愛は心の在り方…世界三大映画祭制覇の奇才がつむぐ壮大な逃避行劇

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愛の逃避行劇がたどるエンディングに鳥肌! - (C) 2016 LOVE AND WAR LLC

 映画『アンダーグラウンド』でカンヌ国際映画祭の最高賞・パルムドールに輝くなど、世界三大映画祭を制覇しているエミール・クストリッツァ監督が、9年ぶりとなる新作映画『オン・ザ・ミルキー・ロード』に込めた想いなどについて語った。

 監督自らが主演を務め、イタリアを代表する女優モニカ・ベルッチをヒロインに迎えた本作。戦争中のとある村で、心優しい男コスタ(クストリッツァ)は前線の兵士たちにミルクを届ける仕事をしていたが、謎めいた女性(モニカ)と出会い、情熱的な愛ゆえに危険な冒険に身を投じていく……。

 実に9年ぶりとなった新作では、監督のはじめてづくしだ。「初めてデジタルで撮影した映画なんだ。CGI(Computer Generated Imagery)のほうが簡単だと思って飛び込んだけど、実際にはCGIのほうが難しかった」と話しだすクストリッツァ監督。「制作に3年かかった。そのうち2年はCGIに費やしたと思う」と渋めの表情。

 CGIでの作業は、自他ともに認めるほど、画作りの細部にまでこだわる性格が災いをもたらしていたようで、「私は自分を“空間の監督”だと思っているんだ。空間がなければ、私の演出はなんの価値も持たない。だからこそ、CGIを使うのが難しかったんだ。現実と虚構の間を行ったり来たりするのが難しかったんだよ。それに今回は俳優もしていたから。挑戦してみて、チャップリンに魅了されたよ。どうやって俳優と監督を両立していたのかなって」と振り返る。

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クマにオレンジ口渡し! - (C) 2016 LOVE AND WAR LLC

 そんな本作にはクストリッツァ監督作でおなじみの動物たちがたくさん登場し、まるで俳優顔負けと言わんばかりの“演技”でユーモアを添えている。あまりの完璧さに、ところどころCGIなのでは? と疑いたくなるところもあるが、クストリッツァ監督は「ガチョウが血に飛び込むのはCGIじゃない。CGIで手を加えたのは、血の色とかそういったところであって、ガチョウはリアルだ。ハエがガチョウにとまるのも、ガチョウを並べればやってくるさ」ときっぱり。中でも、主人公が口移しでクマにオレンジを分け与えるシーンはかなりの衝撃だが、そのクマは小さい時から手なづけていたのだという(!)。また、主人公の相棒としてハヤブサを登場させていなかった前半部分の撮り直しも行ったそうで、「前半を撮りなおしたんだ。ハヤブサを出していなかったから。ハヤブサなしのままだったら、この映画がどれだけ絶望的だったか」とかなりのこだわりっぷりを見せていた。

 動物たちに囲まれユーモアにあふれる日常がある一方で、戦争に対するまなざしもストーリーを貫いている。「今日の状況を見てみれば、戦争が当たり前のことになってしまうものなのだとわかる。例えばどこかで悲劇が起きたとして、最初は新聞の一面に載るけれど、5日後には次のページになっている。戦争は今日において生活の尺度になってしまっていて、人々は同情心を失くしてしまっていると思う。奇妙な戦争という行為が、不運にも私たちに最大の技術的躍進を遂げさせた。インターネットをはじめとするすべてのマシーンは戦争から誕生した。この作品を通して、そういった人類の宿命と向き合いたかった」。

 そして主人公がたどる数奇な運命は、何とも言えない壮大な景観へと観客を導いていく。「人生のパラドックスというか。世界中で失われている、ある種の理想主義を盛り込んだ。男女の関係において、愛は心の在り方であるというような。衝動的に変化していく過程だけじゃなく、苦しみを引き延ばしたかった。でももちろん苦しみだけではなく、人々の中にある強さも見せたかった」。そんな想いが込められたエンディングにインスパイアされて、さかのぼるように物語がつむがれていったというだけあって、ラストシーンにはただただ息をのむばかりだ。(編集部・石神恵美子)

映画『オン・ザ・ミルキー・ロード』は9月15日よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開

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