「パ・リーグTV」の内部を大公開! 動画編集の舞台裏に迫る

パ・リーグ6球団が合同で行うサービスとして2012年に誕生した「パ・リーグTV」。インターネット環境があればPC・スマホ・タブレットでパ・リーグの主催試合を、いつでもどこでも見られるというリーグ公式ライブ動画配信サービスだが、そのサービス内容は試合映像のライブ配信だけに限らない。

パ・リーグTVではパ・リーグの各球場から届く動画素材を編集し様々な動画を公開している【写真:(C)PLM】

パ・リーグTV動画編集の責任者、中村氏に直撃取材

 パ・リーグ6球団が合同で行うサービスとして2012年に誕生した「パ・リーグTV」。インターネット環境があればPC・スマホ・タブレットでパ・リーグの主催試合を、いつでもどこでも見られるというリーグ公式ライブ動画配信サービスだが、そのサービス内容は試合映像のライブ配信だけに限らない。

 ライブ配信以外のサービスの一つとして、パ・リーグの各球場から届く動画素材を編集し、パ・リーグTVで様々な特集動画として公開。その内容は、楽天・岸投手のノビのあるストレートでの好投シーンをつないだスタンダードなものや、千葉ロッテ・涌井投手がマウンド上でボールを見つめる仕草だけをつないだ“変化球“ものまで、その内容は多岐にわたる。

 上記のような一風変わった動画を配信するたび、SNS上などでは「またパ・リーグTVがとんでもない動画を作ったな…」というような意見が見られるなど、“変わった着目点”が話題の動画編集がどのようにして行われているのか。「パ・リーグTVの内部を大公開」シリーズの第2弾として、年間で約2億回以上の再生数を誇るパ・リーグTV動画編集の責任者で、編集業務をほぼ一人で担当する中村氏に話を伺った。

――この仕事をすることになったきっかけは何ですか?

「この仕事をする前は、あるニュース番組の制作に携わっていました。家族との時間を確保するために選んだ職場でしたが、やはり、映像ディレクターとして活動している以上は自分が本当に好きだと言える分野、スポーツの素晴らしさを伝える仕事に携わりたいと思い、以前から興味があった野球の世界に飛び込みました」

――どうやって試合を見ているのですか? また、どのようなところに注意して見るようにしていますか?

「1軍の試合ですと、通常3試合、交流戦では最大6試合になりますが、全試合分の音声を同時に聞きながら、実況が盛り上がった試合を重点的にチェックするなど工夫をしています。1試合をじっくりと見るのではなく、3試合をまんべんなく見ることが大切。なので『何も考えずにゆっくり試合を楽しみたい…』と思うことも時々あります。

 あとは1週間の終わり(毎週月曜)には「WEEKLY BEST PLAYS20」という好守備のランキング動画を作成しています。自分が見逃してしまえば、その分だけ皆さんの楽しみも減ることになりますので、ナイスプレーは一つも見逃さないように、注意を払っています」

――ファンの声などはどこで拾われているのでしょうか?

「TwitterやFacebookなどのSNSで拾うことが多いですね。それ以外にもMLB.TVや野球以外のスポーツを参考にすることもあります。なるべく自分の考えが偏らないように、いろいろな場所から、ファンの皆さんが何を面白がっているのか、欲しているのか、情報を集めるようにしています」

「スポーツの映像を編集する一番の醍醐味は『瞬間』を切り取ること」

――野球中継を編集する醍醐味はどこにあるとお考えですか?

「これはどの競技にも共通することだと思いますが、スポーツの映像を編集する一番の醍醐味は『瞬間』を切り取ることだと考えています。豪快なホームラン、渾身の投球で奪った三振はもちろんそうですが、ロジンバッグを触り、汗を拭う、涌井投手がボールを見る仕草もそうです。その『瞬間』をいかに見逃さずに切り取れるか、そこが腕の見せどころですね」

――編集していて面白い、魅力的だと感じる選手はいますか?

「編集をしていて面白いと感じるのは、プレーの特徴が映像に表れやすい選手だと思います。最近だと、埼玉西武・源田選手の送球や福岡ソフトバンク・甲斐選手の強肩をまとめると、大きな反響があります。私自身も編集をしていても面白いと感じますね。

 あとは感情表現が豊かな選手も魅力的だと感じます。楽天・ウィーラー選手や福岡ソフトバンク・川崎選手、松田選手、柳田選手など…。真剣かつ楽しそうにプレーする姿は、編集する側としてもやりがいを感じます」

――他の業界でやってきたことで、今の作業などに生きていることはありますか?

「映像業界に入ってからは、良い意味で仕事を選びませんでした。予算が少ない番組では、通常のディレクション業務では行わないような作業も自分自身で行っていたので、その分ディレクターとして鍛えられたのかもしれません。野球選手で例えるなら『どのポジションでも守れます』といったユーテリティプレイヤーのような…。そういった部分は、パ・リーグTVの業務でも存分に生かされていると思います」

――逆にこの業界だから必要となった、あるいは身に付いたスキルや視点はありますか?

「この仕事をする上で、編集技術など積み上げてきた経験は大いに役立ちますが、その経験が、無意識のうちに表現や発想の幅を制限していることもあります。自分がやってきた仕事の常識を当てはめてばかりでは、ファンの皆さんに驚きや楽しさを届けることはできないと考えています。

 また試合映像を切ってつなぐだけの編集では表現に限界があると感じていますので、今は演出の幅を広げられるように、CG映像のスキルを磨いているところです」

――中村氏が選ぶ、これまでに作成したお気に入り動画は何ですか?

「大きな反響をいただいたものだと『6-4-3、4-6-3のダブルプレー集』や『見逃し三振まとめ』、主に北海道日本ハム戦の実況をされている近藤アナの『It’s goneまとめ』、北海道日本ハム・西川選手の『エアハルキ』や福岡ソフトバンク・柳田選手の『サヨナラカップイン』が印象深いです。

 それとは別に、柳田選手、埼玉西武・森選手、オリックス・吉田正選手の『豪快スイングまとめ』もお気に入りです。この特集では、あえてホームランやヒットのほかに空振りした場面も使っています。空振りの場面はテレビ等ではあまり使われることがないシーンだと思いますが、そうした映像も一つにまとめることで、選手の凄さ・力強さがよりリアルに伝えられている。パ・リーグTVならではの動画だと個人的には思います」

「パ・リーグとセ・リーグのファンに垣根は無いはずです」

――野球に関わることで、こういうことをしてみたいなどのプランはありますか?

「とにかく自分ができることは動画の再生回数を1回でも増やすこと。現在の再生回数を見ると…0が1つ足りないでしょうか。10倍と考えると途方もない数字に思えますが、自分がやるべきことはまだまだ沢山あります。パ・リーグとセ・リーグのファンに垣根は無いはずですし、海外の野球ファンにも、より多くの人に興味を持ってもらえるようなコンテンツ制作を目指します」

――この仕事をやっていてよかったと感じる瞬間は?

「月並みですが、自分が作った動画を見て喜んでもらえた瞬間です。『おかしい』『変』『マニアックすぎる』といったコメントも、自分にとっては最高の褒め言葉ですね」

――この業界を目指している人たちに向けてのメッセージをお願いします。

「今はパソコンやスマートフォンで誰でも動画編集ができる時代ですから、映像制作を仕事にしたいというのであれば、編集だけではなく撮影や選曲、CGデザイン等、色々なことが出来た方が良いかと思います。分業制だった一昔前と比べれば、個人の能力や魅力がそのままコンテンツに反映されますが、きっとその分だけ仕事のやりがいや喜びは大きいはずです」

――最後に、パ・リーグTVで配信される動画を楽しみにしている方々へ向けたメッセージをお願いします。

「いつもパ・リーグTVをご視聴いただきありがとうございます。パ・リーグもセ・リーグも、ファンの皆さんと共により一層野球が楽しくなるようなコンテンツ作りに挑戦していきますので、今後もよろしくお願い致します」

 日本人の大半がスマホを所有している現代において、テレビによる視聴ではなく、PC・スマホ・タブレットによるネット視聴が主流になりつつある。だからこそ外出中や、帰宅時などにも試合中継のライブ視聴が可能となっている。とはいえ、全試合を見続けている人だからこそ分かる選手の魅力や、注目すべきポイントをまとめた特集動画には、ただ試合を見ているだけでは感じることのできない良さがギュッと凝縮されて存在する。

「パ・リーグとセ・リーグのファンに垣根は無い」と中村氏が語ったように、今後も“広い視野”でプロ野球ファンの期待に応える新たな動画が次々に生み出されていくことになるだろう。パ・リーグの魅力、プロ野球の魅力の全てを広めるべく、パ・リーグTV、そして中村氏の挑戦は続く。(「パ・リーグ インサイト」編集部)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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