日曜日の女:「既婚」であることだけが誇り。価値観押し付け女から垣間見る、隠された心情

東京には、都合の良い勘違いをしている女が多い。

麻布十番で会員制サロンを開いている麗子のもとにも、毎週のように勘違い女が現れる。

麗子は毎週日曜日になると、その週に出会った女たちを振り返るのを趣味としている。

先週は、自分をモテると勘違いしている女・カナを紹介した。

さて、今週麗子を驚かせた女とは?

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<今週の勘違い女>
名前:マリ
年齢:30歳
職業:会社受付

私、人妻なんで。

会員制リラクゼーションサロン「angelle(アンジュール)」では、今週も多くの女たちを迎え入れた。

都会の疲れた女たちは、みな癒しを求めている。

その証拠に、彼女たちはスケジュールに都合をつけて、麗子の元に足繁く通う。

そして愚痴や相談事、周囲の友人には漏らせないような本音をポツリ、ポツリと語っていくのだ。

しかし、癒されに来たはずのサロンで、うっかり心の武装をしてしまうタイプの女もいる。

「それにしても、今週もあの結婚賛美は凄かったわね…。」

うっかり呟いてしまった一言を、セラピストの陽子は聞き逃さなかった。

「岡野さんのことですよね?私も結婚しているかどうか聞かれましたよ、得意げに。」

今週水曜日に訪れた岡野マリも、武装してしまう女の一人だ。

会社受付をしているマリは、座りっぱなしの仕事で腰の調子が良くないと最近この店に通い始めた。

だが、施術中のお喋りが、とにかく「結婚していない女は自分よりランクが下」という態度で繰り広げられるため、麗子も陽子もほとほと困りはてていた。

マリの「人妻最強」アピールとは

私の方が、女として勝っている

「岡野さん、凄かったんですよ。何気ない世間話をしていたと思ったら、いきなり結婚してるのかどうか聞いてきて。してない、って言ったら上から目線でめちゃくちゃ既婚自慢されてしまいました…。」

陽子は26歳で年齢的にも結婚を意識しだす頃だが、いきなり客に「結婚しているんですか」と聞かれ、かなりの憤りを感じたらしい。

「こんなこと言ったら失礼かもしれないんですけど…。岡野さんって、その、フツーじゃないですか。」

そう言われて、麗子は岡野マリの全体像を思い出そうとした。

セミロングのヘアスタイルに…ファッションはどうだっただろうか。実はあまり強い印象がなく、思い出そうとしてもハッキリとした輪郭が浮かんでこない。

だが、ぼんやりとした印象しか思い出せないルックスとは対照的に、マリの言動の数々は強烈な印象を残し、今でも麗子の耳朶に残っている。

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あれは、マリが初めて店に来た時のことだった。

「最近、どうですか?」

施術中、自分ばかりが喋りっぱなしのことに罪悪感を感じ、こちらに話を振ってくる客は少なくない。

だが、初めての客から繰り出される「最近どうですか?」という質問に、一体なんと答えるのが正解なのだろうか。

麗子は、「おかげさまで、お客様も増えて忙しくさせていただいてますよ」とその場を濁した。

するとマリは、「プライベートとか…。彼氏さんとかいるのかな?なんて。」と踏み込んでくる。

勘違い女・カナの件もあったので、恋愛関連のトピックを極力避けながら、美容に良いとされるコンブチャにハマっていることを伝えたのだが…。

マリは、コンブチャの話には一切食いつかず「そうですかぁ〜。ところで私、この間結婚したんですよ。」と語った。

「まぁ、それはおめでとうございます。」

麗子が、モテ自慢を繰り出されるわけじゃない…とホッとしたのも束の間。マリはこんなことを口走った。

「本当、結婚して良かったです。これでやっと、私も一人前の女になれた気がして。」

少し違和感を感じた麗子に、畳み掛けるようにマリは続けた。

止まらない結婚賛美

過剰な自慢は、コンプレックスの裏返し

「やっぱり結婚すると、世界が変わるんです。」

そんな風に語り出したマリは、3年付き合った彼氏とやっと結婚した話、同棲やプロポーズを経て無事に現在の夫と結ばれたという話を滔々と語りだした。

「やっぱり結婚って、いいですよ〜。ご予定はないんですか?」

もちろん結婚が、悪いものだとは全く思っていない。

だが、軌道に乗り始めたサロン経営に夢中になっている今の最重要トピックではないと告げると、マリは全く悪びれずにこう語った。

「仕事に邁進するのももちろん大事ですよね。でも女なら、若いうちに結婚しておくことが、人生のリスク回避にも繋がると思うんです。年齢を重ねるごとに、婚活市場での自分の価値も下がっていきますし…。」

結婚を、人生のライフラインの一つとして捉えているのだろうか。

初めて会ったばかりのセラピストに、婚活市場での価値が下がっていると告げる神経もすごい。

とにかく女は絶対に若いうちに結婚したほうがいいという強烈な価値観を押し付けられ、麗子は心身ともに疲弊してしまった。

「岡野さんって、自分の意見が正しい感が半端ないですよね!」

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陽子が愚痴りたそうだったので、2人で軽く夕飯を食べて帰ることにし、『オルソ』に立ち寄った。

「私もすでに結婚している友達何人かいますけど、あそこまで露骨に結婚してることを自慢する人、なかなかいませんよ…。」

ガブガブとすごい勢いでワイングラスを空けていく陽子には、どうやら相当マリの自慢が堪えたようだ。

「マリさんは、多分結婚によってやっと自分に自信がもてたタイプの方なのよ。だから、ついつい自慢しちゃうんじゃないかしら。」

これは、まぎれもない事実だと思う。

話を聞く限り、マリの仕事は聞いたこともない小さな会社の受付だという。独り暮らしも長かったというし、あまりパッとしない生活を送っていたのかもしれない。

そんな女が、生涯未婚が3〜4人に1人という時代に何とか30歳までに結婚を決めたことで、急に周囲の女よりも自分が勝っているという錯覚に陥ってしまうのも、無理はないのだろう。

だがー。

マリの場合、自分が結婚できたことが嬉しすぎるあまり、他者の境遇や気持ちを慮ることを全く忘れてしまっている。

セラピスト相手にあの調子では、友人達からも相当ひんしゅくを買っているに違いない。

「あぁはなりたくないわね…。」

自分の選択や生き方を正当化したいあまり、違う生き方をしている他人に余計なアドバイスをする人間は男女問わず多い。

だが、自分と違う人間を否定することでしか自分の人生が正しいと思えないような女には、心底なりたくないと思う麗子であった。

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不倫を美化し、正当化する女

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