仁田峠のプレミアムな夜

 雲仙市小浜町の仁田峠を夜間開放するバスツアー「雲仙仁田峠プレミアムナイト」が8月から始まるのを前に20日、関係者約30人を招いた試験運転があった。夜のロープウエー、県内で最も高い場所から見る星空-。記者も同乗し、一足お先にプレミアムな一夜を体験した。

 同ツアーは、普段夜間通行ができない雲仙温泉街と仁田峠を結ぶ市道小浜仁田峠循環線を限定開放するイベント。JTB九州と地元旅館経営者らでつくる実行委などが昨年から実施している。

 日も暮れた午後7時半。標高約700メートルの同温泉街は下界より平均気温が4度ほど低く、30度近くあった海岸沿いの仕事場とは別世界。「これから向かう場所はもっと涼しく、見たこともない景色が広がってますよ」。ツアー出発を告げる地元ガイドの声が"極上の一夜"への扉を開く。

 仁田峠に向かうバス内では、ガイドが雲仙の歴史などを解説し、何だか修学旅行みたいでワクワクする。退屈する間もなく仁田峠駐車場に到着。ロープウエー乗り場までペンライトの明かりを頼りに歩く。「こがん暗かと」。長崎市内のネオンに慣れてしまった先輩カメラマンが驚く。「これが自然の黒ですよ」と返すと、ほほ笑む先輩。闇に白い歯だけが浮かぶ。ロープウエーに乗り、いざ妙見岳駅へ。

 いよいよ標高1300メートル、妙見岳駅に到着。展望台で毛布の上に寝転がる。合図と同時に全部のライトが消灯。その瞬間、目の前いっぱいに星の海が現れた。手を伸ばせば届きそうなくらい星が近い。北斗七星ってこんなに大きかったっけ。あの明るいのは何だろう。県内で最も高い場所で見る星に心がはしゃぐ。こんな星空に出合えるのなら、もっと星座を覚えておけばよかった。

 満天の星空を堪能したら、お次は夜景。南島原市の街明かりに加え、霧の合間から対岸の熊本県天草地方の夜景も見える。もし夜景や星空が見えなくても、天候不良に備えたイベントも用意してあり、どちらを体験できるかは行ってからのお楽しみだ。

 下山の車内もガイドの軽快なトークは続き、全行程あっという間の2時間。昨年の参加者1700人を対象にしたアンケートで、約9割が「満足」「また来たい」と回答した結果に納得した。1934年の国立公園指定以前から、ずっと大切に守られてきた雲仙。昼の顔もいいけど、夜の顔もまた魅力的。ここでしかできない体験こそがプレミアム。大自然の輝きに癒やされた一夜だった。

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