ニジマス養殖事業化へ

 全国有数の生産量を誇る松浦産の養殖トラフグ。歯応えの良さなどを売りに全国的に高い評価を受ける一方、養殖業者は近年、価格の乱高下に頭を抱える。松浦市と新松浦漁協(志水正司組合長)は打開策として新魚種の生産を模索。この春トラウトサーモン(ニジマス)の養殖に成功した。本年度は新たに浮上した課題解決へ試験を続け、事業化の可能性を見極める。

 同市によると、市内でトラフグ養殖が盛んになったのは1990年代以降。県が安定的に人工種苗を生産する技術を開発し、好景気による需要の高まりもあり業者が増えたという。市内生産量は2015年、596トンで全国1位。国内の14・9%を占め有数の生産拠点となっている。

 だが高級食材として知られるトラフグは近年、需要の低下や産地、輸入品の増加などから魚価が安定していない。同市と漁協は業者の経営維持、所得向上策として、新魚種の生産ができないか試験を重ねてきた。

 同市によると、これまでにマハタやクエ、カワハギやメバルを育成。しかし出荷できるまで成長しなかったり、長期間かかったりして断念。水温が合わず死滅した魚種もあったという。

 同市は結果を踏まえ漁協と魚種について検討。トラフグ出荷後の冬場に生産でき、伊万里湾に適した魚として昨冬トラウトサーモンの育成を試みた。同市鷹島町の2社が稚魚計1万匹を育て、うち約4800匹が出荷可能な約40~45センチ、約1~2キロに成長。新事業の可能性が見えてきた。

 しかし、漁協は事業化には課題も少なくないとみる。約4800匹の平均重量は約1・2キロ。サイズもややばらつきがあった。水揚げ後は漁協加工場でさばかれ、冷凍加工されるが「手作業で3枚におろし骨を抜く。採算を考えれば2キロ近く必要」(漁協)。

 強みはある。トラフグ出荷後に約半年間空くいけすで生産ができる点だ。試験養殖に取り組んだ保栄水産の坂元高幸社長も「短期間で育てられるメリットは大きい」と話す。また伊万里湾は、冬から春まで水温が18度以下と成育には適している。トラウトサーモンは輸入品が主流だが、鷹島産は歯応え、甘みがあり身質が良い。すでに県内数社が仕入れに興味を示しており、漁協は事業化に向けてさらに販路を探る方針だ。

 同市は本年度、サイズの均一化などに向け約380万円の予算を盛り込んだ。餌を工夫したり成育状況で選別して育てたりして今冬も試験養殖を続ける。同市は「安定した事業として確立できるよう課題をクリアしていきたい」とする。

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