障害当事者の言葉届け 南足柄、若者に発信

 南足柄市の障害者施設の利用者が、講演を通じて自らの思いを若者へ発信し続けている。取り組みはことし10年目を迎え、これまで交流した学生らは約5600人に上る。「もっと、もっと、当事者の言葉を届けなければ」。障害者19人の命を奪った1年前の凶行にひるまず、講演に携わる人たちは思いを強くしている。

 ことし7月11日。小田原市城山の小田原短期大学の体育館で、鈴木めぐ実さん(30)はR&B歌手AIの大好きなバラードに乗せ、2年生約120人に自作の詩を朗読した。

 〈障害者って言うだけで 偏見を持つのはすごく寂しいの よそ者扱いじゃなく いろんな人が居て当たり前 十人十色 みんな違って みんな同じ人間なの 気づいて いつか分かるから〉 高校3年の春、突然倒れ、半身が不自由になった。左手と左足が言うことを聞かず、当時は考えたことがひと言も言葉にならなかった。

 それでも「猛特訓」を経て、「思っていることの7割程度を話せるようになった。親子げんかもできる」と笑う。今もリハビリのため、社会福祉法人「県西福祉会」(南足柄市三竹)が運営する県西福祉センターに週4回通っている。

 詞を作り始めたのは、センターの職員に勧められたから。初めて臨んだ一昨年の講演では頭が真っ白になったが、AIの曲を聴くと友達や家族、助けてもらった人が浮かんできた。緊張はもうしなくなった。

 「普通の人間として見てほしい」。そんな思いを込めて読んでいる。

 同法人の施設利用者による講演は、2008年に始まった。県内の大学から社会福祉を学ぶ学生向けに講演を依頼されたのが最初だが、そこである学生が書いた感想文が目に留まったのがきっかけだった。

 「障害者と接する機会が普段ない」。その言葉に同法人で事務局長を務める柴田和生さん(52)は驚いた。「社会福祉を勉強している子でさえ、そうなのか」。施設の利用者に講演の継続的な開催を呼び掛け、以降県内や都内の大学や高校、中学校などに出向く。

 「福祉施設の暗く、悲しいというイメージが変わった」「障害に対する考えの甘さに気付いた」。そんな感想が寄せられ、柴田さんは「障害者へのまなざしに変化を感じ、活動に手応えも感じていた」と言う。事件はそんな頃に起きた。

 昨年7月26日、相模原市緑区の県立障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刺殺された。元施設職員の植松聖被告には、今なお強い差別意識があるとみられる。

 柴田さんは怒りをあらわにする。「事故などで、いつ重度障害を負うかは分からない。障害はそれだけ、身近なものだ」。そして、こうも語る。「障害について知る機会は全国的にまだまだ少ない。理解するきっかけを増やすために、同じように自らの口で語る仲間を全国に増やしたい」 利用者たちは学校での講演で事件について直接は触れていない。皆で話し合い「全体が暗くなってしまう」と決めたからだ。ただ、鈴木さんは事件後、新たな詞をノートに書き起こし、一部を講演で使った。

 〈理想通りになれなかったのは 誰のせいでもなく 神様が決めたこと(で) 現実に目をそらさずに 逃げず ただ、今日を生きよう〉 鈴木さんは、ときに注がれる周囲の目に「いてはいけない存在なのかな」と感じることもある。「でも、めげない」と同時に思う。

 「一日、一瞬が大事だと病気になって気付いた。毎日を当たり前だと思わないでほしい」。これからも言葉を紡いでいく。

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