日本でおなじみユニホームスポンサー、MLBでは反発の可能性がある理由は

米国プロスポーツリーグで最も長い歴史を誇るMLB(メジャーリーグベースボール)では、創設から100年以上経つ球団、そして球場が存在する。100年以上の歴史を持つ球団はその地域の一部となっており、選手たちが身につけるユニホームにも同様の歴史がある。

ニックネームユニフォームを身に着けるマーリンズ・イチロー【写真:Getty Images】

アメリカでは企業以上に地元との関係性を重視

 米国プロスポーツリーグで最も長い歴史を誇るMLB(メジャーリーグベースボール)では、創設から100年以上経つ球団、そして球場が存在する。100年以上の歴史を持つ球団はその地域の一部となっており、選手たちが身につけるユニホームにも同様の歴史がある。

 北米のプロバスケットボールリーグNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)の中でも高い人気を誇るゴールデンステート・ウォリアーズは、今季から日本企業の「楽天」とスポンサー契約を結んだ。これにより、ユニホームの左胸には「Rakuten」の名が刻まれる。この流れに伴い、MLBのユニホームにも胸スポンサーが付く可能性は今後あるのだろうか。

 パ・リーグでは2000年からユニホームにスポンサー企業が姿を現すようになり、ホーム用だけでなく、ビジター用ユニホームにも使用が認められている。元々企業名が表に出ていたプロ野球の球団からすれば、親会社との関係上、スポンサーに制限はできるが、ユニホームに企業スポンサーが付くことには、さほど抵抗がないかもしれない。それでも全ての球団が胸スポンサーを取り入れているわけではなく、袖や太ももに位置している場合もある。

 一方、MLBでは“地元”を大切にという考えを球団とファンが一貫して意識している。そのためビジネスに走っていると捉えかねない、ユニホームスポンサーの導入は理解を得ることが難しい。地元に根付いた企業がスポンサー枠を購入するのであれば両者にとってプラスになるが、海外の企業がスポンサーとなれば、反発があっても不思議ではない。つまり、企業がユニホーム上でメッセージを放つことは容易ではないのだ。

ユニホームスポンサー導入で球団「格差」が助長?

 MLBではビジネス要素をユニホームに設けない分、ユニホームの色を変化させることで、様々なメッセージを伝えようとしている。例えば、先月開催されたニックネーム企画のような次世代に向けた取り組みはカラフルに。母の日に開催される乳がん撲滅を意図した取り組みでは女性をイメージしたピンクへと変化させる。各球団は偉大なる関係者の死を称える際にもユニホームに特別なパッチをつけるなど、リーグ、そして球団が本当に大切にしていることを表現するためにスペースを空けているような状態だ。

 実はMLBがスポンサーを取り入れるのに躊躇する要因として考えられる例が一つある。2004年、MLBはコロンビアピクチャーズとの試みで、夏に公開予定されていた映画「スパイダーマン2」の宣伝としてファースト、セカンド、サードの各ベースにロゴを掲載する取り組みを進めていた。だが、この試みが公になった途端にファンからは強い反対の声が上がり、結果的にこの取り組みを白紙にせざるを得なくなった。伝統と歴史が害されることに強い反発が起こったのだ。

 そして、もう一つ懸念される点としては、胸スポンサーを取り入れて各球団にユニホームスポンサーの権限を与えた場合、広がる可能性がある「格差」だ。地元局との放映権は各球団に委ねられているため、大都市に属すビッグマーケットの球団と、そこまで規模の大きくない本拠地に属すスモールマーケットの球団とでは、収入に格差が生まれている。そこでユニホームスポンサーまでも各球団が権限を握れば、より全米での露出機会が期待できるビッグマーケットの球団に、さらに資金が集中する可能性がある。

 地元企業との契約に限るなど、いろいろな制約を付けてこそ成立する可能性もあるが、これまでの歴史に傷を付けかねないリスクの方が大きい。だが、これまでもMLBをはじめとするプロスポーツビジネスは価値を高めるために新たな取り組みを仕掛けてきた。胸スポンサー導入の流れが大きくなればなるほど、MLBだけではなく他に発展していく可能性がある。日本の野球界においてもその価値をどう考えていくのか、今後の流れに注目していきたい。(「パ・リーグ インサイト」新川諒)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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