モノを手放すと家計はどこまでラクになる?

ものを持たない生活をするミニマリストが注目されています。マネープランの視点からものを持たない家計のメリットとデメリットを考えてみます。

断捨離の先はミニマリスト?

ミニマリスト、という言葉が最近目につくようになりました。最小限主義者と日本語訳がつくこともあるように、できるだけものを持たない生活を送ろうというのがミニマリストです。

「ぼくたちに、もうものは必要ない。~断捨離からミニマリストへ」という本が売れていることもあり、ちょっと気になっている人も多いと思います。

ミニマリストを実践している人の部屋をみると、ほとんどものがない部屋に最小限度のアイテムだけがある生活をしています。今すぐリュックひとつ抱えて海外旅行に出かけられるほどシンプルな生活で、単なる断捨離を超えて「必要なものしか持たない」という生活スタイルになっています。

ところで、ここまでものを持たないと、マネープラン的にもメリットがあるように思います。一方で注意点もありそうです。

ここでは、ミニマリストをヒントに、あなたの家計の見直しのヒントを探ってみましょう。

ミニマリストは家計も最小限にできる可能性がある

ミニマリストの最大のポイントは「所有」をなるべくしないということです。典型的な比較だと「部屋に本が散らかっている」「クローゼットが服の山」であったものをほとんど処分し「座右の書を数冊のみ持つ(あるいは紙の本はもう持たない)」「本当のお気に入り服だけ数点持つ」のようにシンプルライフになります。

お金を払う買い物の出費を大別すれば「食費や日用品のように文字通り『消費』されるもの」と「書籍やパッケージソフトのように『所有』されるもの」に分けることができます。前者は食べたり使うことでなくなっていきますが、後者はなくなることがないものです。

別の角度で考えれば『消費』される買い物は生きていく以上は欠かせませんが、『所有』する買い物は必ずしもなくても成り立ちます。これはつまり、『所有』するためだけの買い物を抑えることができればムダな出費を削ることができる、ということです。

家庭ごとの家計のウエイトにもよりますが、家計出費の1~3割くらいをカットすることも不可能ではありません。

『所有』出費を、『仮所有』出費に変えてみる

ところで、『所有』する出費をいきなりゼロにするばかりが、ミニマリスト的家計の見直しではありません。

例えば書籍代や雑誌代を全部カットしてゼロにするばかりが選択肢ではありません。本を読みたければ図書館を利用することで、読むという行為はなくさず本を閲覧することは可能です。マンガならマンガ喫茶をときどき利用するのもいいでしょう。もちろん無料で読めるネットの情報を活用する手もあります。

また、電子書籍を利用すれば割安で書籍の情報を手に入れることができ、部屋を圧迫することもありません。映画のパッケージを買わず、iTunesやPSN、GooglePlayなどを使ってレンタル視聴すれば、かかる費用は格段に下がります。これは「所有」が絶対ではなく「仮所有」のような形に切り替えることで出費費用を抑えられる可能性を示しています。

しかしながら、ミニマリスト的家計には注意すべき点もいくつかあります。

「持たない」=「お金は使わない」でなないことに注意

一方で、注意すべきポイントがあるとすれば、『持たない』がすなわちお金を使わない、ではないということです。

一見すると不思議な感じがしますが、『所有』する買い物にお金を使わないようになっても、『消費』する買い物と最低限度の『所有』にお金をつぎ込むようになってしまう可能性があるからです。

ものを持たなくなったことによる予算的余裕が、家計の改善ではなく、食費のグレードアップに回ってしまうと、減らしたはずの出費が別の出費増につながってしまうことになり、家計全体では改善しないことになります。これは「高品質な食生活」のために、予算配分を切り替えたということでしかないのです(それはそれで意識しているならアリですが)。

また、最低限度の消費を行うときにグレードアップ消費になってしまうことも要注意です。たとえば、デスクトップパソコンはいらないけれど、ノートパソコンだけは一台持とうとしたとき、高いノートパソコンを買っていたらあまり節約にはなっていません。部屋に時計は置かないが高級腕時計はOKといっていたらこれまたかかる費用は何十倍にもなります。

所有しないことの長期的難しさもある

ところで、「所有」を避け続ける先に「持ち家」を買わない、という選択があげられます。ミニマリストの多くはものを多く持たない分、狭い部屋でも住むことができます。また持たない、という信条からどうしても住宅ローンを組むより賃貸生活になる傾向があります。

しかし、マネープランを「一生涯」のものとして考えたときには、「老後には持ち家があったほうが楽」ということはいえます。年金生活に入ったとき、国の年金には家賃手当はなく、基本的に日常生活費くらいしかもらえないものです。

ミニマリストの場合、月額4~5万円の家賃でも暮らせるでしょうが、それでもセカンドライフを平均20年とみれば960~1200万円の確保が必要です。エリアによっては同程度のワンルームが買えてしまうかもしれない金額です。

「持ち家」という所有については絶対にNGと決めつけず、しっかり考えておくことが必要でしょう。

「所有」を当たり前のことと思わないヒントとして考えてみよう

ミニマリストにもいろいろあるようで、趣味に使うお金を否定しない人もいます。これはそのとおりだと思います。禁欲的にミニマリストを真似してストレスがたまるようでは本末転倒だからです。

誰もがミニマリストになれるわけではありません。むしろ実行できない人のほうが多いと思います。それでもミニマリストの生き方から「ムダを削る生活」や「当たり前の消費を見直す生活」のヒントを手に入れることができれば、これはマネープラン上の大きな変化につながる可能性があります。

特に『所有』する消費の多くは、当たり前だという思い込みが消費を削れないことがあります。ミニマリストに学ぶことはそうした思い込みを取り除くチャンスになるはずです。

(文:山崎 俊輔(マネーガイド))

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