高卒・大卒で逆転も?生涯賃金と学歴の関係性

生涯賃金で見ると、重要なのは勤める会社の規模。データで見た場合ですが、安定感ある大企業に勤めることができれば、大卒で中小企業などに入るよりも生涯賃金が高くなる逆転現象も起こりえます。

生涯賃金と学歴の関係性は?

生涯賃金で見ると、重要なのは学歴よりも就職先の企業がどうなのかということになりそうです。つまり出口戦略です。

ただし、労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2019」(2020年11月現在最新調査結果)を見ると、2017年の時点で、入社した企業で定年まで勤め続ける「標準労働者」の場合、学歴が高くなるにつれ生涯賃金も高くなっています。

学歴が高いほど就業年数は短くなりますが、賃金水準はむしろ高い分、結果として高学歴ほど生涯賃金が高くなります。

2017年の生涯賃金

<男性>

高卒:2億5500万円(42年間)

大卒・大学院卒:2億8970万円(38年間)

大卒のほうが+3470万円

<女性>

高卒:1億8540万円(42年間)

大卒・大学院卒:2億4660万円(38年間)

大卒のほうが+6120万円

高卒と大卒の生涯賃金の差は、男性で3470万円、女性で6120万円もあります。言い換えれば、これが「学歴」を数値換算した価値ともいえます。

学費のかけ方で高卒と大卒の生涯賃金差が縮小

高卒と大卒の生涯賃金の差は、前述の通り、男性で3470万円、女性で6120万円あるため、学費のかけ方によっては生涯賃金の差が縮小することはあっても、逆転まではないのではないでしょうか。

受験準備から大学卒業までの学費は、私立理系・自宅外で約1200万円、国立・自宅で約500万円かかります。受験だけでなく、塾などにかけてきた費用を累計すると、大卒と高卒の生涯賃金の差はさらに縮小することでしょう。しかし、よほどでない限りは、学費による逆転まではないといえそうです。

大企業に勤めれば高卒でも大卒を超える?

ただし、就職した企業の規模によっては、逆転はありえます。企業の規模との関係で見た場合、規模が大きくなるほど生涯賃金も高くなり、規模が小さい企業ほど逆に生涯賃金は低くなります。

「ユースフル労働統計2019」のデータでは、例えば男性の大学卒の場合、企業規模1000人以上の大企業では3億1880万円なのに対し、企業規模100~999人では2億5660万円、企業規模10~99人では2億2490万円となり、大きな差となっています(同一企業型、以下同)。

一方、高卒で企業規模1000人以上の大企業に就職できた場合は、2億8160万円、企業規模100~999人では2億3550万円、10~99人では2億730万円となっています。

この数字を見てもわかりますが、高卒で企業規模1000人以上の大企業に就職した場合の生涯賃金は2億8160万円なのに対し、大卒であっても、100~999人規模の企業に就職した場合は2億5660万円、10~99人規模の場合は約2億2490万円と、いずれも高卒で大企業に就職したケースを下回ります。

女性の場合は、1000人以上の大企業でも、女性が高卒で働く際の生涯賃金は2億520万円と低いため、100~999人の規模の企業に勤めた際の大卒の生涯賃金2億2250万円が下回ることはありません。ただし、10~99人規模になると、1億9840万円と低いため、下回ります。

あくまでも過去のデータで見た場合の傾向ですが、やはり大企業に勤めるのが最も生涯賃金が高くなりそうです。もちろん、ベンチャー企業が大化けをして急成長する場合もあるでしょう。

教育投資の出口戦略として、「就職先」は重要なカギを握っているといえそうです。

大卒でも8%が不安定雇用

文部科学省「学校基本調査(2019年)」(2020年1月現在最新調査結果)によると、2019年5月1日現在、直前の3月に大学を卒業した約57万人の中で、「正規の職員等でない者」「一時的な仕事に就いた者」「進学も就職もしていない者」の合計は約4.6万人います。安定的な雇用に就いていない者の割合は約8.1%。

不安定な雇用にはフリーターも含まれます。フリーターとは、15~34歳の若者(学生と主婦を除く)のうち、パート・アルバイト・派遣等で正社員でない人や、働く意志があるのに無職の人のことを指します。新卒時にフリーターだった人の半数以上はその後もフリーターを続ける、といわれています。

ちなみに、パート・アルバイトの場合、年収は200万円未満が多く、年齢層が上がっても賃金は20代前半からほぼ横ばいです。仮に200万円で計算しても、200万円×38年=7600万円と、生涯賃金は1億円にも満たなくなります。大卒の男性が、正社員で働く場合と比べ2億円以上の差になります。

フリーターから起業家やアーティスト、芸人になったり、資格を取って独立・起業し、大逆転することもあるかもしれません。決してネガティブなものだけではないですが、可能性が大きいとはいえないでしょう。また、安易にフリーターの道を選ぶことで、生涯賃金が低い場合は、親などに負担をかけることにもなりかねません。

子どもの教育の出口戦略が、益々重要になっています。正社員として就職する、そうでなくても安定した生業をもつまでは、しっかり見届けなくてはならないようです。

学歴よりもキャリアプランありきの時代

あくまでも現時点の傾向ですが、学歴を問わず大企業に就職し、勤めあげることが生涯年収を上げることになります。しかし、今どきは転職も当たり前で、同じ会社で勤めあげること自体が珍しくなっています。スキルアップ・収入アップにつながる転職が、未来を変えることになります。

学歴が就職のパスポートになった時代は終わっているのかもしれません。偏差値の高さで大学を選ぶのではなく、どんな仕事をしたいのかといったキャリアプランを中学・高校時代にある程度固めて、そのための手段として進学をする、という順番で考える時代なのかもしれません。

子ども自身の「本当にやりたいこと」を見定めて、その道へ進めるようにサポートすることが、親の役割になりつつあるようです。

(文:豊田 眞弓(マネーガイド))

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