本鉄鋼協会に『資源対応型高品質焼結鉱製造プロセス研究会』を立ち上げ、3年間かけてマグネタイト精鉱から高品質な焼結鉱を製造するための基礎研究に取り組んだ」

――マグネタイト精鉱を焼結鉱製造に有効利用するための課題は。

 「マグネタイト精鉱は、鉄分とシリカやアルミナといった脈石成分が複雑に混在しているマグネタイトという鉱石を選鉱処理して得られる微粉鉱石。粒径は100ミクロン以下のものあり非常に細かい。この粒度の細かさが大きなネックの一つだ。焼結鉱の製造プロセスで、微粉状の原料比率が増えると焼結機の原料層の通気性が低下する。これにより粉鉱石を焼き固めるまでの時間が延び、焼結鉱の生産性が低下してしまう。通気性が低下すると焼きムラも生じやすいため、焼結鉱の均一な品質を確保する上でも好ましくない。もう一つの大きなネックが、マグネタイト精鉱が主成分として2価鉄を含むことだ。2価鉄の影響により、高炉で還元されにくい被還元性の低い焼結鉱になってしまう」

――研究会ではどんな成果が得られましたか。

 「あくまで基礎研究の段階だが、マグネタイト精鉱を一定量使っても、焼結鉱の生産性と被還元性が、現在量産されている焼結鉱と同等もしくはそれ以上のクオリティーを確保できるということが分かった。生産性と被還元性という二つの課題を同時に改善するための道筋を捉えることができた」

課題の生産性と被還元性/分割造粒法で改善

 「この研究会には大学と高炉4社の研究者計十数人が参加して実施した。焼結鉱に関する大学の研究者は、国内では非常に限られる。日本鉄鋼協会をプラットフォームにこうした産学連携による研究の場を設けること自体が大きな意義を持つと感じている」

――二つの課題をどのように克服したのですか。

 「一般的に焼結鉱は、粉状の鉄鉱石と粉コークス、石灰石などを混ぜて焼き固めて製造する。これらの原料をすべて同時に混ぜるのではなく、2種類に分け、それぞれ個別に予備造粒することがポイントだ。これにより造粒物の強度が改善し通気性が向上。生産性の低下を防ぐことができた。原料を分けることで焼結中の化学反応を最適に制御し、良好な被還元性も実現した」

――焼結中の化学反応を最適に制御するとは、具体的にどういうことですか。

 「ミリ単位の世界の話だが、焼結鉱の製造プロセスでは、どんな成分の原料と原料が物理的に近接しているかで化学反応が異なる。これにより焼結鉱の品質や機能が大きく変わる。今回の場合、マグネタイト精鉱に含まれる2価鉄を酸化させ、有用な3価鉄になるよう制御した。3価鉄を主成分とする良質な鉄鉱石であるヘマタイトに成分を近付けるという発想だ」

 「原料を具体的にどのように2種類に分けたかと言うと、一つはマグネタイト精鉱とアルミナ成分を多く含む一般的なヘマタイト鉱石、もう一つはヘマタイトと粉コークス、石灰石だ。今回の研究会で、マグネタイト精鉱と粉コークス、石灰石は一緒に混ぜてしまうと酸化反応が進みづらくなることが分かっていた。また逆に、アルミナがあると融液中に3価鉄が増えるという知見も得られていた。こうした知見から原料配合を設計した」

 「原料を分けて予備造粒するこうした手法は分割造粒と呼ぶ。焼結鉱の商業生産ではすでに採り入れられているが、マグネタイト精鉱という劣質鉱石の活用に応用するという発想はこれまでなかった。焼結鉱はできあがった時の化学組成は同じでも、ミクロにみるとさまざまな化学成分を偏在させながら製造している。どう偏在させるかをコントロールすることが焼結プロセスの研究で最も重要なことの一つだ。新日鉄住金で実用化されている『MEBIOS(メビオス)』などはこうした発想に基づく焼結技術の代表例だ」

――今後の展望をお聞かせ下さい。

 「足元では世界の鉄鉱石需給に5年前ほどのひっ迫感はない。日本鉄鋼業でマグネタイト精鉱をすぐに利用しようということにはならないだろう。ただ、将来に備えて研究を進めておくことは極めて重要だ。この4月に日本鉄鋼協会でこれまでの研究を踏まえた新しい研究会を立ち上げた。応用研究となるので内容の詳細な説明は難しいが、高炉各社や全国の大学と共同で、劣質鉱石の活用と二酸化炭素排出削減という課題を同時にクリアする新しい焼結鉱製造技術の基盤研究を進めるつもりだ」

略歴

 村上 太一氏(むらかみ・たいち)1973年神奈川県生まれ。2001年金沢工業大学特別研究員、大阪大学接合科学研究所研究機関研究員、04年東北大学大学院工学研究科助手などを経て11年から現職。専門は高温物理化学。44歳。

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