金属行人(9月4日付)

 大阪・千日前のお好み焼き店は数多いだろうが、中井政嗣さんが昭和48年に始めた「千房」も有名。その中井さんの創業期の苦労を語った本をたまたま見た。実に面白い。お好み焼きのうまさはもちろんのこと、ファン=味方をつくることの大切さを、中井さんは力説する▼数あるエピソードの中で「新聞」との関係で面白いのは「絵馬」。重病の幼い子を救おうと募金活動を始める。その方法は、お客に絵馬を書いてもらい、入口の木につるす。絵馬を通じて、お客が店に設置した募金箱に募金する。これがお客に受けた▼聞き付けた新聞社が取材に来る。翌日、紙面に大きく、ユニークな募金活動として写真付きで紹介された。その日から、お客が殺到。中井さんのアイデアはマスメディアの力を借りて一気に拡散し、知名度は高まって店も軌道に乗ってくる▼各社の機能と情報拡散の力。それにアイデア。この組み合わせをうまく活用すれば思わぬ成果が得られる▼だが肝心なのは、その背景にある自社の底力、感謝の気持ち、前向きに取り組む心…それなしには機能もメディアも、あまり役に立たぬものらしい。中井さんの書から、そういうことが読み取れた。鉄の世界でも何か生かせないかな、とふと思った。

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