【ニュースの周辺】〈東海カーボンの米電極子会社買収〉悲願の米国進出、需給環境の変化が後押し 生産拠点、日米欧3極に

 電炉用黒鉛電極大手、東海カーボンが世界2位のSGLカーボンの米国子会社の買収を決めた背景には、電極の有望市場である米国への進出が悲願だったことに加え、今年に入ってからの電極市場の需給環境の変化がある。昭和電工のSGL買収を巡る米独禁当局の審査がきっかけになったとはいえ、東海にとってはコアと位置づける電極事業の発展には、米国進出が欠かせないとの判断が働いた形だ。

 東海カーボンは、電極の生産拠点を日本(防府、滋賀)とドイツに持つが、有望市場である米国は主に日本からの輸出で対応してきた。米国は粗鋼生産に占める電炉鋼比率が66%と世界で最も高い。電極消費原単位(粗鋼1トン当たり)を3キログラムとすると、電極の需要量は年間15万~16万トンと、日本のほぼ2倍にのぼる。

 東海は国内で製造する電極の5割強を海外へ輸出。うち4割強が米国向けだ。日本で製造する電極は品質面で評価が高いものの、米市場で拡販していくには現地生産を通じたコスト競争力の強化が有効で、これまでも米国への進出を検討してきた。

 独SGLが電極事業の売却を表明した時も買収を検討。ただ、SGLの生産拠点は北米のほか、欧州、アジアなど世界各地にあり、米事業だけを取得するのは難しかった。今回、米独禁当局の審査をきっかけに、昭和電工が買収対象から米事業を切り離すことを決めたことで、東海にとっては再び米国進出へのチャンスが巡ってきたといえる。

 背中をさらに押したのが、電極市場の急変だ。電炉用電極の市場はここ数年、供給過剰が慢性化していたが、今年に入って需給環境は一変。国際市場のスポット価格も急速に値上がりした。中国の「地条鋼」規制によって、同国内で電炉生産が増加したことや、黒鉛電極の生産設備をそのまま使えるリチウムイオン電池・負極材向けの需要が拡大したことなどが需要増の背景にあり、今の需給環境は「当面続く公算が大きい」(東海カーボンの長坂社長)。こうした環境変化が100億円を超える投資に踏み切らせたといえる。

 東海カーボンはここ数年で、日本、ドイツでの電極生産能力を減らし、負極材向けの供給を増やしてきた。この戦略は今後も継続するが、進出する米国では「電極の需要動向によっては生産増も検討したい」(長坂社長)としており、電極事業の拡大・強化も視野に入れる。

© 株式会社鉄鋼新聞社