【ニュースの周辺】〈独ティッセンと印タタ、来年欧州事業統合〉粗鋼生産、世界10位に タタ、インドで能力倍増

 ドイツ高炉最大手のティッセン・クルップ(TK)とインド高炉大手のタタ製鉄が欧州鉄鋼事業を統合することで基本合意した。エレベーターなど機械系事業に注力したいTKと、本拠の印事業に集中したいタタ。双方の「手放したかった事業」を持ち寄る再編がついに動きだす。

 統合するTKの欧州鉄鋼事業は鋼材出荷が1150万トン、EBITDA(利払・税引・償却前利益)で8億6600万ユーロ。タタ・スチール・ヨーロッパは鋼材出荷が980万トン、EBITDAで6億9900万ユーロとなっている。

 1990年代には世界のトップ20に統合会社の源流となる独ティッセン、英国のブリティッシュ・スチール、オランダのホーゴベンスの3社がランクインしていた時期もあった。以降は中国勢の台頭で欧州ミルのプレゼンスは徐々に低下してきたが、統合会社「ティッセンクルップ・タタ・スチール」の粗鋼年産は2400万トン程度になるものと見込まれ、世界10位前後に浮上する見通しだ。

 統合会社の特色は、薄板に特化していることだ。欧州の鉄鋼最大手は世界トップでもあるアルセロール・ミッタル(AM)で、買収予定のイタリア高炉大手、イルバを含め欧州での薄板生産量は3500万トン近く。ティッセンクルップ・タタ・スチールは2100万トン程度で、AMに次ぐ2位の地位を固める。

 他の欧州ミルは、オーストリアのフェストアルピーネ、スウェーデンのSSAB、独ザルツギッター、USスチールのスロバキア事業などがあるが、いずれも400万~500万トン程度。欧州鉄鋼業はAMと「TKタタ」の2大勢力時代を迎えることになる。

 再編後、タタはインドでの能力拡大を急ぐ方針だ。16年度の印事業の粗鋼生産は1169万トンと過去最高だったが、タタが欧州事業で苦戦する間に、ライバルのJSWスチールは印国内での増強を推進。16年度は1580万トンを造っており、タタから印民営最大手の座を奪って久しい。タタは今後5年間で能力を倍増させる計画で、カリンガナガール製鉄所(オリッサ州)の拡張を進めていくことになりそうだ。

 一方、TKは米国事業に続き今月にはブラジル高炉のアトランティコ製鉄(CSA)を売却し、米州鉄鋼事業からの撤退が完了。欧州鉄鋼事業もバランスシートから切り離すことになる。本体で手掛ける素材系事業は、商社部門を含むマテリアル・サービシズ事業のみとなり、機械系事業を中心とした「転身」にめどが付くことになる。(黒澤 広之)

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