来日記念!【シャペコエンセ連載・復興への軌跡/最終回】マンシーニ監督解任の真相と浦和レッズ戦展望

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 2016年11月28日に起きた事件を、覚えている方は多いはずだ。ブラジルの1部リーグに所属するクラブ、シャペコエンセの一行を乗せた飛行機が墜落し、多くの尊い命が犠牲となったあの大事件だ。
 
 あれから、およそ9か月が経った。クラブ存続の危機に直面したシャペコエンセはしかし、着実に復興へと進んでいる。そして8月15日には、コパ・スダメリカーナ王者として臨むスルガ銀行チャンピオンシップで、浦和レッズと対戦する。
 
 シャペコエンセの来日を記念してお届けするのは、現地在住のサッカージャーナリスト、沢田啓明氏が飛行機事故からの歩みを追ったドキュメンタリー連載だ。最終回は、突然断行された政権交代の真相に迫る。ヴァグネル・マンシーニ監督は、なぜ解任されたのか。そして、浦和レッズとはどう戦うのか――。
 
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 今年1月から采配を振るっていたヴァグネル・マンシーニ監督が7月4日、解任された。
 
 ブラジル全国リーグ第11節で、リオの名門フルミネンセとアウェーで対戦。終盤まで1点のリードしながら、アディショナルタイムの失点で3-3のドローに持ち込まれ、4勝1分け5敗の15位(20チーム中)まで順位を落とした翌日のことだった。
 
 この一戦を含む15節までの5試合は1分け4敗。成績が悪化していたのは事実ながら、敵地で強豪相手に引き分けという結果は決して悪いものではない。この段階での監督交代には驚いたし、率直に言って理解に苦しんだ。
 
 ブラジルは、世界のサッカー大国のなかで最も頻繁に監督の首を挿げ替える国のひとつだ。昨シーズンの全国リーグ1部では、20クラブ中15クラブが監督を交代している(うち8クラブは複数回)。
 
 シャペコエンセは無借金経営を続ける優良クラブで、給料の遅配も絶対にない。日本では当たり前かもしれないが、ブラジルや南米ではむしろ例外的だ。そういった意味では稀有なクラブである。しかし、こと監督人事に関しては忍耐強さに欠ける。2014年に3度、15年と16年に一度ずつ指揮官を変えており、今回のマンシーニの解任についても、当初は「ブラジルのクラブ特有の堪え性のなさが出てしまったのか」と考えていた。
 
 マンシーニは中堅クラブのパウリスタを率いた05年にコパ・ド・ブラジルを制覇し、その後はサントス、クルゼイロといった強豪クラブを指揮した経歴の持ち主だ。昨年の12月上旬にシャペコエンセの監督に就任した際には、「事故で他界した前監督、選手らの遺志を継いで、再び市民に誇りと喜びを与えられるチームを作りたい」と抱負を語っていた。筆者が直接インタビューして感じたのは、「知的で冷静な人物」という印象だ。
 
 主に用いていたシステムは4-3-3。3人のボランチが中盤で激しく守り、攻撃は手数をかけずにサイドへ展開し、サイドバック(SB)とウイングの連携で崩してクロスを入れる。これが基本の戦術だった。
 
 当初は攻守両面で機能性を欠いていたものの、次第に連携が深まり、州リーグは2年連続6度目の優勝を達成。クラブ創立以来、初めて参戦したコパ・リベルタドーレスは、1次リーグで出場停止中だった選手を誤って起用したペナルティーで勝点を剥奪されて敗退したものの(これは監督ではなくフロントの失態)、試合内容は決して悪くはなかった。

 全国リーグも序盤は絶好調だった。3~4節はクラブ史上初めて首位に立つ。しかし、その後は対戦相手に戦術を研究され、SBが攻撃参加した背後を執拗に突かれて失点が急増。5節グレミオ戦で6失点、9節フラメンゴ戦(アウェー)で5失点を喫し、10節アトレチコ・ミネイロ戦はBチームで臨んできた相手に0-1で敗れている。
 
「この時点でクラブ首脳は解任の腹を決めており、フルミネンセ戦の結果はあまり関係なかった」

 それが地元記者の見立てだ。
 
 クラブの内情に詳しい人物の情報を総合すると、この解任にはさまざまな側面があった。一つは、マンシーニの戦術が単調でバリエーションに乏しく、一部の選手から不満や疑念の声が挙がっていたらしいこと。また、メンバーを固定して戦っていため、下部組織出身の若手にはチャンスが与えられず、そんな指揮官の姿勢を快く思わない人間がフロントにいたという。
 
 結果がついてきていれば、それでもやり過ごせただろう。だが、成績は急激に悪くなり、とりわけ失点が増大した点にクラブ首脳が危機感を抱いたという。これが解任に至った真相のようだ。
 

 マンシーニの後任に指名されたのは、ヴィニシウス・エウトロピオ。ボランチとして中小クラブを渡り歩いた16年間の現役生活を終えた後は、フルミネンセのコーチなどを務め、ポルトガルのエストリウや国内のアメリカ・ミネイロといった中堅クラブで指揮を執り、14年12月にシャペコエンセの監督にも就任している。
 
 だが、シーズン序盤こそ堅守を構築して好調だったチームは、得点力不足が響いて成績が次第に下降。わずか9か月で解任の憂き目を見る。それでもチームの土台を作り上げたのは事実で、16年シーズンの快進撃もその功績を抜きには語れないとの声があり、一定の評価を受けていた。
 
 今年は2部のサンタクルスを率いていたが、6月に途中退任。フリーの身だったところに、シャペコエンセからのオファーが舞い込んだ。会長をはじめクラブ首脳との関係が良好だったことも、招聘を後押ししたようだ。
 
 エストリウ時代に欧州の最新戦術を学んでいるエウトロピオは、自身の目指すスタイルをこう語る。

「ライン間の距離を狭めて精力的に守り、カウンターにこだわりすぎることなく状況に応じてボールポゼッションも重視する。攻守両面でインテリジェンスを発揮し、柔軟にプレーできるチームを作りたい」
 
 では、エウトロピオが指揮を執りはじめてからのシャペコエンセの戦いぶりは、どうだったか。具体的に振り返っていく。
 
 監督就任直後、エウトロピオは「シーズン途中なので、システムや選手起用の大幅な変更はすぐには行なわない」と語り、初陣となった12節のアトレチコ・パラナエンセ戦は4-3-3を踏襲。選手起用も中国リーグに移籍したロッシの右ウイングにベネズエラ代表のルイス・セイハスを先発させた以外は、従来通りだった。
 
 試合は開始早々の2分に右サイドを崩されて先制を許したものの、16分にMFルーカス・マルケスの見事なミドルシュートで追いつき、そのまま1-1のドローで終わっている。
 
 13節のスポルチ・レシフェ戦も同じ布陣。前半は互角に渡り合ったが、後半に失点を重ねて0-3で敗れ去った。この敗戦を受けて、続くサンパウロ戦はシステムを4-4-2に変更し、CFには下部組織出身の19歳ペロッチを初先発させる。
 
 前半は相手に中盤を支配される厳しい展開。だが、守護神ジャンドレイの好守と敵のシュートミスに助けられ、無失点で凌ぎ切る。すると後半、CKから長身FWトゥーリオ・デ・メロがヘッドで決めて先制。さらに終了間際、高い位置でボールを奪ったMFルーカス・マルケスがミドルシュートを叩き込み、新監督の下で初勝利を飾った。
 
 4-1-4-1のシステムで臨んだ15節のサントス戦は、アンカーに出場停止のアンドレイ・ジロット(元京都サンガ)に代えてモイゼス・リベイロ(元アビスパ福岡)を起用し、中盤は右からセイハス、ルーカス・マルケス、ルーカス・ミネイロ、ルイス・アントニオを並べ、最前線は左ウイングを本職とするアルトゥール・カイッキの1トップ。前半はこの新布陣が見事に機能し、中盤を支配して決定機を作り続けた。
 
 だが、相手GKの好守に阻まれ、なかなかゴールを割れない。すると、運動量が落ちてラインがやや間延びした後半は、サントスの個人技を抑えきれなくなり、61分に失点。結局は0-1で惜敗した。
 
 ただ、前向きに捉えられる敗戦だった。選手たちも「負けたけど、強豪とのアウェーゲームで良い内容の試合ができた」と手応えを掴んだ様子だった。
 
 事実、以降の2試合は連勝を飾っている。左SBレイナウドのPKで先制した16節のヴィトーリア戦は、後半に一度追いつかれたものの、失点からわずか2分後、下部組織出身のFWローレンシーがネットを揺らし2-1で勝利。その3日後は、王者として臨んでいるコパ・スダメリカーナのラウンド・オブ32、デフェンサ・イ・フスティシア(アルゼンチン)との第2レグを戦った。
 
 敵地での第1レグを0-1で落としていたシャペコエンセは、25分にFWデ・メロがCKを頭で合わせて先制し、前半でタイスコアに持ち込む。その後は相手の強固な守りに手を焼き追加点を奪えず、勝負はPK戦へ。このPK戦で躍動したのが、2本をストップした守護神ジャンドレイだ。4人連続で決めたシャペコエンセは、ベスト16の切符を勝ち取った。
 
 印象的だったのが、試合後の光景だ。PK戦を制した瞬間、多くのサポーターが涙ぐんでいた。ブラジル人の贔屓チームに対する思い入れはすさまじいものがあるが、サンパウロやリオに本拠を構えるビッグクラブのサポーターなら、おそらく泣きはしない。シャペコエンセのファンの純朴さ、昨年のチームが優勝を勝ち取ったこの大会への愛着、そしてとてつもないクラブ愛を改めて感じた。
 
 最後に、8月15日に対戦する浦和レッズ戦を展望する。予想フォーメーションは、4-4-2。中盤の底で攻守に貢献するジロット、抜群のスピードで右サイドを切り裂く右SBアポジ(元ヴェルディ東京)、精度の高いクロスとロングスローが持ち味の左SBレイナウド、チーム一のテクニシャンで創造性を発揮するアタッカーのセイハスらが成否を左右するキーマンだ。
 
 日本には試合の数日前に到着できるので、長旅による疲労と時差ボケの心配は不要だろう。エウトロピオ監督は、「飛行機事故に遭った犠牲者の名誉のためにも、全身全霊を傾けてプレーし、タイトルをシャペコに持ち語りたい」と意欲満々だ。
 
 浦和レッズを倒せば、昨年のコパ・スダメリカーナに次ぐ国際タイトルだ。クラブ一丸となって勝利を目指す。
 
取材・文:沢田啓明
 
※ワールドサッカーダイジェスト2017.08.17号より加筆・修正
 
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【著者プロフィール】
さわだ ひろあき/1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。
 

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