【赤ちゃんポストの跡】(上)心中頻発「子どもを救え」

30年前、施設長が開設

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「天使の宿」があった場所。この奥に「かけこみ寺」があった=8月、群馬県前橋市

 約30年前、群馬県に「天使の宿」と名付けられた「赤ちゃんポスト」があった。頻発していた親子心中から「子どもを救おう」と、児童養護施設の園長が個人的に開設。廃止までの6年間で少なくとも7人の赤ちゃんが預けられ、育てられたという。だが当時、市民の関心は薄く、法的な議論や行政の関与もなく、「赤ちゃんポスト」が全国的に知られることはなかった。現地を訪ねた。(森本修代)

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 「とにかく熱く、一生懸命な人だった」

 「天使の宿」を開設した故・品川博さん(1999年没、83歳)のことをよく知る松橋美明[まつはしよしあき]さん(67)はそう表現する。

 品川さんの原点は戦災孤児の救済だった。孤児5人とともに1947年、31歳で同県大胡[おおご]町(現前橋市)に児童養護施設を開設。松橋さんはこの施設で40年以上働いた。

 借金などを苦にした親により、子どもの命が奪われる心中の多発に心を痛めていた品川さんは85年、同施設で、追い詰められた人の受け入れを始める。取り立てに追われている人や、家庭内暴力に悩む女性たちが駆け込んできた。「困っている人に対して、来る者拒まずという姿勢だった」と松橋さん。

 ところが、86年6月、施設の玄関先に乳児が置き去りにされる事件が発生。70歳だった品川さんは大きな衝撃を受け、安全に子どもを置くことができる「乳幼児預かり施設」づくりを決意する。施設の一角に6畳1間のプレハブを設け、「天使の宿」と名付けた。子どもを置いたら電気をつけて知らせる仕組みだ。地元の上毛新聞は9月18日付で、「捨てられた子に愛の手」と社会面トップで大きく報じている。

 理念に賛同した企業の経営者から3億円の寄付を受け、施設から500メートルほどの場所に鉄筋4階建ての「かけこみ寺」を建設。運営財団を組織した。「天使の宿」も近くに移した。

 「かけこみ寺」では、天使の宿に置かれた赤ちゃんや、助けを求めて来た人たちが共同生活をした。ボランティアで「かけこみ寺」に住み込んだ成相[なりあい]八千代さん(89)によると、天使の宿に置かれた赤ちゃんは、少なくとも7人。助けを求めて来た女性たちが面倒を見ていたという。

 「命を救いたい」と走り続ける品川さんの思いは理解しながらも、施設職員らの間には「赤ちゃんを黙って置いていける施設は、子どもにとって本当に良い施設なのか」との疑問もあったという。

 品川さんは、全国各地の児童養護施設にも「天使の宿」と同様の施設を設置するよう呼び掛けたが、取り組む所はなかった。

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