【特集】飛行中も快適ネット“雲上人”気分

Wi―Fi機を体験

米ハネウェルがデモンストレーション飛行を実施した「つながる航空機」=12日午後、千葉県成田市の成田空港
米ハネウェルがデモンストレーション飛行した「つながる航空機」の機内で、スマートフォンで接続した「47NEWS」のページ=12日午後
米ハネウェルがデモンストレーション飛行を実施した「つながる航空機」の機内で、飛んでいる位置を示しながら通信について説明するポール・ネフさん=12日午後
米ハネウェルがデモンストレーション飛行を実施したボーイング757の操縦席=12日午後

 航空機で移動中に「インターネット接続サービスの速度が遅く、電子メールの送受信にも時間がかかるのでいらいらする」とか、「座席モニターの娯楽システムでは好みの映画やテレビ番組、音楽が見つからない」とかいった不満の声が少なくない。そんな消費者の改善要望に応えようと、米航空宇宙機器大手ハネウェルは、動画のダウンロードも可能な航空機向けネットの高速接続サービスを売り込んでいる。

 その名も「つながる航空機」と名付けられた機体の日本初となるデモンストレーション飛行に参加し、高度1万メートルを超える“雲の上”で提供されるWi―Fiの真価を検証した。(共同通信=経済部・大塚圭一郎)

 ▽「25年までに2万5千機」

 「通常の機内のWi―Fiと比べて10倍から100倍も速いネット接続が可能だから、見逃したテレビ番組を楽しめるし、ネット通話もできてしまうんだ。体験してもらえば、飛行中なのを忘れて家庭でくつろいでいるかのように錯覚してしまうと思うよ!」。成田空港(千葉県成田市)を発着して7月11、12両日に実施された航空関係者と報道陣向けのデモンストレーション飛行に当たり、ハネウェル・エアロスペースのポール・ネフ・アジア太平洋事業開発ディレクターは意気軒昂に語った。

 ハネウェルのシステムは、協業先の英国インマルサットの第5世代衛星を活用して27~40ギガヘルツの周波数帯「Kaバンド」を用いた高速ネット接続が可能だ。最新の気象情報など多くのデータがパイロットに提供され、安全で効率が良い運航経路の選択や最適な燃費消費に役立つ。一方、出張やレジャーなどに航空便を利用する消費者にとって最も身近で関心が高いのはネット接続の高速化だろう。

 ネフ氏は「Wi―Fiの搭載が急速に進み、2025年までに世界で計2万5千機が備えるだろう」と予測した。ハネウェルのネット接続サービスはニュージーランド航空やシンガポール航空、ベトナム航空、スリランカ航空などが選んでおり、私が商業機のWi―Fiサービスとしていつ実用化されるのかを食い下がって尋ねたところ「今年か来年にはお目見えするだろう」との見通しを打ち明けた。

 ハネウェル関係者によると、日本の主要航空会社の担当者も体験搭乗して「高い関心を示してもらった」という。羽田空港の発着枠獲得などで火花を散らしてきた国内航空2強のANAホールディングスと日本航空が同乗する“呉越同舟”が繰り広げられたのかと問うと、この関係者はコメントを避けて不敵な笑みを浮かべるだけだった。

 ▽「老兵」の姿をまとった最先端技術

 今回私が搭乗したのは米大手航空機メーカー、ボーイングの中型機757だ。

 日本の航空会社は導入していないが、米デルタ航空が一部の日本路線で使っており、“不動産・カジノ成り金”のドナルド・トランプ米大統領はプライベートジェットとして保有している。

 塗装は側面に「つながる航空機」を意味する「Connected Aircraft(コネクテッド・エアークラフト)」の名称を大きく記し、機体上部にあるアンテナの位置には矢印を引いて「OUR WIFI ANTENNA(アワー・ワイファイ・アンテナ、『私たちのWi―Fi用アンテナはここにあります』の意味)」の説明まで加える念の入れようだ。この機体はかつて米国の主要航空会社の一つだったものの、経営破綻したイースタン航空が1982年2月に初飛行させた機体で「757の中で5番目に造られた機体」(デモ飛行で操縦したパイロット)だ。ハネウェルは2005年に購入し、ほかにエンジンの性能試験などにも使ってきた。

 航空機内でも快適なネット接続によって搭乗者がそれぞれの好みにあった動画や音楽を自在に楽しめるようになり、機内の過ごし方を変えてしまうかもしれない「ゲームチェンジャー(変革者)」が約35年前に登場した“老兵”の姿をまとっているギャップに当惑しながらタラップの階段を上って乗り込んだ。

 私は前任地の米国ニューヨーク支局時代に米国内線で出張する際に757を多く利用したものの、常連となっていたのは1列に通路を挟んで3席ずつ、計6席を備えたエコノミークラスだ。それだけに前方にある片側2席、計4席の幅が広い座席を備えた上級クラスを通り抜ける際は羨望(せんぼう)のまなざしを向けていたのだが、この日は前方の1列計4席が空いているのを見つけて飛び込むように腰掛けた。

 ところが、このデモ機は搭乗客が乗れる30席はいずれも同じ仕様の座席で、中にはコックピットに同乗する“特等席”もあるではないか!定位置のエコノミークラスから脱しようとするあまり、近視眼的な「いす取りゲーム」を繰り広げた己の浅はかさに恥ずかしさを覚えた…。

 ▽どちらが本当の“雲上人”!?

 離陸後に綿菓子のように広がる雲を突き抜けて青い空が広がり、太平洋の上空をしばらく進んだ後に「シートベルト着用サイン」が消えた。立ち上がって機内を歩き回ることが許された私は機体前部の座席を離れ、防音断熱材や空調の配管、ケーブルなどがむき出しになった機内を後方へ進んだ。

 すると、ネフさんが“心臓部”の通信制御機器を指さして自慢げに見せつけ、もう一つの手に握ったスマートフォンの画面を示してこう訴えた。「この画面に表示されている通り、下りは毎秒40メガ(メガは100万)ビット以上が出ているよ!」。どこまでの接続速度を確保できるかは接続する人数や、ダウンロードをするコンテンツの大きさにもよるが、通常の機内でのネット接続サービスに比べるとはるかに快適な操作が期待できそうだ。

 そこで、参加者がそれぞれのスマホなどでネットに接続した。

 その1人、ハネウェルの日本法人ハネウェルジャパンのロナルド・ロペス・シニアセールスディレクターに感想を聞くと「僕は(無料通信アプリの)LINE(ライン)で東京都内にいる妻と、(米国西部)ロサンゼルスにいる弟と話したよ。それぞれ5~6分で画面が乱れる場面はあったものの、問題なく通話できたよ」と笑顔で話した。「僕は今年だけで8万キロを超える距離を飛行機で移動したほど出張が多いんだ。このWi―Fiが商業機で実用化されると目的地での仕事のためにデータをダウンロードしたり、送ったりして準備もできるから本当に助かるよ」と興奮冷めやらない様子だ。

 私も自分のスマホで接続先を選び、パスワードを打ち込むとWi―Fiにスムーズにつながった。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」にアクセスすると瞬時にトップページが表示され、地上で刻一刻と動いているニュース速報も入ってくる。私を含めた社内の鉄道愛好家が毎週連載している鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」のページへ移ると、地上をはう鉄道の話題に雲の上からアクセスする不思議な感覚を味わった。

 確かに地上でアクセスするのと遜色がない快適さで、ネットに接続できずにいらいらすることがない“雲上人”気分を味わった。しかし、スマホを操作していると電子メールも次々と舞い込み、先ほどまで窓外に散らばった雲が覆い隠すように頭の中から消えていた仕事の連絡メールも入ってきて現実へと引き戻された。

 出張先への移動中も最新情報を取得したり、仕事に追われたりするビジネスマンに重宝されるのは確実な高速接続サービス。しかし、普及すれば飛行中という理由で通信から遮断され、つかの間の休息を味わえる“聖域”が奪われるのも必至だ。ネットに快適に接続できるのと、高速通信から遮断されることで仕事から解放される空間が保たれるのと、どちらが本当の“雲上人”気分を提供してくれるのか―。約1時間半の周遊飛行を終えて地に足をつけた生活に戻った私はしばらくの間、そう自問自答していた。

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共同通信

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