走り続ける、病に負けぬ 1型糖尿病…挑戦する姿、患者の希望に

 自己免疫の異常などで発症する1型糖尿病の患者で、横浜国立大学付属鎌倉中学2年の大原慎人さん(13)=逗子市在住=がこの夏、逗子−広島間の自転車旅を成功させた。患者数が少なく、症状や特性の認知度が低い1型糖尿病。「病気があっても普通の人と同じように過ごせることを僕を見て知ってもらえれば」と願っている。

 ユニホームの袖をめくると、日焼け跡がくっきり刻まれている。約900キロメートル、5日間の挑戦で刻まれた勲章だ。

 太平洋を臨みながら西へとひた走り、紀伊半島からはフェリーで四国に渡り、その後は本州に戻って広島を目指した。起伏が激しく苦戦した紀伊山地、絶景に魅了されたしまなみ海道、うどんを堪能した四国…。「疲れたけれど、ずっと楽しさが勝っていた」。小麦色になった顔ではにかむ大原さんは、旅を振り返りながら断言する。「1型糖尿病の患者だからといって、できないことは何もなかった」 大原さんは小学5年だった10歳のある朝、突然吐き気やふらつきに襲われ、1型糖尿病と診断された。

 「もうみんなと同じ生活はできないのかな」。気分が沈んだ。始めたばかりの趣味の自転車も諦めなくてはならないかもしれない。そう思っていたさなか、1型糖尿病の選手のみで構成される米国のプロ自転車チーム「チーム ノボノルディスク」の存在を知った。

 自分と同じ病気の選手が、強い選手と熱戦を繰り広げている。驚くとともに前向きな気持ちになった。

 大会で選手が来日した際は実際に交流。口々に激励され、いつしか「自分もプロ選手になりたい」と思うようになっていた。現在は湘南の自転車チームに所属し、練習に励んでいる。

 今回の挑戦は「競技中の自分の体調の変化を知って、今後のレースに生かしたい」との目的もあり計画した。7月29日早朝、父親の寛昭さん(39)とJR逗子駅を出発。こまめに血糖値を測定し、腹部にチューブでつないだインスリンのポンプや補給食のゼリーで常に体調管理を行いながら、1日約12時間の移動をこなした。猛暑による発汗や疲れから普段より早く低血糖になる場面もあったものの大きな問題はなく、8月2日夕方、妹のめいさん(11)や親戚らに迎えられ、広島平和記念公園(広島市)にゴールした。

 発病から3年。大原さんはいま、「病気になってよかった」と思えるようになったという。「病気にならなかったらプロの選手に会えなかったし、プロを目指して自転車を続けていたかも分からないから」 次の目標は「チーム ノボノルディスク」が15〜18歳を対象に米国で開催する合宿に参加することだ。厳しい選抜があるため、実績を積むためレース出場などに注力していく予定だ。いずれはプロになり「『大丈夫、糖尿病でもちゃんと生活できるよ』って、同じ病気の人たちを勇気づけられる選手になる」。その夢に向かって、大原さんはペダルをこぎ続ける。◆1型糖尿病 自己免疫反応の異常などで膵臓(すいぞう)がインスリンを出す機能を壊してしまう病気。1年間の発症者は10万人当たり1.5〜2.5人で、10〜20代の若い世代で発症する患者が多い。インスリン投与など適切な治療を行えば病気がない人と同じように生活できるが、日本では主に生活習慣が関わる2型糖尿病が一般的な糖尿病として広く知られていることもあり、1型の特性はあまり知られていない。

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