間一髪、踏切から救出 警察庁長官から表彰 高津署・中山巡査

 電車が接近し遮断機が下りた踏切から、自殺しようとした女性を救出したとして、高津署地域2課の中山祐也巡査(26)が7月、警察庁長官賞を受けた。行動を起こす判断の数秒の違いが生死を分けた救出劇だった。中山巡査は「助けられる可能性があるなら何もしないで見ていることはできなかった」と当時を振り返る。

 中山巡査はパトカーで巡回中の5月19日午後10時20分ごろ、川崎市高津区末長のJR南武線坂戸踏切で、線路上に犬を抱いて立ち尽くす50代の女性を発見した。警報器が鳴り遮断機が下りていた。同乗していた同僚と2人で「踏切から早く出て」と叫び続けても、反応はなかった。

 武蔵新城駅から武蔵溝ノ口駅に向かう下り電車のライトが約100メートルに迫っていた。瞬間的に「今なら間に合う」と判断し、遮断機をまたぎ駆け寄った。電車の警笛が聞こえた。女性を後ろから抱きかかえ線路の外に出した約2秒後に電車が通過した。2人との距離は約1・5メートルだった。

 中山巡査は「後になって恐怖感がこみ上げてきた。今は人の命を助けることが一番大切な仕事であると実感している。同僚のサポートがあったからこそ救出できた」と話す。

 同署に保護された女性は落ち着きを取り戻した後、「夫とのけんかで家を何度か飛び出してきたが、死のうと思ったのは初めて。ありがとう。こんなことはもうしません」と語ったという。

 女性を救出した約1カ月前の4月15日、同市川崎区の京急線八丁畷駅横の踏切で、高齢男性を救出しようとした銀行員がひかれ2人とも死亡した事故を鮮明に記憶していた。軌道事故を業務で取り扱った経験はないが、現場の凄惨(せいさん)な様子は先輩たちから聞かされていた。

 7月19日、東京の警察庁長官室で坂口正芳長官から直接、賞状を手渡された。「身の危険を顧みず踏切内に入り、列車が接近する中、女性を救助した功労は多大」と記されていた。表彰後に行われた懇談で、坂口長官は「よく助けてくれた」と勇気ある行動をたたえたという。

 警視庁の警察官だった亡き父と、祖父の影響で大学卒業後の進路に県警を選んだ。初任地の高津署で交番やパトカー乗務の勤務に就き間もなく4年。女性を救出した日も、警察庁長官賞を受けた夜も「僕の命を助けてくれてありがとう」と父の仏壇に手を合わせた。

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