伊万里湾の赤潮見えぬ収束

 松浦市の新松浦漁協が漁場とする伊万里湾で赤潮が収束せず、漁業被害が拡大している。日本一の生産量を誇るトラフグのほかハマチやマグロなど7魚種、計約50万匹(17日夕時点)が被害に遭い、養殖業者は頭を抱える。漁協は防除剤散布などを続けるが有効な手だてがないのが現状だ。自助努力では再建が見通せない生産者もおり、県の支援策が注目される。

 湾内の同市鷹島町沖に朝日が差し込む17日午前7時。海上のいかだに立つトラフグ養殖業者は、晴れやかな空とは対照的に浮かない表情を浮かべていた。死んだ魚を網で回収していた。この日だけで約100匹。

 「まだ少ないほう」。保栄水産社長の坂元高幸さん(45)は、収束が見えない不安から眠れない日々が続いていると明かす。同社だけで約5万匹が死んだ。生き残ったトラフグに餌を与え終え、穏やかな海を見詰めて話した。「父から継いだ会社をつぶさず従業員の生活を守りたい。いち早い沈静化を願うばかりです」  県総合水産試験場によると、赤潮は植物プランクトン「カレニア・ミキモトイ」の大量増殖が原因。水温25度前後、水深5~10メートルで増殖しやすく、暑い日が続いたことも増殖の一因と考えられている。

 同漁協の昨年度の売り上げは35億3500万円で、うち養殖部門は24億7千万円。同市は17日夕までの被害額を約5億以上と推計している。養殖の年度売り上げの5分の1を超え、被害の深刻さを物語る。

 特にトラフグの被害が際立つ。本年度いけすに入れた当歳魚は約107万匹のうち約38万匹が被害に。今冬出荷予定の2歳魚も約5万4千匹が死んだ。

 同漁協によると、損失は基本的に漁業共済で補てんする。だが被害額の何割を補償するかを決める契約割合は、トラフグ生産者の平均が約5割。その上、当歳魚の被害を対象とする共済制度はなく、未加入の養殖業者もいる。稚魚や中間魚の購入補助などの支援がなければ「立ち直れない生産者も出てくる」(漁協)。

 補償だけではない。養殖業者が口をそろえ訴えるのは、赤潮被害の不安を抱えずに生産を続けていくための環境保全だ。

 同試験場によると、カレニア-はほぼ毎年湾内で確認されている。同試験場は「(原因の)特定は難しく、早期に検出して対策を打つしか有効な手だてがない」とする。発生後の対策も防除剤にミョウバンを混ぜて散布する方法が勧められているが、劇的な効果があるわけではないという。

 18日、同漁協を訪れた中村法道知事は、資金面での支援のほか伊万里湾の赤潮の原因究明に向け、調査を始める考えを示した。西日本有数の漁業基地を守るため、スピード感のある支援が求められる。

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